3泊4日の日程で、技術や体力などを点数で競う登山競技。今年のインターハイでは、静岡県立富士高等学校が3年ぶりに女子の頂点に立ちました。最終日まで集中力を絶やさず優勝をもぎとった彼女たちは、どのような努力を重ねてきたのでしょうか。金指澪奈さん(3年)、佐野真紀さん(3年)、山口桃佳さん(3年)、竹内夏希さん(2年)、そして顧問の諸戸明先生にお話を伺いました。

0.1ポイント差の敗戦をバネに、準備を重ねた

【選手インタビュー】

―― 優勝した感想をお聞かせください。

金指:やっぱりまず、うれしいという気持ちです。インターハイでの優勝をずっと目標にして頑張ってきたので、その思いが一番大きかったです。

佐野:結果が発表されるまで、優勝すると思っていませんでした。昨年はインターハイ県予選で敗退してしまったので、うれしかったし、1年間練習してきてやっと成果が出た安心感もありました。あとは、お世話になった方への感謝の気持ちが湧いてきました。

山口:自分たちの学校名を呼ばれたとき、とても驚きました。4人でうれし泣きをしたのが記憶に残っています。今まで支えてきてくれた先輩・先生、そして家族に恩返しをすることができました。

竹内:優勝校として呼ばれたときはうれしかったですが、信じられないという気持ちでした。2年生としては私1人がメンバーに選ばれたので、最初はやっていけるか不安がありました。でも練習していくうちに、先輩たちと仲間として頑張れたし、その成果が出て本当に良い経験になりました。


―― 優勝できた一番の要因は何だと思いますか?

金指:準備をきちんとできたことだと思います。佐野と私が出場した昨年の県予選では、0.1ポイントの差でインターハイ出場を逃しました。その悔しい経験から、全国で必ず優勝するという意識で練習を重ねてきました。どういう練習をしたら勝てるかを常に考えながら、チームみんなで取り組むことができました。

タイムトライアルで競う県予選は体力が物を言うので、普段より5kgぐらい重い荷物を背負って階段を30分くらい上り降りするトレーニングをしました。一方で細かい部分が勝負になるインターハイに向けては、ペーパーテスト対策を重点的に取り組みました。

「100点」だけを目指し、支え合った

―― 一番苦しかった場面はありますか?

金指:登山競技は減点方式で、3日目に自分たちが現段階でどのくらい減点されているか分かります。もちろん減点なしの100点を目指していたのですが、結果はマイナス0.7ポイント。想定していたよりも減点の幅が大きく、落ち込んでしまいました。

時間の記録でミスをしてしまった山口は特に気にしていましたが、「これ以上落とさなければいい話だよね」とみんなで話して、前向きになれました。


―― 勝利のために一番努力したことは何ですか?

金指:100点を取ることを目指した練習です。事前にきちんと作成しておけば点をもらえる登山計画書など、細かいところを絶対落とさないように取り組みました。県予選では私だけペーパーテストで失点してしまったので、「登山部報」というテキストを読み込んで対策しました。

佐野:私は、担当だった天気図の練習に打ち込みました。「気象通報」と呼ばれる20分間のラジオ放送を聞いて、残りの20分間で天気図を完成させるのがルール。多いときで1日に3枚書くなど、量をこなして質を上げていきました。一番気をつけていたことは、採点者にとって見やすい天気図。等圧線と前線が交わるところは、にじまないように少し外して書いたりしました。

山口:私はペーパーテストの「自然観察」を担当していたので、地図記号や登山用語を、単語帳をつくったりして徹底的に覚えました。また、今回の会場になった山々の地図をよく見て、位置関係や標高などをしっかり把握するようにしました。

竹内:私は「気象」の担当でした。出題範囲が狭く、細かいことを問われるのが分かっていたので、集中的に学習しました。例えば、写真を見て雲の種類を答える設問があるのですが、なかなか判断が難しい場合が多いんです。対策として、日々空を見て「あれは何の雲かな」と考える習慣をつけました。

―― 今回のインターハイ全体に対する感想を教えてください。

金指:実は山岳部に入るときは少し迷ったのですが、仲間にも恵まれて、最後にこういう形で終われて本当に良かったです。また、インターハイを迎えるまで一緒に練習に取り組んでくれた男子の存在は、とても大きかったと思います。

佐野:今まで陸上などいろいろな競技をやってきて、どれも結果を出すことができずにいました。高校に入って山岳部に入り、これが最後と思って取り組み、良い結果を残せて良かったです。ここまで一緒にいて熱くなれる仲間に恵まれて、本当にいい環境で登山に打ち込めました。何があってもみんなで支え合えるのは、団体競技である登山の魅力です。

山口:入部したときから、全国制覇した3つ上の代の先輩を目指して練習してきました。大会の前日、九州までその先輩たちが激励に来てくださったのは、すごく力になりました。そして、お互いに思ったことを日々言いあえるチームになれたのも良かったと思います。

竹内:中学まで、部活に対してこんなに真剣に取り組んだことはありませんでした。今回のインターハイでは積み重ねてきた努力が報われて、良い経験ができました。今は2年生が2人だけで下級生がいないので、来年の春は部員集めを頑張ります。

4人の揺るがぬ思いとチームワークが、優勝を引き寄せた

【諸戸明先生インタビュー】

―― 優勝後、選手たちにどのような言葉をかけられましたか?

「よかったね」と声をかけたかなと思います。
この結果は予想していなかったのですが、3年ぶりの優勝には感慨深いものがありました。男子は残念な結果に終わりましたが、男子と相談しながら練習をしてお互い高めあっていたからこその優勝だったのではないかと思います。

―― 日頃の練習ではどのようなことに注意して指導されていましたか?

彼女たちは自主性を持ってやれる子たちですし、基本的に私からうるさく指導することはありません。ただ、目指すべき目標だけは示しました。まず、コースがきつく時間計測もある県予選までに体力レベルを上げること。その練習は一番つらかったと思います。おかげで県大会は99.0点のハイスコアで通過。インターハイに向けては、「100点」を目指そうと伝えました。

また4人で競技していれば、必ず調子の悪いメンバーが出てきます。そうしたときに、仲間が苦しいのを察知して、荷物を自分のザックに入れるなど、いつでも助け合えるチームワークが大事だとは言っていました。それも、競技をする中で自分たちで自然に身に着けていったように思います。


―― 一言で表現するなら、どのようなチームだと思われますか?

目標を持って、地道に努力できるまじめな子たちだと思います。最初から「全国優勝する」と公言していましたから。受験期に入ってもブレることなく「やるべきこと」をやり、努力を続けていました。

体力抜群の金指、頭脳派の佐野、物事をきちっとやれる山口、安定感がある竹内、それぞれの持ち味が生きた良いチーム構成でした。また、もう一人の顧問で野球が専門の岡部先生が、精神的な部分や練習の雰囲気づくりをしてくれたのもあり、最後まで思いを一つに戦ってくれました。


―― 今後、優勝した経験をどのように生かしてほしいと思われますか?

優勝できたということは、本当に最高の結果です。彼女たちも、達成感を味わっているはずです。これから受験など次の目標に向かうとき、苦しかったり、うまくいかないこともあるでしょう。でも彼女たちは周囲に支えてくれる人がいるし、逆に自分が手を差し伸べることもできます。登山競技を通して成長した彼女たちの人間性が、これからさまざまなところで生かされていくんじゃないかなと思います。



抜群のチームワークが持ち味の富士高校山岳部の皆さん。インタビュー中も、競技中のようにお互いフォローしながら質問に答えてくれました。全員が同じ思いを持ち、なんでも言い合えるチームと胸を張った彼女たち。その背中を見た後輩の皆さんの活躍にも期待がかかりますね。


profile静岡県立富士高等学校山岳部
顧問 諸戸明先生
金指澪奈(3年)佐野真紀(3年)山口桃佳(3年)竹内夏希(2年)