車内に交番の機能を備え、様々な場所に展開できる「移動交番車」。その出動が増えています。昭和の時代に生まれたものですが、いまその機動性を生かし、バン型やトレーラーハウス型などの車両が、いろいろな場所で運用されています。

落とし物の受理から、台風の被災地出動まで

交番の機能を車内に備える「移動交番車」の出動が増えています。2019年10月には石川県警がバン型の移動交番車の運用を開始したほか、同月には宮城県警が台風19号による水害で被災した町に移動交番を開設するなどしました。

こうした移動交番車を、全国で最も多く60台導入しているのが千葉県警です。成田空港内の警察署を除く県下すべての警察署に配置し、日常的に出動しているといいます。千葉県警地域課に詳しく話を聞きました。

――移動交番では、どのような業務を行っているのでしょうか?

交番の設置要望があるところや、ショッピングセンターなど人が多い場所、あるいは犯罪多発地域などに、スケジュールを決めて出張し開設しています。警察官2名と相談員1名の体制で、落とし物の届けの受理から周辺の警戒警備、児童の登下校時の見守りまで様々な活動を行っています。

いまの体制は、2009(平成21)年に就任した森田健作知事の政策の一環として整えられました。車両自体は昭和の時代からあり、そもそもは団地の開設などで人口が急増した地域からの交番設置要望に応える形で、移動交番の実施要領が策定されています。常設の交番には建設費用も人員もかかりますので、そう簡単には開設できないからです。ただ、「要望のある地域に開設する」という理念は昔から変わらないものの、専任の体制が整っておらず、災害時の派遣などを除き、日常的な活用には至っていませんでした。

キャンピングカー型、トレーラーハウス型まで 「見ると安心」

――住民からの評判はどうでしょうか?

警察官と気軽に話せて安心できる」「子どもの見守り活動がありがたい」といった声があります。2019年9月の台風15号で大きな被害を受けた房総半島には、被害が比較的少なかった県北部などからも移動交番車が応援に回り、1軒1軒のお宅を訪問するなどしました。住民の方からは「警察車両を見ると安心する」「勇気がわく」といった声をいただいています。

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このように、大きな災害の被災地へ移動交番を出動させるケースもあれば、人が集まるイベントに出張するケースもあります。たとえば警視庁では2020年「東京オリンピックパラリンピック」競技会場付近における警戒を念頭に、トレーラーハウス型の移動交番車を導入。2019年夏に代々木公園(東京都渋谷区)などで試験的に開設しています。

「移動交番の狙いは『見せる警戒』です。オリンピックパラリンピックにおいても、その機動力が発揮されるでしょう」(千葉県警地域課)

ちなみに熊本県警では、「おそらく日本で唯一」というキャンピングカー型の移動交番車を所有しています。もともとは県内での豪雨災害を機に、被災地における警察官の待機拠点とすべく2005(平成17)年に導入。市民からの相談など、交番としての機能にも対応するものの、どちらかというと警戒の拠点機能が重視されたもので、トイレも備わっているそうです。

千葉県警のバン型移動交番車。バス型もある(画像:千葉県警)。