中国戦略文化促進会の常務副会長を務める中国人民解放軍の羅援少将は14日、中国国営・中国新聞社の取材に対して「釣魚島(尖閣諸島の中国側通称)の問題を解決するためには、まず総合国力を高める必要がある」、「第1歩は制海権の奪取だ」などと述べた。中国でいう「魚釣島問題の解決」とは一般に、「自国領として実効支配」することを指す。

  羅少将はまず、「釣魚島の問題は日本側が挑発したものだ。危機的状況は日本が作った」と、中国側の主張を繰り返した(解説参照)。

  釣魚島を「占領」する手順としては、「まず漁船を赴かせて操業させる。このこと自身が主権を宣言したことになる」と主張。さらに、公務執行の実力を工場させる。中国の監視船は以前、自衛武器を装備することができなかったが、現在は海上警備船に一部の重火器を装備することができるようになったという。

  羅少将は「監視船は最近、尖閣諸島から0.6海里の距離にまでに近づいた」と説明し、「すでに、かなり接近した」との考えを示した。

  さらに、「漁船や公務執行船の強力な後ろ盾」となるのは中国海軍と主張。「現在、わが三大艦隊、すなわち東海艦隊、北海艦隊、南海艦隊はすべて、釣魚島周辺で軍事訓練を行っている。私の考えでは、刀を磨いているということだ。必要な時には三大艦隊で1つの拳(こぶし)を形成し、刀を抜く」と述べた。

  羅少将は、釣魚島の問題を解決するには、2つのことが必要と主張。1つは「制海権を奪取すること」であり、その前提として「われわれの総合国力を上昇させる必要がある」と主張。「鉄を打つには、自分自身が硬くならねばならない。われわれ自身の実力がさらに強くなれば、どんなに荒波にもまれても泰然としていられる」との考えを示した。

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◆解説◆

  中国では公的立場にある人物が「釣魚島問題がエスカレートした原因は、石原慎太郎東京都知事(当時)の都による買い上げ構想やその後の国有化のせいだ。責任は日本にある」との主張を繰り返している。

  同問題については、日中が国交回復する時期から、双方に「棚上げ状態にする」と認識していたと説明される場合がある。ただし日本政府は一貫して「尖閣諸島の主権は日本にある」と説明し、トウ小平副総理(当時)などに「次世代にまかせる」などの発言があったことは事実だが、「日本側として認めたことはない」と主張している。

  実際には、日本政府は尖閣諸島について◆自国民の上陸も基本的に許可しない◆島の開発も行わず「手つかずの状態」を維持◆中国人(含、台湾人・香港人)が上陸してもできるかぎり穏便に扱う―――などで、「主権の行使を相当に自粛」しても、同問題がエスカレートするのを避けてきた。

  日本国内で自国政府に対する批判が出ても、尖閣諸島の問題を「極めて禁欲的」に扱ってきたのは、中国側に配慮したためであり、中国側が好む言い方を使えば、「日中友好の大局を考慮した」からにほかならない。

  同問題がエスカレートしたのは、2010年9月7日尖閣諸島周辺海域で発生した、「中国漁船衝突事件」だった。日本側が「これまでにない悪質な行為」として同船船長を公務執行妨害で逮捕すると、中国側は猛反発。「レアアースの二本への輸出手続きをサボタージュ」など経済を絡めた報復措置に加え、9月21日には河北省にいた日本人会社員4人を「撮影禁止場所で撮影していたとの理由で身柄拘束した。

  拘束された4人のうち3人は9月30日に、1人は10月9日に釈放された。漁船衝突事件を起こした船長は9月25日釈放されたので、身柄を拘束されていたのは足掛け19日間。日本人会社員のうち、最後まで釈放されなかった1人の身柄拘束も足掛け19日間だった。

  日中間でくすぶっていた尖閣諸島の問題が“再燃”したのは明らかに、2010年の漁船衝突事件だ。石原都知事が2012年4月に発表した「都による購入構想」も同事件を受けてのものであり、日本人の多くが衝突事件に衝撃を受けたからこそ、約半年で約15億円もの寄付が集まったと言える。

  さらに、日本政府(野田内閣)が国有化を決めたのは、同問題について強硬論者とされる石原都知事が「購入後は施設建設」と表明したことなどを危惧し「平穏かつ安定的な維持管理」を目指すためだった。日本政府としては、尖閣諸島を従来と同様の状態にしておくことで、「尖閣諸島の問題を大きくする意図はない」と、言ってみれば“誠意”を示したわけだが、中国には通じなかった。

  中国当局が「釣魚島は自国領」と繰り返し主張すること自体は、内容の是非は別にして、「どの国の政府も、ある地域を自国領といったん宣言すれば、主張を撤回することが極めて困難なる」という、「政治力学の問題」としてならば理解は可能だ。

  しかし、公的立場にある人間が「問題をエスカレートさせたのは日本」と、事実とは明らかに矛盾する主張を判で押したように繰り返していることには、理解に苦しまざるをえない面がある。

  中国の共産党・政府は1990年代からの改革開放の本格化で経済を発展させ、国民に「豊かになりつつある」と実感させることで、国内を安定させてきた。しかしその後、貧富の格差拡大、環境問題の極端な悪化、相次ぐ食品安全問題、危険な工業製品やインフラ、官僚や要人の腐敗問題などで、国民の不満は高まった。

  共産党自身も、国民の不満の高まりが政権担当能力に直結していると危機感を示している。領土問題で「軟弱さ」を見せたのでは、国民の不安はさらに高まると考えざるをえない。さらに、どの国でも領土問題についてはとかく強硬な考えを持ちがちな、軍との関係もある。尖閣諸島問題における中国当局の“エスカレートする言動”の原因には「国内が恐くて後に引けない」との一面があると考えてよい。(編集担当:如月隼人)