「あまり周囲の目を気にせず、自分がこうしたいと思うことをやれるようになってきました」と笑顔で語った桜井日奈子。デビュー以来、CMなどで見せる、ほんわかキラキラしたイメージがあった彼女が、映画『殺さない彼と死なない彼女』では、リストカット常習者で“死にたがり”な少女・鹿野ななを好演している。

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◇イメージを裏切る役「すごくうれしい」

 桜井演じる鹿野は劇中、間宮祥太朗扮する小坂に対して、「お前」「殺す」という言葉をつぶやくなど非常にエキセントリックだ。桜井自身も「今まで出会ったことのない役でした」と語ると、これまでは、感情を作ってから作品に臨むことが多かったが、本作では小林啓一監督の「まず動いてみて。あとで感情がついてくるから」という言葉を信じ、フラットな状態で現場に臨んだ。
 
 「感情が先行しちゃうと、観ている方が『こう動くんだ』と予測できちゃうのかな」と桜井は小林監督の言葉を咀嚼(そしゃく)。感じるままに鹿野を体感した結果「予測不能」という鹿野のキャラクターを見事に表現し、奥行きを与えた。「今まではキラキラまぶしい高校生を演じることが多かったのですが、実際の自分とは結構遠いと思っていたんです。実は鹿野の方が自分には合っているなと(笑)」。

 確かに、これまであまり見たことがないような桜井の姿がスクリーンには映し出されている。そのことを伝えると笑顔を見せる桜井。「デビューしてからずっと『ホワホワしているね』と言われていたのですが、結構体育会系で真逆だったりするんですよね。なので、出演作品でパブリックイメージを裏切る役をいただけるのはすごくうれしいんです。本当の自分を知ってもらいたいということではないのですが、どうせならいろいろな面を見ていただいた方がいいですからね」。

◇周囲の目は気にしない きっかけはファンの言葉

 以前は、パブリックイメージにとらわれ過ぎて、バラエティー番組などに出演しても、ガチガチで何もできなかったという。しかし最近は「結構自由にやれていますね」と笑う。そこにはこれまでの芸能活動での気づきがあったというのだ。「人それぞれ受け取り方が違うので、100人いたら100人に『いいね』と言われることはないじゃないですか。それならば、あまり周囲の目を気にするのではなく『私はこうしたい、こうありたい』と思うことをした方がいいのかなと思うようになったんです」。
 
 こうした考え方に至ったのは、応援してくれるファンの力も大きかった。「バラエティー番組などに出させていただいたとき『大丈夫かな』と思うぐらい、ちょっと変なことをしてしまったことがあったのですが、ファンの方から『それでいいんじゃない?』という声をたくさんいただいたんです。そのとき『あ、そっか。これでいいんだな』って気づくことができたんです」と気持ちが吹っ切れたという。

◇「次はないかもしれない」と常に挑む

 2018年公開の『ママレード・ボーイ』で映画初主演(吉沢亮とダブル主演)を果たすと、その後もドラマや映画でヒロインを務めるなど、順調にキャリアを積んでいるように感じられる桜井だが、いつも「次はないかもしれない」という思いで役に挑んでいるという。言葉の真意を問うと「自分の実力はまだまだなのに、すごくすてきな現場をいただいています。だからこそ『次はない』と思って、その瞬間を必死に楽しもうと自分を鼓舞しているんです。次に進むためにも…」と笑顔を見せる。

 決して“悲壮感”からくる言葉ではなく、前を向いているからこそ出る思考――。同時に「まだ本当の意味でお芝居の怖さが分かっていないと思うんです。これから壁にぶち当たるだろうし、もっと臆病になると思う」と未来も予測する。そんな悩ましい自分も最終的には楽しめるように、今はどんなことにでもチャレンジしたいと意気込む。「やらないと壁にぶち当たれないですからね」。
 
 9月に公開された映画『任侠学園』では、西田敏行西島秀俊といったベテラン俳優と現場を共にし、多くのことを吸収したという。「身になることばかりで、ものすごく刺激を受けました。私はあまり社交的ではないのが課題なのですが、同世代ばかりではなく、たくさんの方と話す機会を設けて、もっといろいろなことを吸収したい」と目を輝かせる。
 
 「できれば何十年もやっていきたい」と女優業に意欲を見せた桜井。一方で「自分が望んだように進めない厳しい世界だと思う」と冷静な面も見せる。だからこそ「今は一つ一つ目の前の仕事に集中したい」と強い視線で語っていた。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 映画『殺さない彼と死なない彼女』は11月15日より全国公開。

桜井日奈子  クランクイン!