point
  • 水面に浮くことのできる「ミズグモ」と「ヒアリ」にインスパイアされ、沈まない金属が開発される
  • 水を弾く「はっ水構造」を応用することで、永続的な空気の保持を可能にした

アメリカ・ロチェスター大学により、「絶対に沈まない金属」が開発されました。

浮力の秘密は金属の軽さではなく、水を弾く「はっ水効果」。はっ水効果を持たせたプレートを2枚重ねにすることで、その内側に空気を閉じ込められるとのこと。

これは、空のペットボトルが水に浮く感じに似ています。

ただ驚くべきは、金属に穴を空けても浮力を失わないことです。ペットボトルだと、水が入り込んですぐに沈んでしまいます。

研究チームによると、この技術は、ミズグモとヒアリのおかげで誕生したんだとか。一体、どんなメカニズムを隠し持っているのでしょうか。

研究の詳細は、11月6日付けで「ACS Applied Materials and Interfaces」に掲載されています。

Highly Floatable Superhydrophobic Metallic Assembly for Aquatic Applications
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.9b15540

「ミズグモ」と「ヒアリ」にインスパイア

永続的な浮力を金属に持たせる点でヒントにしたのが、「ミズグモ」と、あの悪名名高き「ヒアリ」でした。

ミズグモは水中で生活できる唯一のクモで、お腹に超はっ水効果を持つ微毛がびっしりと生えそろっています。

Credit:youtube

この微毛の隙間に空気が溜まるので、ミズグモのお腹は空気の膜で常に覆われています。この空気膜を使って葉裏にエアバルーンを作り、呼吸口や休憩所を設けるのです。生命の神秘を感じます。

しかし、さらに凄いのがヒアリです。

彼らの体にも超はっ水効果がありますが、1匹では効果が薄く沈んでしまいます。そこで群れで大量に集まってイカダを作り、はっ水効果を高めて水上を移動するのです。

Credit:youtube

この構造はどちらも同じ。ミズグモはお腹にある大量の微毛によって、ヒアリは群れで集まることで超はっ水効果を生み出しています。

ここに着想を得て、研究チームは「多面性超はっ水構造(multifaceted superhydrophobic)」を思いつくのです。

永続的な「空気バルーン」を作る

金属表面のはっ水構造は、フェムト秒レーザーを使って、超撥水性質を持たせるパターンをナノスケールで刻み込むことで可能になります。

フェムト秒レーザーとは、フェムト秒(1000兆分の1秒)という超短いパルス幅を持つレーザーのことで、光ですら1フェムト秒の間には約0.3マイクロメートルしか進めません。

つまり、フェムト秒レーザーを使えば、きわめて微細な模様を刻むことができるのです。

そして、表面に微細な多面性のはっ水構造を刻んだ2枚のアルミニウムプレートを外向きではなく、内向きにして平行に重ねます。これにより、外部からの衝撃や損耗からはっ水面が守られ、多くの空気を永続的に閉じ込めることに成功しました。

Credit:rochester

実証テストの結果、メタルは2ヶ月間水中に浸しておいても、一切はっ水効果を失わず、浮力を保ち続けています。

さらに、メタル表面に複数の穴を開けてもまったく問題ありませんでした。というのも、残されているはっ水構造が穴の空いた部分を補い、しっかりと空気を閉じ込めることができるからです。

これは多少穴が空いても崩れない、ヒアリボート構造に類似します。

Credit:phys.org

研究チームは、「応用次第で、絶対に沈まないボートなども作れるかもしれない」と今後の展望を話しています。

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reference: https://phys.org/ / written by くらのすけ
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