季語を知らなくても、定型(五七五)になっていなくてもOK。心に抱えたやるせない気持ちを俳句に込めて詠み明かす「アウトロー句会」。俳句界の新潮流が、現代の疲れた人々の心に救いの手を伸ばしている。
◆季語も五七五も不要!?「アウトロー俳句」がはみ出し者を救う
新宿・歌舞伎町「砂の城」にて毎週金曜に開催される「屍句会」(右奥が北大路翼氏)
混沌とした新宿・歌舞伎町の路地裏に、「砂の城」と名づけられた小狭いサロンがある。ここには、今日も心に闇を抱えた男女がどこからともなく現れ、心の赴くままに俳句を詠んでは去っていく。彼らは、歌舞伎町の俳句一家を名乗る「屍派(しかばねは)」。俳句界に“アウトロー俳句”という新たなジャンルを確立し、現在メディアで注目を浴びている異端者たちだ。
「砂の城」では、毎週金曜日に句会が開催されている。そこでは、まず「お題」と10分間の投句時間が与えられる。参加者は投句用紙に俳句を書き、座の中央にある日本酒の空き箱に次々と投句していく。投句が終われば、すぐさま披講(詠み上げ)と講評に移るのが、屍派の句会だ。
砂の城の管理人で屍派家元を名乗る北大路翼(きたおおじつばさ)氏はこう語る。
「一般的な句会であれば、投句された句は別の人物により清記(書き写し)されて、誰が投句したのかわからないようにして披講されます。でも屍派は速度感・ドライブ感を大切にしているので、清記はしません。人数にもよりますが、作るのに10分、講評10分、酒・タバコ・トイレで10分、計30分ぐらいが一回の句会にかかる時間。これを一晩で5~10回行います」
時間内であれば何句でも投句していいという。また、ツイッターの生配信でネット投句も受けつけているため、すべての句を披講・講評するにはスピードが重要だ。
「リアルタイムで配信して、全国から投句が集まる。こんな句会は日本で唯一でしょう。遠方や病床にいる常連もいますよ」(北大路氏)
手でちぎっただけの簡素な投句用紙にペンを走らせる参加者たち
◆まずは「嫌な思い出」をお題に
この日の句会1回目のお題は「嫌な思い出」が挙げられた。
「受話器から自傷行為の音がする」
ランダムに決められるその日の進行役が、句を詠み上げる。
「相当大きい音だな」「どういう音がすんねん」「頭打ちつけてるんじゃないの?受話器に」「受話器よりも、今使うのはスマホなんだけどねえ」。参加者たちは思い思いの言葉で、詠み人の心の内を探る。
「まあ、受話器のほうが聞こえはいいかな」
最後に北大路氏がコメントしたところで講評は終了。詠み人が発表されると、すぐに進行役は次の句を詠み上げる。
「卒業アルバム嫌いな顔に穴開ける」
「『卒アルの』のほうがいいんじゃないの」「俺もそう思う。音がね」。
このようにして、句会は淡々と進んでいく。2回目のお題は「口(くち)の字」。
「そぞろ寒ざむ口約束をして口と指」
この句には、さまざまな解釈が寄せられた。「口約束と指切りをしたんじゃない」「口に指つっこんで出したら涼しかった、とか」と分析をする者もいたが、ほとんどが「全然意味がわからない」と言う。
この句の詠み人は北大路氏だった。彼らは主宰者にも容赦なくダメ出しを食らわすのだ。北大路氏とて反論することは許されない。
「俳句は、受け取る側がどうとらえたかがすべて。詠み手がどんな深い思いを込めていたとしても、伝わらなければ意味がない。また、一般の句会では、詠み人がわからないと『主宰者だったらどうしよう……』と気を使ってしまい、褒める言葉しか出てこない。句会は勉強会。ウチでは誰の句であろうと遠慮なくダメ出しします」
◆「アウトロー」とは、すべてを受け入れる寛容さ
それぞれ好きな飲み物を持ち寄り、好きな時間に入退室できる、自由度の高い句会だ
定型(五七五)や季語のルールに縛られない「自由律俳句」がアリなのも、屍派の特徴のひとつだ。
「自由律といっても日本語のリズムがあるんです。だから五七五が基本。でも、それに縛られずに自分のリズムで詠むほうが大事です。季語も、歳時記に載っているような言葉を覚える必要はなく、句に季節感を感じられたらより良い、ということ」(北大路氏)
この句会には、「充実した人生を送っている人は、絶対に来ませんね」と北大路氏は語る。
「参加者は、依存症やうつ病の患者、ニート、女装家などいろいろ。世間からはみ出した人たち、生きづらさを感じている人たちが多い。僕は“アウトロー”というのは、悲しみ、苦しみ、妬み、怒り、愚かさなどをすべて受け入れる“寛容さ”だと思っているんです」
参加者の一人はこう言う。
「『死にたい』とか『殺したい』とか、普通の句会じゃとても言えないですよね。でもここでは、そういう暗い感情を吐き出して、みんなで笑うことができる」
「教養は不要。俳句は誰でも詠める」というのが北大路氏の持論だ。
「俳句は心情を吐露して昇華する道具になる。これまで俳句とは無縁だった人たちに、少しずつ句を詠む楽しさを伝えたい」
【俳人 北大路 翼氏】
1978年生まれ。歌舞伎町俳句一家「屍派」家元。ルールにとらわれず、心の闇や世の中への不満、ときにはエロも句に綴る「アウトロー俳句」を確立。11月14日に半自伝的エッセイ『廃人』(春陽堂書店)を上梓
<取材・文・撮影/櫻井れき 北村土龍>
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志士丸@
ヨッシー
脛を走るおろし器
にゃんこ(`・ω・)ゝ
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