(福島 香織:ジャーナリスト

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 中国共産党の第19期中央委員会第4回総会(四中全会、四中総会)が10月28日から31日の日程で行われ、コミュニケ(声明書)が発表された。

 この四中全会は、本来は昨年(2018年)秋に行われるはずだったが昨年の秋はスキップされ、20カ月ぶりにこの秋に開催された。順当なら、昨年の秋に習近平政権2期目の政策の方向性が打ち出され、今年の秋は若干の人事異動があるとみられていた。実際、四中全会開催前に、政治局常務委員のメンバーの入れ替えあるいは、増員があるという噂があちこちで流れていた。だが、終わって発表されたコミュニケをみてみると人事は無し。それどころか、中国にとって最大の懸案であるはずの経済の急減速への対応や米中関係の方向性についても、言及がない。いったい四中全会の意義はなんだったのか。改めてコミュニケを精査してみたい。

グダグダとした15項目の中身

 コミュニケの全文は新華社を通じて11月5日に発表された。タイトルは「中国の特色ある社会主義制度を堅持し完全にし、国家統治システムと統治能力の現代化を推進する上での若干の重大問題に関する決定」。コミュニケは1万8000字におよんだが、ほとんどの紙幅を共産党統治システムの在り方に関する確認、共産党の集中指導強化に関するグダグダとした表現に割かれた。開会前に噂されていた人事に関する言及はなかった。

 コミュニケは大きく15項目に分けられている。それぞれを簡単にまとめてみると以下のようになる。

(1)中国の特色ある社会主義制度を堅持し、完全にし、国家統治システムと統治能力の現代化の重要意義と全体的要求を推進する。

(2)党の指導制度システムを堅持し、完全にし、科学的執政、民主執政、法に基づく執政レベルを引き上げる。党の一切の指導、中央権威と集中指導の堅持強調。

(3)社会主義民主の発展。

(4)社会主義法治の堅持と完全化。国家法制の統一、尊厳、権威の維持。

(5)社会主義行政システムの堅持と完全化。職責の明確化。地方にさらに自主権を与え、地方の創造性展開工作を支持する。

(6)社会主義基本経済制度の堅持と完全化。公有制経済を揺るがさない。農村集団所有産権の改革。労働者の所得引き上げなど。外資企業の国家安全審査、反寡占化審査、国家技術安全リスト管理などの健全化。

(7)社会主義先進文化制度の繁栄発展の堅持、完全化。全人民の団結奮闘の共同思想の基礎を固める。学校思想政治教育の強化。

(8)城郷(地方都市・農村部)の民生保障制度の堅持、完全化。人口老齢化に対する積極的対応。

(9)共に打ち建て共に治め共に分かつ社会統治制度を堅持し、完全にし、社会の安定を維持し、国家安全を維持する。国家安全リスクへの予防能力を高め、警戒を高め、敵対勢力の浸透、破壊、転覆活動を予防し厳しく打撃することを断固決定する。

(10)生態文明制度システムを堅持し、完全にし、人と自然の共生を促進する。海上埋め立てを全面的に禁止する。

(11)党の人民軍隊に対する絶対的指導制度を堅持し完全にする。人民軍隊が忠実に新時代の使命を履行することを確保する。中央軍事委員会主席(習近平)の責任制が人民軍隊に対する党の絶対指導の根本的現実的形式である。全国武装パワーを軍事委員会主席(習近平)の統一指導と指揮をもって軍事委員会主席責任制のメカニズムで堅持し、完全にし、貫徹する。軍隊の非党化、非政治化、国軍化など政治的に間違った観点に断固抵抗する。強力な党組織と高い資質を持つ専門的な幹部部隊を建設、永遠に党が掌握する忠実で頼りになる武力を確保する。有効に情勢をつくり、危機をコントロールでき、戦争を抑制でき、戦争すれば勝てる軍隊を構築する。

(12)一国二制度のシステムを堅持し、完全にし、祖国平和統一を推進する。一国を必ず堅持することが二制度の前提と基礎であり、二制度は一国に従属し派生したものであり、統一された一国内にある。憲法と基本法に厳格に従い、香港、マカオの統治を実行し、国家主権、安全、利益発展の維持を堅く定め、一国二制度に対するいかなる挑戦、いかなる国家分裂行為も絶対に容認しない。憲法と基本法に関連する法とメカニズムによって、愛国者を主体とする「港人治港」「澳人治澳」を堅持する。
 香港、マカオの公職者と青少年に対する憲法・基本法教育、国情教育、中国歴史・中華文化教育を強化し、同胞国家意識と愛国精神を増強する。外部勢力の香港マカオ事務への干渉を堅く予防、抑制し、分裂、転覆、浸透、破壊活動の進行を必ず予防、抑制し、香港マカオの治安を確保する。
 台湾問題を解決し、祖国完全統一を実施することが中華児女の共同の願いであり、中華民族の根本利益である。

(13)自主平和外交政策を堅持し、完全にし、人類運命共同体を推進する。一切の形式の覇権主義と強権政治に反対する。防御的国防政策を堅持し、永遠に覇を唱えず、永遠に拡張を行わない。協力的なウィンウィンの開放システム建設を推進。一帯一路を共に打ち建てることを推進し、多極的貿易システムを完全にし、貿易投資の自由化便利化を推進し、グローバルな高水準の自由貿易ネットワーク構築を推進し、途上国の自主発展能力への支持を拡大。グローバルな不均衡問題の解決を推進。国連のグローバル統治の中核的地位を維持し、上海協力機構、BRICs、G20などのプラットフォームメカニズムの建設を支持する。

(14)党と国家の監督管理システムを堅持し、完全にし、権力の運行の制約と監督を強化する。
 思想道徳と党の規律、国の法教育を強化し、反腐敗闘争の圧倒的勝利を固める。

(15)党が中国の特色ある社会主義制度を堅持し完全にすることを強化し、国家統治システムと統治能力の現代化の指導を推進する。国情と実際から出発し、長期に形成された歴史の伝承を把握し、党と人民が国家制度建設と国家統治方面において歩んできた道を把握し、経験を累積し、原則を形成し、他国の制度モデルを模倣することなく、封鎖され膠着した古い道を行かず、旗印を安易に変えた邪道を行かず、中国の特色ある社会主義の道をそれずに行くことを堅く定める。

香港の自治はますます厳しくなる

 ざっくりと紹介したが、明確に言えるのは、共産党の専制は絶対に変えず、むしろ強化していくことを繰り返し訴えているだけ、ということだ。とにかく「党の集中指導を強化する方針である」ということは伝わるが、具体性がない。

 唯一具体性が見えるのは、一国二制度に関する言及だろう。これは習近平政権にとって最も悩ましく、経済よりも米中問題よりも香港問題が喫緊の問題であるということかもしれない。あるいは、経済や米中問題では明確な方向性を党内でまとめることができなかったが、香港については一応意見が一致したということかもしれない。

 このコミュニケが示唆することは、香港にとってはかなり厳しい。香港に対して中国憲法と基本法に基づく国家主権、安全を強化すると宣言しているが、基本法に基づく国家主権、安全を強化する法律といえば、国家安全条例だ。ひょっとすると国家安全条例の立法を林鄭月娥(りんてい・げつが、キャリー・ラム)行政長官に急がせるつもりかもしれない。

 林鄭長官は11月4日習近平国家主席と会談しているが、そのとき習近平は林鄭に「高度な信頼」を寄せていると発言。それまでは党中央が林鄭に辞任を促すのではないか、という噂が流れていたが、それを完全に打ち消した。だが習近平が林鄭の行政能力不足にイラついていることは各方面から漏れ伝わっている。何のペナルティも与えなかったとは考えにくい。だとすると、国家安全条例制定を林鄭に最後の使命として課したのではないだろうか。

 この条例は香港において中国に批判的な人間を取り締まることを可能とする治安維持条例であり、香港の司法の独立を完全に終わらせるという意味では、逃亡犯条例改正どころの騒ぎではない。香港デモに参加している市民たち全員を国家政権転覆罪などでしょっ引くことが可能となる。

 この条例を作った行政長官は香港の自治にとどめを指した悪人として末代まで語り継がれることになるだろう。林鄭がこの香港全市民から恨みを買う困難な任務をやらされることになるとしたら、それは辞任よりつらい立場であろう。

危機に直面している党の統治システム

 さて、このコミュニケ全体としては、何が言いたいのか。

 一部では、習近平が権力闘争的に勝利し、その権力基盤を固める方向性を示した、という見方もある。だが、それにしては奥歯にものが挟まったような表現ばかりだ。著名評論家共産党史学者でもある章立凡が英BBCに「どのようにでも受け取れるが、なにも言っていないのと同じ」とコメントしていたが、まさにそれである。

 そもそも「国家の統治システムと統治能力の現代化」とは何を意味するのか。また「堅持と完全」(堅持和完善)という言葉が繰り返されているが、完全(完善=パーフェクトにする)という意味が、経済において改革開放路線に向かうのか、いわゆる習近平路線・疑似毛沢東路線にいくのか、それすらよくわからない

 香港問題に対する強硬姿勢や、軍の党軍事委員会主席の責任制、人民の監視監督管理の強化、イデオロギー教育の強化などは習近平路線、疑似毛沢東路線寄りだ。だが、外交に関する部分の「防御的国防政策を堅持し、永遠に覇を唱えず、永遠に拡張を行わない」といった表現は、中央党校の秋季中青年幹部養成クラスの開講式で15分の演説の中で「闘争」を58回もヒステリックに繰り返した習近平らしくない。もっとも、「覇を唱えず」と口先だけではこれまでも言っていたのだから、言葉の解釈にこだわりすぎるのも意味はないかもしれない。

 人事、米中、経済について具体的に言及がないからといって、話し合われていないということではないだろう。だが、話し合っても意見がまとまらねば、コミュニケには書き込めない。コミュニケになった部分が、党中央の意思を反映しているのだとすると、とにかく党の統治システムが危機に直面しているという共通認識があるのは間違いないだろう。だが、統治能力の現代化だとか完全化と言われても、何をどうするのかは、誰にも責任ある答えが出せていない、ということだろう。

 また軍の団結が危うく、非党化、非政治化、国軍化の問題が内在しているからこそ、それを防ぐために党軍事委員会主席の責任指導制を打ち出したのではないだろうか。軍事委員会主席責任指導制は、習近平個人が軍を掌握しているというメッセージにも受け取れるが、逆に言えば、いつ暴発するかもわからない軍に内在する問題の責任は習近平に負わせてしまえ、という党中央の意地の悪い意志かもしれない。

 ということで、四中全会が指し示す意味は、共産党の統治システムが危機に直面しているという認識はあるが、それに対する方策は「堅持と完全」という抽象的な言葉でしかまとまらない、ということだろう。人事が出なかったということは、党中央は、もはや権力闘争によって人事を動かし、状況を打開しようという意欲すら失われているということか。

 このコミュニケを見て、中国経済の回復や米中関係の安定への期待を持つことは難しい。ただ、香港がもっと荒れていくだろうという不安だけが募るのである。

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