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大きな飛躍 共通のフィール

では、こうした新たなカテゴリーが必要なほど、F1とP1の間には大きな飛躍があったのだろうか?

ひと言で言えば、答えは「イエス」だ。

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P1とセナが同じ血脈にあることはキャビンを見れば明らかだが、セナのレーシーでカーボンファイバー製シートはよりサーキット向きのモデルであることを主張する。

誤解の無いように言っておくと、毎日乗るのであれば、P1のようなハイブリッドパワートレインよりも、F1のエンジンを選ぶに違いない。だが、だからと言ってP1が見事なモデルではないということにはならないのであり、このクルマにはF1にはない能力が備わっている。

まずはブランドやカーボンモノコックのボディ、ガルウイング式ドアといったもの以外で、この2台に共通するものを見てみよう。

20年もの隔たりがこの2台の間には存在しており、もはやウォーキングにはF1開発に携わった人間などほとんど残っていないにもかかわらず、なぜかこの2台には共通のフィールが感じられる。

そしてそのフィールキャビンでも感じることができる。

P1のほうがはるかに複雑なモデルであり、パワートレインやシャシーのドライビングモード設定、パワーブーストやDRSボタンなどがキャビンを占領しているにもかかわらず、このクルマも依然としてまるで自宅のリビングで寛いでいるかのように感じさせてくれるのだ。

P1のシャシーには、もはやエンジンをサポートする役割が与えられていないのはF1と違う点だ。エンジンとシャシーはお互いが対等で不可分な存在として、いまもあまり目にすることのない、類まれな能力を発揮している。

技術の進歩

ハイブリッドシステムがターボエンジンのトルクの谷を埋めることで、ストレートでのP1はF1より速く感じる。だが、エンジンサウンドはF1ほど素晴らしいものではなく、ハッキリ言えば耳障りに感じるほどだが、このクルマの驚異的な加速力には相応しいのかも知れない。

だが、F1ではコーナーへの進入スピードとブレーキングに慎重にならざるを得ないようなドライバーでも、P1であればまるでレーシングカーのように扱うことができるだろう。

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マクラーレン歴代ハイパーカー比較試乗

300km/h以上のスピードからでもハードなブレーキングを行い、まるでコートを脱ぎ去るかのように軽々とカーボンブレーキが160km/hほど減速するのを感じつつ、そのまま強くブレーキペダルを踏み込んだままコーナーへと飛び込んでいくことも可能だ。

もしF1でこんな運転をすれば、コースアウトは間違いないだろう。はるかに高いグリップレベルを発揮するにもかかわらず、F1のように慎重に限界を避ける必要はなく、P1であれば限界を探りつつ楽しむことができるのだ。

そのパフォーマンスに相応しいダウンフォースとアクティブエアロ、(比較的)最新のタイヤ、そして、世界でもっとも洗練されたサスペンションシステムのひとつを備えたP1であれば、はるかに簡単にF1よりも速く走らせることができる。

そして、こうした事実は、すべての進歩が常に正しい方向に進んでいるわけではないということを、F1が証明していると主張する多くのひとびとに対する強力な反論となるだろう。

公道のセナ 檻に繋がれた野獣

だが、いかにして過去25年間で、マクラーレンハイパーカーに対する指針が発展してきたかを示しているのがセナだ。

F1は純粋なロードゴーイングモデルであり、つねに公道が意識されていた。P1では公道とサーキットの間の微妙なバランスを見極め、そのサスペンションはつねにその双方で見事な能力を発揮している。

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P1とセナが同じ血脈にあることはキャビンを見れば明らかだが、セナのレーシーでカーボンファイバー製シートはよりサーキット向きのモデルであることを主張する。

ではセナは?

以前公道で長時間セナを試したことがあったが、非常にスリリングな体験だった。そして同じようにハードな体験でもあった。セナは非常にうるさく、まったく快適性など備えていない。

例えスロットルを思い切り踏み込んだとしても、非常に優れたトラクションコントロールがすぐに作動し、エンジンパワーがカットされたことを伝えてくるため、セナが本来どんな反応を見せるのか、ドライバーが知ることはない。

もちろん、トラクションコントロールをオフにすることもできるが、それには十分な覚悟が必要となる。

なによりも、他の2台とは違い可能な限り速く走らせないのであれば、セナのステアリングを握る意味など無いのであり、公道上でのセナはまるで檻に繋がれた野獣のように感じられる。

そして、そんな運転を公道上で試すことなど不可能だ。

サーキットのセナ 異次元の存在

だが、サーキットでは?

驚異的だ。セナがあまりにも素晴らしために、P1のことを滑らかさが足りないとは言わないまでも、古臭いモデルだと感じさせる。まるで本物のレーシングカーか、公道走行可能なタイヤを履いたレーシングカーのようだ。

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ニュルブルクリンクでセナがF1をどれほど引き離すことが出来るかというのは興味深い点だ。おそらく1分以上のタイム差がつくだろう。登場順の2台だが、これがサーキットでの能力を示しているわけではない。

このクルマの高速コーナーでの落ち着きは、これまで運転したことのあるどんなクルマとも異なるレベルに達している。そして、その高速での正確さとスピード、そしてフィールは見事としか言いようがない。

もしセナになにか問題があるとすれば、それは最新技術を使ったピレリ・トロフェオRでさえ、このクルマのパフォーマンスには物足りないということだろう。

高速コーナーで800kgものダウンフォースによって路面へと押さえつけられる感覚は、P1でさえ味わうことの出来ない異次元のものであり非常に魅力的だ。

低速ではメカニカルグリップだけが頼りであり、アンダーステアにはやや注意が必要となるが、P1よりもF1に近い重量と、この2台よりも高いグリップを備えたセナであれば、素晴らしいドライビングの楽しみを味わうことができる。

そして、このクルマはそんなドライビングの楽しみを、驚くほど容易に楽しませてくれるのだ。

「向き不向き」のような評価は好きではないが、生まれた時代だけでなく、コンセプトも異なるこの3台に順位を付けるなど不遜ではないだろうか。

F1が一世代前の自動車世界のアイコンとしての地位を確立した一方で、セナも、P1ですら未だ歴史にその名を刻むことは出来ていない。だが、ロードゴーイングモデルからサーキットモデルへの歩みは明らかだ。

だからこそ、次に登場するマクラーレンアルティメットシリーズが、F1よりもさらに豪華で公道向きのモデルとなるスピードテールであることに興味は尽きない。

このモデルによってF1から始まった歴史が完成することになるだろう。

各車のスペック

マクラーレンF1

エンジン:6064cc V12
パワー:636ps/7500rpm
トルク:62.9kg-m/5000rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乾燥重量:1164kg
パワーウェイトレシオ:547ps/t
トルクウェイトレシオ:54.1kg-m/t
0-100km/h加速:3.2秒
最高速:386km/h

マクラーレンP1

エンジン:3799cc V8ターボ+電気モーター
パワー:916ps/7300rpm
トルク:91.8kg-m/4000rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチオートマティック
乾燥重量:1490kg
パワーウェイトレシオ:615ps/t
トルクウェイトレシオ:61.7kg-m/t
0-100km/h加速:2.8秒
最高速:349km/h

マクラーレン・セナ

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F1は依然としてマクラーレンに世界記録のタイトルをもたらしている。

エンジン:3994cc V8ターボ
パワー:800ps/7250rpm
トルク:81.6kg-m/5500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチオートマティック
乾燥重量:1314kg
パワーウェイトレシオ:609ps/t
トルクウェイトレシオ:62.1kg-m/t
0-100km/h加速:3.1秒
最高速:335km/h

番外編:歴史は繰り返す?

少なくとも記憶にある限りでF1のことをハイパーカーと呼んだものはいない。

それは、このまったく奇妙な呼び名が、たとえ当時存在していたとしても、まったく馴染みのないものだったからだ。

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F1の公式ロードテストを行ったのは英国版AUTOCARだけだった。

それでも振り返ってみれば、このクルマが初のハイパーカーだったのだろうか?

F1に先立つこと1年、ロードゴーイングモデルのパフォーマンスを飛躍的に高めることに成功したXJ220に、この呼び方が使われていたかも知れないが、おそらくはF1が史上初のハイパーカーだ。

P1やラ・フェラーリポルシェ918といったモデルによって、公道モデルのパフォーマンスがF1のレベルにまでふたたび到達するには、20年近くの歳月が必要だった。

だが、ふたたび大きな飛躍を見ることになりそうだ。

F1登場から25年、想像することすら難しいが、アストン マーティンヴァルキリーメルセデス・ベンツ・プロジェクトワンが同じように飛躍的な進歩を見せるかも知れない。もちろんF1を創り出したゴードン・マーレーが手掛けるT50のことも忘れるわけにはいかない。

そしてEVハイパーカーだ。リマック・コンセプト2にピニンファリーナ・バティスタ、ロータスエヴァイヤといった名がすぐにあがるだろう。

こうしたモデルでは、内燃機関のサウンドやフィールの替わりに、天井知らずのパワーが与えられることになる。

公道上で味わう2000ps以上のパワーというのはどんな感じだろう。そして、そんなパワーを実際に使うことのできるシチュエーションなどあるのだろうか?


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