10月29日任天堂代表取締役 フェローの宮本茂氏が、ゲーム分野としては初となる文化功労者に選ばれた。宮本氏が生み出した数々の作品は、日本のゲーム文化を世に知らしめた。中でも「マリオ」は、リオデジャネイロオリンピックの閉会式での起用や、アメリカでのアニメ映画化など、広がるゲーム文化のシンボルとして注目を集め続けている。こうした中、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)は、「マリオカート」などのアトラクションを備えた任天堂のテーマエリア「SUPER NINTENDO WORLD」を、2020年の東京オリンピックパラリンピック開催前にオープンすべく準備を進めている。マリオに追い風が吹く中での任天堂エリア開業は、USJにとってさらなる起爆剤となるのか。

【写真】投資総額600億円超「SUPER NINTENDO WORLD」の建設着工式

■ ゲーム分野で初の文化功労者、「マリオ」はゲーム文化のシンボル

スーパーマリオ』シリーズをはじめ、『ドンキーコング』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズなどの生みの親として、任天堂を世界的企業に押し上げた立役者の一人である宮本茂氏。文化の向上・発展について顕著な功績を残した人物に贈られる称号である文化功労者だが、その歴史の中でゲーム業界から選ばれるのは初。ゲームが日本を代表する文化として認められたと言える。

こうした日本のゲーム文化と任天堂シンボルとも言えるのが、宮本氏が生み出したキャラクター・マリオだ。1981年アーケードゲームドンキーコング』で初登場し、1985年に発売された『スーパーマリオブラザーズ』(ファミリーコンピュータ)は全世界で4000万本以上を売り上げ、空前のファミコンブームを巻き起こした。現在もマリオ人気は健在で、『スーパーマリオ』シリーズ最新作の『スーパーマリオ オデッセイ』(Nintendo Switch)は全世界累計1538万本の大ヒットを記録。周辺シリーズでも、2017年発売の『マリオカート8 デラックス』(Nintendo Switch)は全世界累計1901万本、2019年6月28日に発売された『スーパーマリオメーカー2』は、発売から約三カ月の間に国内で88万本、海外で305万本を売り上げている(いずれも2019年9月末時点)。

ゲーム以外では、2016年リオデジャネイロオリンピックの閉会式で、土管からマリオに扮した安倍晋三首相が登場するパフォーマンスとして起用されたことが記憶に新しい。任天堂から生まれた数多くの人気作品・キャラクターの中でもマリオが抜群の知名度を誇ると同時に、国内外問わず愛され続けている「世界的スター」だからこその演出だった。

■ アメリカで映画化進行のマリオUSJでは2020年の一大コンテンツに

2020年以降、マリオにはさまざまなビッグコンテンツが控えている。アメリカではイルミネーション・エンターテインメントによる『スーパーマリオ』のアニメ映画化が進行中。また、USJを含む世界4か所のユニバーサル・スタジオのテーマパークでは、任天堂のテーマエリア「SUPER NINTENDO WORLD」が開業準備を進めており、USJの同エリアにはアトラクションとして「マリオカート」が登場すると発表されている。

SUPER NINTENDO WORLDは、任天堂の人気キャラクターやゲームの世界を再現し、複数のアトラクションやショップ、レストランなどを有する二層構造の巨大複合エリア。イメージ動画には、来場者がマリオの世界に入り込む光景が描かれており、マリオは同エリアでも看板キャラクターの役目を担うと思われる。アトラクションのマリオカートも、「数々のエンターテイメントを世に送り出してきたユニバーサル・スタジオのクリエイティビティと、世界最新鋭の技術を駆使して、テーマパークの常識を覆すアトラクションとして登場します」と予告されるほどの目玉コンテンツ。マリオ関連作品の中でも『マリオカート』シリーズは指折りの人気を誇るだけに、アトラクションの詳細が発表されればさらなる話題を呼びそうだ。

■ 450億円の壮大『ハリー・ポッター』エリアがヒットのUSJ任天堂エリアは600億円超

同エリアがオープンするUSJは、『ハリー・ポッター』シリーズのテーマエリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」開業で一挙に来場者数を伸ばし、世界的なテーマパークに躍進した前例がある。約450億円と言われる投資額で、外観、アトラクション、ショー、グルメ、グッズに至るまで映画の世界を忠実に再現したことが人気を呼び、エリアがオープンした2014年、USJの訪日外国人の入場者は当時最多となる100万人に到達。2017年には2倍の200万人を突破するなど、『ハリー・ポッター』エリアは国内のみならず外国人観光客からも大きな注目と人気を集めることとなった。

SUPER NINTENDO WORLD」の投資総額は600億円超と「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」をしのぐ規模。『ハリー・ポッター』エリアの事例を踏まえれば、任天堂エリアもコンテンツの再現度を極めて重視したものとなりそうだ。さらに、USJでは2015年から毎年開催する日本のポップカルチャーをテーマにしたスペシャルイベント「ユニバーサルクールジャパン」で、日本の人気作品を取り入れたアトラクションを成功させてもいる。作品世界を再現するノウハウやニーズを熟知したUSJが手掛けた任天堂エリアには、その投資額や“任天堂”という巨大コンテンツにふさわしいクオリティや演出が期待できる。

オリンピックで注目の2020年 「マリオ」一大トレンド化も

任天堂エリアは2016年の発表当初、USJの他、米国オーランドおよびハリウッドユニバーサル・スタジオのテーマパークでオープンするとされていたが、2019年4月には、シンガポールでも開業することが発表された。開業前に展開施設が増えるほど期待が高まっている任天堂エリアだけに、USJが世界に先駆けて開業することは大きな注目を集めると予想される。

USJでの開業タイミングも「東京オリンピック開催前にオープン予定」となっており、2020年の東京オリンピックパラリンピックによって日本への関心が高まる時期と重なる。訪日観光客がオリンピックとセットでUSJを訪れる効果は十分に期待できる。さらに、前述のリオデジャネイロオリンピックの閉会式のように、何らかの形でマリオが来年のオリンピックに絡んでくる可能性もあるだろう。

このほかにも、訪日外国人の玄関口である関西国際空港成田空港に、任天堂のゲームを体験できる「Nintendo Check In」が2019年に相次いでオープンしたほか、2019年11月22日には任天堂の直営オフィシャルストア「Nintendo TOKYO」が渋谷PARCOに出店するなど、任天堂の関連施設の開業も続く。

関西大学宮本勝浩名誉教授の試算によると、「SUPER NINTENDO WORLD」オープン後10年間でUSJが創出する経済効果は近畿圏で約6.2兆円、全国で約11.7超円、雇用効果は108万人に及ぶ。任天堂に関連する話題が各方面で盛り上がる中、USJ新エリアが日本のゲーム文化が培った魅力を最大限に引き出すものとなれば、経済・文化の両面で、USJのみならず、マリオ任天堂ブランドを2020年の一大トレンドに押し上げるかもしれない。(東京ウォーカー(全国版)・国分洋平)

USJに開業予定の任天堂の新テーマエリア「SUPER NINTENDO WORLD」