―[インテリジェンス人生相談]―


 “外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!



◆香港の反政府デモを応援したい

★相談者★I♡香港(ペンネーム) 会社員 女性 32歳

 香港のデモを応援したいです。香港で働く友人が多いため、中国に対する不満をよく聞きます。逃亡犯条例を改正するまでもなく、香港の人が密かに中国に拘束されて本土に送られるなど、中国がやりたい放題やっているようです。大陸から来た中国人がオムツなど本土で高値で転売できるものを買い占めるので、欲しいものが買えなくなることも多いようです。

 香港のトップは中国の言いなり。中国が軍隊の力をチラつかせているのを見ると、友人の身が心配になります。さすがの友人も「中国が軍隊を送り込んできたらデモなんかやっている場合じゃなくなる」と話していましたが、中国のやり方がエスカレートしてきたらと想像すると不安です。日本にいながら香港の人たちのためにできることはないでしょうか?

佐藤優の回答

 私は元外交官だったので、国家主権を尊重することが、外国にとっても、外国人にとっても重要と考えます。もっとも学者の中には、国家主権よりも自由や人権のような普遍的価値が重要だと考える人もいます。こういう人たちは、香港のデモ隊に対する中国政府の弾圧に関して、各国が中国政府に対する圧力を強める必要があると考えます。

 中国は、こういう人たちが普遍的価値とする自由や人権が、欧米の文脈から出てきた特殊なものであると反発しています。いずれにせよ、あなたが香港問題に関与しようとするならば、香港が中国の主権下にあるという現実を冷静に認識する必要があります。

 中国出身ですが日本の国籍を取得した石平氏は、中国人の権力観が欧米や日本とは異なると指摘します。

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「天下国家と万民は権力の僕である」という政治原理は、中国史の内在的法則となり、王朝が替わっても「一君万民」の権力中心主義の社会構造は何も変わらなかった。

 天下国家が権力の私物となった以上、権力自体は当然、野心家や謀略家たちの奪取する対象となる。権力さえ奪取すればすべてが手に入るからである。こうしたなかで、権力の奪取と維持は目的そのものと化してしまい、天下国家と万民は権力のたんなる僕と道具となり、あるいは権力闘争の犠牲品となってしまった。

 これはある意味では、筆者自身の中国の歴史に対する一つの独自の解釈である。

 このような「一君万民」の権力中心主義こそが中国史の悲劇と人民の不幸の源であり、まさに「諸悪の根源」というべきものであろう

(『中国をつくった12人の悪党たち283頁)
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◆総合して考えるならば言論や資金援助に限定したほうがいい

 この説明には説得力があります。権力者に異議申し立てをすることに対して、中国政府は厳しく対応します。このことを踏まえて行動することが重要です。SNSを通じて、香港のデモ隊に対する中国政府の対応を批判することや、カンパをすることは問題ありません。

 これに対して、あなた自身が香港を訪れて、デモ隊に加わることは避けたほうがいいと思います。中国の公安当局によって拘束され、日本に強制送還される可能性があります。強制送還歴があると、海外旅行が難しくなる場合があります。逮捕、起訴され、裁判にかけられる可能性もあります。実刑になると、中国の刑務所で服役しなくてはなりません。そうなるとあなたの人生がだいぶ変わってしまいます。

 さらに香港の住民感情も考慮する必要があります。太平洋戦争中、日本は香港を占領していました。この時期に関して、香港の人々はあまりよい記憶を持っていません。日本人が香港の政治問題に関与することに抵抗感を覚える人もいます。

 こういうことを総合して考えるならば、香港の人々の運命は香港の人々が決めるという自己決定権を尊重し、言論や資金援助に応援は限定したほうがいいと思います。

★今週の教訓……国家主権の尊重は外国人にとっても重要

佐藤優
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数

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写真/protest in hong kong june 12 2019 and riot police fire the tear gas to against the peaceful protest