10月の最後の週は新聞、テレビなどマスコミの多くがハロウィン関係の記事を掲載していた。

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 報道は世相の鏡であるし、また昨年は渋谷のスクランブル交差点で自動車を横転させる騒動があり、警備の徹底などを参加者たちに知らせる意味もあったであろう。

 しかし、筆者はあえて「なぜ大嘗祭よりハロウィンか」と問いたい。

 マスコミは社会の木鐸という役割もあるはずだ。日本や世界で行われる歴史的な行事などは、行われた事実だけでも報道するのが大切ではないだろうか。

 マラソンと競歩が東京から札幌に変更された、首里城が火災で燃え落ちた、IS(イスラム国)創始者のバグダディ氏を米国の特殊部隊が殺害した、サンチャゴ(チリ)でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が中止されたなど、主なニュースはどのマスコミも数行のベタ記事や解説を交えた半ページ大で取り上げている。

 そうした中にあって、外来のハロウィンはどの新聞も報道したが、数十年に一度の天皇の代替わりにしか行われない大嘗祭に向けての節目の重要行事についてはほとんどのマスコミが頬被りしているようだ。

産経しか報じなかった麻織物
「麁服(アラタエ)」の奉納

 天皇が即位されて最初の新嘗祭は「大嘗祭」と称し、大嘗宮を設立して執り行なわれる。いま、皇居の東御苑でその建設が進められている。

 7月26日には大嘗祭の舞台となる「大嘗宮」建設の地鎮祭が行われた。

 大嘗宮には天皇陛下が祭祀を行われる悠紀殿(ゆきでん)と主基殿(すきでん)がある。

 27日付「産経新聞」は1面に地鎮祭の写真と大嘗宮の平面図を描いて記事とも4段で扱ったが、他紙は26日夕刊で行われた事実の小さな扱いだ。

 10月27日には悠紀殿で天皇陛下がお召しになる大麻でこしらえた織物の麁服(アラタエ)が徳島県(阿波)で完成し、宮内庁に持参・献納するための出発式が行われた。

 「古来から阿波で大麻を栽培し、繊維に加工して朝廷に献上してきたのが忌部氏の末裔にあたる三木家」で、平成の大嘗祭でも同家の大麻が使用された。

 しかし「麁服に加工するまでの労力をもち合せていないので・・・(忌部族ゆかりの地で)群馬県吾妻町の鳥頭(とっとう)神社境内で繊維加工作業を行う岩島大麻保存会の協力を得て仕上げることができた」(中山康直著『麻ことのはなし』)という。

 10月28日付「産経新聞(20面)」は、「麁服完成 いざ大嘗祭へ」「献上の麻織物 徳島で出発式」の見出しで、麁服を納めた唐櫃(からびつ)を担いだ男性らが隊列を組んで出発する写真とともに、「美馬市の木屋平地区で地元のNPO法人『あらたえ』などが栽培した大麻の繊維から糸を紡いだ後、吉野川市の山川町地区で7人の女性が交代で、4反分の麁服を織り上げた」と2段記事で紹介した。

 しかし、筆者は他の全国紙には見つけることができなかった。

 なお中山本では、先ず天皇は大麻でできた麁服を着て天と東の光を司る悠紀殿に入られ、次に絹でできた繒服(ニギタエ)にお召し替えられ地と西の光を司る主紀殿に入られると説明している。

 大麻というと取り締まられる悪印象しか抱かない今日であるが、大麻は麻の別称で、大嘗祭で絹とともに重要な役割を果たしていることが分かる。

GHQの陰謀で麻が消えた

 日本は古来、大麻を有効活用してきた。そもそも、大麻と呼ばずに「麻」と呼んでいたのではないだろうか。

 麻製品は古来日本の神事(大嘗祭は言うまでもなく、出雲大社など全国に多数ある神社の注連縄や鈴縄、そして大相撲の横綱など)と切り離せない存在である。

 筆者は大麻という呼び方を「大麻取締法」で主として芸能人が検挙されたりすることで知るようになるが、それ以後も日常的に活用してきた「麻」のことだという認識はなかった。

 こうしたことから、日本で多用された麻製品が大麻取締法でほとんど使用できなくなったとは思いもよらなかった。

 近年、ある研究会で「大麻は日本国の象徴です」という、「大麻を考える国民会議」のホームページからの印刷物を配布されて初めて、何と愚鈍であったことかと反省させられた。

 生まれたとき(昭和14年1939年)から戦後も数年間、蚊除けの蚊帳(吊り蚊帳と移動式蚊帳)や下駄・草履の鼻緒などに麻製品を使用していたし、地域では猿田彦を祭神とした神社が遊び場で、注連縄が張られ鈴縄があり、新年や祭りなどの祭事の度に新調される姿を見てきた。

 伊勢神宮では「神宮大麻」としてお札が配布されるが、この大麻も嗜好性の大麻とは全く無関係であり、大麻草が植物名としてはヘンプや麻と呼ばれ、葉や花穂を嗜好品にすると大麻やマリファナなどと呼称される。

 茅葺き屋根の上部はチガヤ、ススキ、アシなどが使われるが、下部には麻の繊維を剥いだ軽くて丈夫な茎のオガラ(麻幹)が多い。世界遺産に指定されている白川郷の茅葺き屋根にもオガラが使われている。

 麻の字が付く長野県大町市美麻や神奈川県麻生区麻生など、また姓に麻が付く人も多いのは、麻の産地や麻産業に関わっていたからに他ならない。麻の葉文様の家紋も数多く存在する。

 麻は通気性にも優れ、また接着力が高いなどから、繊維を採った後の麻屑は漆喰壁の材料として多用されてきた。衣食住の素材として利用できたし、祭祀にも医薬品としても利用されてきた。

 しかし、大麻取締法の制定(1948年)で、1950年には2万5000人以上の栽培者がいて4000ヘクタールの作付面積であったのが2000年には102人・11ヘクタール、2005年には68人・9ヘクタールで、日本の麻生産は皆無の状態である(厚労省「麻薬・覚せい剤行政の概況」、赤星栄志著『ヘンプ読本』から)。

 戦前は麻産業で自給自足できたが、今では衣類・寝具・帆布などに使用されるヘンプ繊維が年間約200トン、七味唐辛子の一味に使われ、健康食品としても人気のある麻の実は約1500トンが輸入されている。

 筆者の愚度さを脇に置いて言うのも気が引けるが、筆者の同僚や年配者に大麻は麻のことですと話すと、「えつ! そうなの?」と返事が返ってくるところからは、GHQ(連合国最高司令部)が行ったWGIP(War Guilt Information Program:戦争犯罪周知計画)が日本人と日本国を見事に洗脳したということであろう。

 その上に、こうして情報発信してもなお、「保護法益のない」大麻取締法が存在し、芸能人たちが検挙される度に大きなニュースとなって流れるので、日本人のほとんどが大麻は有害、麻薬の類と勘違いし続けている。

 米国、すなわち自由主義陣営となった国は米国の影響を受け、大麻を取り締まってきたが、戦後50年を過ぎる頃から「おかしいぞ!」となり、国によっては栽培促進さえするようになっている。

 従って、制約されていなかった共産圏陣営が生産国の上位を占め、国連食糧農業機関(FAO)の資料では、2004年時点で、中国の2万6000トンをトップに、北朝鮮1万2800トン、ロシア2500トン、ルーマニア2000トンなど上位を占めている。

大麻は本当に有害か

 世界保健機構(WHO)はベトナム戦争で大麻が流行したことから、11人の学者に検討を依頼し、1970年に報告書を出した。

 その中で、大麻を吸うことで奇形の発生、衝動的な行動、激しい習慣性はなく、また麻薬(正しくは痲薬)につきものの禁断症状なども認められないと指摘した。

 リチャード・ニクソン大統領も大麻取締りを強化しようと委員会を立ち上げるが、自分が指名した委員長から「通常の摂取量ではマリファナの毒性はほとんど無視してよい」との報告を受け、烈火のごとく怒り、報告書の受け取りを拒否している。

 しかし、事実は事実であり、その後も米国では医学的会議やハーバード大学などが調査するが、シィーファ委員会(ニクソン設置)の結論と異なる結果は得られていない。

 1994年にアメリカの国立薬物研究所が公表した麻薬(ヘロインコカイン)や嗜好品(たばこ、酒、コーヒー)と大麻の比較表は下記の通りである。

 種類    依存性 禁断性  耐性  切望性  陶酔性
ヘロイン    5    5    6    5    5
コカイン    4    3    3    6    4
ニコチン    6    4    5    3    2
アルコール   3    6    4    4    6
カフェイン   2    2    2    1    1
大  麻    1    1    1    2    3

 この結果からも大麻の薬理作用について、従来考えられてきたよりも有害性は低く、煙草やアルコールの方が有害性は高いことが分かる。

 2005年にハーバード大学経済学部ジェフリー・マイロン客員教授は、米国でマリファナの禁止政策が撤廃された場合の効果は約2兆円になると試算し、大きな反響を呼んだとされる(赤星本)。

 大麻製品は2万5000から5万種が考えられるという。

 日本マーケティングセンターなどを設立した船井幸雄氏は「大麻産業は『金の卵』である」と言い、「上手に運用すれば、日本だけで10兆~30兆円も経済効果をあげそうです。農家はもとより、国民も日本国も助かるし、企業としてもJT〈日本たばこ産業(株)〉が5つくらい生まれる以上の効果まですぐに行きそうです」(『悪法!! 「大麻取締法」の真実』)と述べている。

大麻嗜好品の諸外国の状況

 大麻取締法違反の記事が出るたびに、何とも言えない感情に襲われる。2019年9月28日付「読売新聞」には「大麻摘発 最多2093人 上半期」という記事が出た。他の新聞も同様の記事を掲載した。

 警察庁が2019年の1月から6月までの大麻摘発者を纏めたもので、年間最多であった2018年の3578人(前年同期比403人増)を上回るペースであり、「大麻は薬物乱用の入り口になる『ゲートウェー・ドラッグ』とも指摘される」としての報道であった。

 法律に従うのは当然であり、違法者が拘束され、裁判に付されることは法治国家である以上致し方ない。

 しかし、上表の麻薬との依存性から陶酔性までの5項目の比較でみても分かるように、コーヒー(カフェイン)よりも依存性・禁断性・耐性において弱く、煙草(ニコチン)や酒(アルコール)よりも切望性・陶酔性が弱い。もちろん麻薬などと比べ物にならない。

 こうしたことから、産業用や医療用は多くの国が活用の方向にある。問題にされているのは嗜好品としての解禁の是非である。

産経新聞」(令和元年10月4日付)は、特派員発で「大麻合法化 カナダはどう変わったか」の掲題で全1面を使って特集している。

 カナダでは蔓延っていた闇市場撲滅を目的に解禁したようであるが、特需に沸く割には撲滅の目標は遠いという。

 医療用大麻は既に2001年に解禁され、一般利用(産業用や嗜好用)は2018年10月に解禁された。

 生産・販売には政府の許可がいるが、連邦法では18歳以上は一定量の所持や栽培が認められるが、大麻使用時の自動車運転は禁止され、18歳未満への販売や譲渡には最大14年の禁固刑を科すなど、厳罰主義をとっている。

 同紙は嗜好用の大麻について、「欧米 解禁検討進む」「アジア 厳格な国多く」として一項を設けている。

 そこでは南米ウルグアイは2013年に合法化し2017年に販売開始していること、欧州ではルクセンブルグが2年以内に合法化を目指すと発表し他の欧州各国にも同様の措置を促しているという。

 メキシコでは大統領が合法化法案を議会に提出していること、ニュージーランドは来年合法化の是非を国民投票にかける予定とされる。

 米国では州レベルでカリフォルニアなど10州とワシントンDC(首都)が合法化し、イリノイ州も来年解禁する。こうした動きを受けて、民主党大統領候補の大半が大麻合法化を訴えている。

 再度明言するが、産業用や医療用の大麻は多くの国が解禁しており、ここでの論点は嗜好品としてであるが、それも多くの国が解禁の方向ということである。

国益に鈍感な日本でいいのか

 麁服(アラタエ)という、天皇の代替わりにしか行われない行事に使用される麻製品の納入神事をほとんどのマスコミが報道しなかったのは、重要性の有無からではなく大麻に関わることからではないだろうか。

 大麻は衣食住、さらには燃料・医薬品にも使える1年草で、炭酸ガスを吸収し、耕作地を荒らさないなどの様々な理由から産業用、医療用としてばかりではなく環境改善の救世主としても世界の注目を浴びようとしている。

 立ちはだかるのは嗜好性問題であるが、上述のように、煙草や酒などよりも被害をもたらす程度は低いという認識が強まり、一般利用だけでなく嗜好用としても解禁の方向にある。

 既述の拙論(4本*1)に書いた部分もあるが、大麻取締法はあまりにも国益に鈍感な政治をもたらし、日本の伝統・文化を蔑にし、世界の潮流にも反することから重複を厭わずさらに関心を喚起した。

*1=(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56950)(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57161)(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57521)(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57724

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