―[あの企業の意外なミライ]―


 ビジネスベストセラー作家の一人としても知られる、京セラの創業者・稲盛和夫氏の名を知らない人はほとんどいないでしょう。KDDIの創業に携わったほか、経営破綻に伴い上場廃止となったJALの再建に乗り出し、2年目には営業利益が過去最高の2049億円を超え、同社を再上場へ導いた人物です。そんな稲盛氏が創業した京セラには彼が生み出した独自の経営手法があります。

 それが「アメーバ経営」。今回は、創業以来一度も赤字に転落することなく黒字経営を続け、売上高2兆円が視野に入ってきている京セラを支える「アメーバ経営」について5分ほどで解説します。

◆利益率昨年比20%増!好調のワケは…

 まずは、京セラがどれだけ好調なのかを確認しておきましょう。京セラ損益計算書(略して“PL”= profit and loss statement)を見てみます。PLとは、企業に「出てくるお金」と「入ってくるお金」を示したグラフのこと。

 京セラのPLを見てみると…

2014年…約1.4兆円

2019年…約1.6兆円


 と推移。2020年の売上高は約1.7兆円を見込んでおり、6年間で約2500億円増える見込みです。

 一方、純利益は…

2014年…約880億円

2019年…約1030億円(+150億円)


 と、150億円の増益。さらに、2020年は前年比21%増の1250億円に着地する見込みです。

 いったい、なぜここまで成長を継続することができるのでしょうか?

甲子園強豪校・智弁和歌山のような戦略

 先に結論を述べます。

 京セラ成長継続最大の理由は、バランスのよさ。現在、京セラは大きく6つのセグメント(事業領域)を持つ会社ですが、その中でもっとも売上が高いのはドキュメントソリューション事業。これは企業や官公庁向けにプリンターや複合機をグローバルに提供している部署です。

 しかし注目すべきは、それ以外のセグメント。現在6つある京セラの事業は、どこかに売上高が偏ることなくすべてバランス良く構成されているのです。

京セラの各セグメントの売上割合】(各%は2018年3月期)

1位「ドキュメントソリューション」(24%)
2位「電子デバイス」(20%)
3位「産業・自動車用部品」(18%)
4位「半導体関連部品」(16%)
4位「コミュニケーション」(16%)
6位「生活・環境」(7%)


 これが何を意味するのでしょうか。それは、何かがコケても、大きな痛手にはならないということ。人気が一つの部門に集中するよりも、分散していたほうが企業として大きな赤字を防ぐことができるのです。

 これは、ここ最近の高校野球の強豪校の変化を見ればわかりやすいでしょう。かつては、エースピッチャーを擁す高校が次々と甲子園で勝利を収めてきました。しかし、ここ数年は選手一人に連投させることのリスクが自覚され始め、エースピッチャーを温存できるように、分厚い選手層を持っているチームが勝ち上がれるようになりました。

 具体的には、2019年夏の大会で言えば、智弁和歌山履正社がそれに当てはまると言えるでしょう。一方、佐々木投手を温存して岩手県大会決勝で敗退した大船渡高校が実質的に「一強」頼みになっていたチームの典型例です。

◆社員の付加価値が一発でわかる公式

 京セラの好調を支えるもう一つの特徴が、「任せる経営」。特に、同社はシンプルで理解しやすい管理会計を導入しています。京セラ稲盛会長が掲げるアメーバ経営では、「時間当たり採算」と呼ばれる計算方法が利用されています。アメーバとは、社内にある独立チームのようなもの。京セラでは、アメーバの一人のメンバーが会社に対して一時間でどれくらいの付加価値をもたらしているかがすぐにわかるようになっています。

 その計算方法を簡単に説明します。

 まず、アメーバごとに、入ったお金(社外への出荷と社内のアメーバへの売上)から、出ていったお金(他のアメーバからの社内購入と、人件費以外の自アメーバで発生するコスト)を引きます。これを「差引売上」と呼びます。

 次に、差引売上をアメーバメンバーの総労働時間で割ることで、「時間当たり採算」が算出されます。この値を見れば、各アメーバメンバーの付加価値がひと目でわかるのです。もし、アメーバの「時間当たり採算」が全社の平均賃率を上回っていれば、会社の利益に貢献しているし、下回っていれば自分達の食い扶持すら稼げず、他のアメーバに食べさせてもらっていると解釈できます。

 この「時間当たり採算」の導入によって、現場レベルで「どうすれば経営をしやすくなるか」「どうすればメンバーを引っ張っていけるのか」ということを真剣に考えるようになるのです。「任せる経営」を実行できるように、客観的な指標を出しているんですね。

◆「現場の声」を本当に吸い上げるシステム

 マネジメントを語る際に「現場の声を吸い上げよう」とはよく言われている文言です。とはいえ、これを確実に継続して実行できている組織はそう多くないはずですが、京セラ違います

 京セラでは、現場から離れたところにいるトップマネジメントが、独自に方策を決定するのではなく、現場からの情報収集に加えて、現場との対話を通して上手にマネジメントコントロールできているのです。その肝となっているのが、先述した「時間当たり採算」なのです。

 現場の社員がどれだけの付加価値を生み出しているのかわからなければ、客観的な議論はできません。京セラは、その明確な指標を持っていることが最大の強みなのです。想定していなかった環境変化の兆候は、最初に現場に現れます。それを、臨機応変にトップマネジメントが拾いあげることができる体制になっているのです。

 話をまとめます。

 アメーバ経営の本質は、各セグメントが独立しており、どこかがどこかに依存しすぎていないことに加え、各アメーバの構成員がどれだけ付加価値を出せているのかを客観的に計測できていることにあるのです。これによって、現場の社員とマネージャーが対等に議論でき、より売上を増やすにはどうすべきかをアウトプットできるのです。経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。

参考文献:三 矢裕『学習院大学 経済論集』第34巻 第3,4合併号(1997年12月)任せる経営のためのマネジメントコントロール京セラアメーバ経営一

【馬渕磨理子】
日本テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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