『ポケモン』が地域との結びつきを強めている。宮城県は2019年10月より、ポケモン「ラプラス」との観光キャンペーン「ラプラス プラス 宮城巡り」をスタート。さかのぼって2019年5月に「イシツブテ」が“いわて応援ポケモン”に就任すると、その記者会見の姿がSNS上で話題になった。6道県に誕生したこれら「推しポケモン」は、株式会社ポケモンが各地の魅力を国内外に発信する「ポケモンローカルActs」という活動の一環だ。誕生から23年、世界的コンテンツとなったポケモンは”なぜ今”地域PRに取り組むのか。株式会社ポケモン(以下、ポケモン社)でポケモンローカルActsを担当する田村晃士さん、津田明子さん、今村啓太さんの話から、地域と長期的につながりを作るコラボレーションの新たな形が見えてきた。
【写真】乗ってみたい!国営みちのく杜の湖畔公園に4台設置されたラプラスボート
■ 「”うどん県”からヤドンが800匹脱走」エイプリルフールからはじまった「香川×ヤドン」
2018年にスタートした「ポケモンローカルActs」。各道県とポケモンがコラボし、ポケモンのイベント出演やスタンプラリーの実施、コラボグッズの販売、スマートフォンアプリ『ポケモン GO』との連動施策など、幅広い分野で地域の観光アピールと「推しポケモン」を訴求する取り組みだ。2019年10月現在、香川県のヤドン、北海道のアローラロコンとロコン、鳥取県のサンドとアローラサンド、福島県のラッキー、岩手県のイシツブテ、宮城県のラプラスがそれぞれの推しポケモンに選定されている。
この活動がはじまる前段には、ポケモン社がそれまでに行っていた複数の取り組みがあった。1つは、ポケモンのWebサイト「ポケモンだいすきクラブ」での特集企画だ。
「弊社のWebサイト『ポケモンだいすきクラブ』を2014年末にリニューアルした際、数百種いるポケモンの中からピックアップした一ポケモンの魅力を伝える特集をスタートしました。そのきっかけになったのが『ヤドンパラダイス』というタイトルのヤドンだけの特集企画だったんです。その後に別枠で香川県の方からコラボレーションの話が上がり、香川県のPRに使われている“うどん県”とヤドンの語呂が近いことや、和三盆や希少糖などの特産品と同じように甘いヤドンのしっぽ、昔から水不足に悩まされている香川県とあくびをすると雨が降ると言われているヤドンとの親和性もあり、2015年に『香川県からヤドンが800匹脱走した』というエイプリルフール企画を実施しました。これが後のポケモンローカルActsのきっかけの1つになりました」(田村さん)
■ 震災復興、『ポケモン GO』…、様々な形で地域と結びついたポケモン
エイプリルフール企画が反響を呼んだことで、地域とのコラボレーションの可能性を見出したポケモン社。その一方で、東北各県とポケモン社との間には、2011年の東日本をおそった大震災で心に傷を受けたこども達に少しでも笑顔を取り戻してもらえるようにとの想いからスタートした「POKÉMON with YOU」で生まれたつながりがあった。
「現在コラボレーションしている福島県、宮城県、岩手県を含む東北の各県では、『POKÉMON with YOU』を通じて、被災した子どもたちが明日を夢見て進んでいくお手伝いをするという形で取り組ませていただいています。そこから数年が経ち、各県が『震災から復興したところを伝えたい』という思いを持っていたこともあり、さらに一歩踏み込んだ観光復興を、という流れも生まれつつありました」(津田さん)
時を同じくして、2016年に位置情報ゲームアプリ『ポケモン GO』がリリースされたことも、地域とポケモンとの結びつきを強めた。鳥取砂丘などで、特定のポケモンに出会いやすくなるイベントを開催し、ポケモンを目当てに当地に多くの人が訪れ社会現象となったことが後押しとなったのだ。
「『ポケモン GO』のイベントを実施する中で、各地域にそれぞれユニークな魅力があることを私たち自身も知り、ポケモンだけでなく地域の魅力も合わせて楽しむ人たちの姿を見てきました。そこで、ポケモン一匹一匹が持つ独自の魅力と地域の個性をうまく掛け合わせた取り組みができれば面白いのではないか、という思いが強くなっていったんです」(津田さん)
こうした流れの中で、2018年4月1日に香川県で「『ヤドン県』改名」イベントを実施。前述のエイプリルフール企画に続き成功を収めたことから、複数の都道府県とのコラボレーション活動がスタートすることになった。
■ ロイヤリティーは無し! 「誰もが納得できる地域を代表するポケモン選定」にこそ価値あり
各地で大々的に展開する「ポケモンローカルActs」。これらのコラボにおいて各ポケモンのロイヤリティー、いわゆるライセンス使用料が発生していないというのも、一般的なコンテンツコラボと一線を画す点だ。
「ポケモンローカルActsはあくまでも営利目的ではないので、ライセンス使用料をいただくということはしていません。それぞれのポケモンを観光や県産品のPRにうまくつなげていただければと思います。ポケモンと地域の魅力がともに発信されることは我々としてもうれしいことですし、それはビジネスではない部分での価値だと思っています」(田村さん)
“推しポケモン”の選定でも、ポケモンの持つ特色やストーリーを踏まえ複数の候補を挙げた上で、各県の担当者とポケモン社側が話し合いながらぴったりのポケモンを選んでいるという。だからこそ、いずれもその地域を代表するポケモンとして納得できる選出となっている。各道県で販売されるコラボ商品も、「このポケモンじゃないと成り立たないと思うような商品を少しでも増やしていきたい」(田村さん)というように、アローラロコン/ロコンが座った陶器オルゴールや、ラプラスをかたどったこけし、イシツブテがあしらわれた南部鉄器など、各地域の伝統工芸品がもともと持つデザインにポケモンが溶け込んだグッズが多い。
■ 「ポケモンを探す楽しみと親和性」増加するご当地ポケモンマンホール
こうした取り組みのほかにも、ポケモンローカルActsでは「ポケふた」と称するデザインマンホールの設置を全国で進めている。現状は推しポケモンを選定した都道府県での設置が多いが、神奈川県や鹿児島県など、ポケモンマンホールのみを設置している県もある。近年、ご当地マンホールが観光スポットとして認知されていることもあり、ポケモンマンホールを目当てに訪れる観光客も増えつつある。だがこの取り組みは、流行に乗じたものではなく、マンホールの持つ特性とポケモンとの親和性が決め手となってはじまったという。
「ポケふたのデザインはすべて異なるもので、マンホールを巡って描かれたポケモンを探すという、ポケモンのゲームに近い、ポケモンらしい楽しみ方をしていただけるだろうという狙いがあります」(今村さん)
■ 30年先も地域に根差す、コラボレーションの新たな形への挑戦
こうした取り組みから見えてくるのは、各ポケモンそのものが地域の新たな文化や象徴として根差すものになってほしいという思いだ。津田さんは「47都道府県、地図を埋めていく形で目指そうという考えは持っていない」と話しつつ、「マンホールもそうですし、宮城県のラプラスボートも30年以上使えるものと聞いています。今後どういう風に続けていくかは模索中ですが、そうした長い目で地域の方や地元以外の方にポケモンが根付いていく形を目指していきたいと思っています」と展望を語る。
ヤドンのエイプリルフール企画がそもそもの発端となったことに加え、いわて応援ポケモンに任命されたイシツブテが話題になるなど、ネット上ではポケモンローカルActsの取り組みへの注目度は高い。一方、コラボを展開する各地域に住む人からも「香川県の方からは、もともとそんなにヤドンに思い入れはなかったけれど、ポケモンローカルActsの取り組みの中で好きになったという意見も聞こえてきます」(田村さん)と、好意的に受け止められているようだ。
地域に寄り添った姿勢で、新たに、そして長い目で地域との縁を作っていくコラボレーションの挑戦から目が離せない。
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