人手不足、過重労働、低賃金――介護業界についてネガティブイメージを持っている人は少なくありません。介護があまり身近でない若い世代にとっては尚更イメージが先行しがちです。

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介護施設にはじめて訪れた筆者
 全労連による2019年の調査によれば、介護士の平均年齢は44.8歳。20代の占める割合はたったの10.9%。厚生労働省によれば介護人材は2025年度までに55万人不足とのこと。若者が寄り付かない業界になっているのは明らかですが、いずれは親や自分自身も関わる問題であり、超高齢社会を迎えるなかで誰しも他人事ではありません。

 介護ってどんなものなんだろう。介護業界ってどんな環境なんだろう。そんな素朴な疑問や興味をきっかけに、介護施設で短時間だけ働けるツールがあります。それが「Sketter(スケッター)」という介護版スキルシェアサービスです。介護業界の人手不足解消の糸口として注目されています。

 今回、このスケッターを通じて仕事を体験してきました。介護施設に一度も足を踏み入れたことがない筆者は、どんな現場なのか興味津々です。

資格はいらない?

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スケッターの仕事一覧 ※画像は公式サイトより
 とはいっても、介護の仕事には資格が必要なのでは? と思った人もいるはず。

 実は、介護施設の仕事は幅広く、資格不要なものも多数あるのです。サイトの仕事一覧にある、清掃、傾聴、配膳、入浴サポート、レクリエーションの相手などは資格がなくても大丈夫。なかには「自分史の聞き書き」というちょっと変わったものもあります。

 それらをスケッターが担うことで現場の負担が緩和され、従業員が専門性の高い業務に集中できるというわけです。

 また、介護業界への間口を広げるべく、応募のハードルを極力下げてあるのが特徴です。数時間単位の業務を一日から応募可能で、申し込みはWEB上で完結。あとは施設の担当者と確認の連絡を取り、当日現地へ向かえばOKです。謝礼金ももらえます。

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リラックスした雰囲気でイメージとはだいぶ違っていた
 今回、私が訪れたのは東京都目黒区にあるデイサービス。仕事内容は散歩の同行とカフェのお手伝いです。

 施設内に入ると、15名ほどのご年配の方が新聞を読んだり、談笑したりして各々くつろいでいました。スタッフはアロハシャツを着用し、リラックスした雰囲気です。病院のような無機質な場と思っていたのですが、誤解していました。

自分が元気づけられる

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見守りながら散歩。人手は多いほど安全になる
 まずは散歩の同行です。近所の公園まで一緒に移動します。30分くらい歩くのかと思ったら、徒歩2分の距離。

 施設長の岡村純さん曰く、「ほんの少しの距離ですが、利用者が死角で倒れていたりすることもあります。見守り役は多いほうがいいんです」とのこと。危険はすぐそばにあるようです。

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楽しんでもらえるとこちらも嬉しい
 公園に着くと、シャボン玉で遊びました。シャボン玉をつくると、利用者の方は手を仰ぎながら「わ~すごい! きれい!」と子供のように喜んでくれます。心から楽しんでいる様子に、私のほうが元気をもらいました。

単純な仕事と思いきや…?

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仕事のやり方だけでなく意義も教えてもらえる
 施設に戻ると、次はカフェサービスの仕事です。岡村さんから、オーダーの取り方を教わります。コーヒー、紅茶、緑茶、お酢のドリンクなど、カフェメニューは充実。これには理由があるそうです。

「身体を動かせないと、何をするにも生活の幅が狭まってきます。決められたものを提供するのではなく、少しでも生活に豊さを感じてもらうために、いろんなメニューを用意して自分で選んでもらえるようにしています」

 利用者思いのサービスに、思わずうなります。仕事の意義まで教わると、介護業界への見え方も変わってきます。

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カフェサービスを通じて自然な関わりが生まれる
 カフェサービスは「コーヒーお持ちしました」「ありがとう」といった会話が自然と生まれます。実はこの仕事には、利用者の人と接し方に困らないようにコミュニケーションを取りやすくする意図が込められていました。

 利用者の方から「あなたこないだも来てたわよね? お歌を歌ってくれたじゃない?」と勘違いされてちょっと戸惑ったり、「かき氷いちご味、懐かしいわぁ。昔はいちご味しかなかったのよ」という言葉から恵まれたいまの生活を思ったり、普段あまり接する機会がないご年配の方の視点は新鮮でした。

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「え? ひのまち? エナジー?」と何度も聞き返してしまったけど、曲が判明してよかった
 ひ孫もいるというおばあちゃん。体調の都合で話し方がたどたどしくなってしまうようですが、なんとか言葉を聞き取ります。職場で出会ったという旦那さんには、先立たれてしまったそう。しんみりしてしまいました。そこで質問してみました。

「結婚で大事なことはなんでしょうか?」
「……だきょう」

 これには笑ってしまいました。そして、旦那さんとの思い出の歌であるという昭和歌謡「湯の町エレジー(近江俊郎)」をスマートフォンで流して一緒に鑑賞。するとおばあちゃんが涙ぐんでいるのがわかり、私も少しもらい泣きしてしまいました。

 ほかにしたことといえば、皿洗いや移動の手助け、ストレッチ運動の掛け声などで、自分ができることは小さなことだったかもしれません。それでも受け入れてくれる環境のおかげで役割以上の経験を得ることができました。3時間のお手伝いを終え、最後は謝礼金3500円を受けとりました。

はじめの印象は「怪しい」

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アレッジ・ワークス目黒三田 施設長の岡村純さん
 スケッターを積極的に活用している施設長の岡村さんですが、はじめの印象は「怪しい」だったそうです。

「氏名や病状など個人情報も多い環境で、どんな人がわからない人を働かせて大丈夫なのかという疑問がありました。その点をスケッターの社長に直接伺った上で、試しに利用してみました。介護業界に興味がある人が参加しているので、徐々に不安は解消されました」

 さらに、スケッターを利用して3カ月で、週1のパートなども含む6名の採用が決まったといいます。しかも人材会社で発生するような紹介手数料はかかりません。

「採用につながっていることが一番助かっています。求人広告も出していますが、それなりの金額を払っているのに応募の連絡は月に1度あるかないか。スケッターは、月額2万円で月30人ほどの人と接点があるので、出会える件数は圧倒的に多いです。

 また、高校生大学生も参加して『将来こういう施設があったら働いてみたい』というコメントを残してくれています。介護業界の高齢化で働き手がいなくなってしまう社会の課題もあるので、“介護のウーバーイーツ”のような気軽なかたちでも、多くの人が接点を持ってもらえたらと思います」

登録者の8割が異業種

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2025年には、高齢者の人口が30%を超えるといわれている
 2019年2月にリリースして半年。スケッターを運営する株式会社プラスロボの鈴木亮平さんにその感触を聞きました。

「これまで介護に関わったことのない人が、介護以外の仕事であれば働きたいというのがわかってきました。というのも、スケッターの登録者の8割が介護以外の異業種。介護業界に就職するのはハードルが高くても、自分のできる範囲であれば関わりたいという人がいて、月100ペースで登録者が増えています」

 まさに、介護業界の人手不足に一石を投じるサービス。しかし、人数が増えてくると登録者の質も気になるところです。

「スケッターは、規約を設けるほかに、シェアリングエコノミーに倣って相互評価システムを採用しています。登録者、施設側ともに評価が公開されていて、秩序をつくることでトラブルを防止しています。登録者の星評価が3つ以上なければ参加できない施設もあります」

 スケッターは施設側のメリットに偏ることなく、登録者側にも社会経験や副業になる点が、良循環を生み出せている所以でしょう。個人的には、介護施設の現場を自分の目で見れたことが一番の収穫でした。1つの施設しか見ていないのであくまでも一例に過ぎないかもしれませんが、この経験をきっかけに、派生していく関心や行動は大いにあると感じます。

 厚生労働省は、このままだと介護人材が2025年度までに55万人不足すると発表し、対策として就学資金の援助や処遇の改善に取り組んでいます。介護人材を増やすことも重要ですが、スケッターは、それ以上に社会全体で高齢者を支えるという理想形に近いのではないでしょうか。

<取材・文・撮影/ツマミ具依>

【ツマミ具依】

企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_

介護施設にはじめて訪れた筆者