8月・9月に続く3度目だ。3回の実験を通してその能力を見ると、飛翔距離330~380キロ、高度40~100キロであった。
つまり、通常の多連装ロケットの能力をはるかに超え、低高度で約400キロもの距離を飛翔することができる。
北朝鮮(以後、北)が、
①これまで、イスカンデル版ミサイルや300ミリ多連装ロケットを、飛翔の途中で軌道を変更させ岩礁に命中させていること
②このロケットが、誘導可能な中国の大型多連装ロケットに酷似している
ことから、この超大型ロケットも、GPS誘導で、軌道を変更でき、目標に正確に命中させられると評価すべきだ。
超大型ロケット(以後、ロケット)を、平壌の北から2度も発射したことにも、戦術的に重大な意味がある。
この原稿は、「親北政策の裏で進む韓国殲滅計画~北朝鮮・中国固有の長射程・多連装ロケット砲の恐るべき威力」(JBpress、2019.10.3)の続編である。
深刻な脅威ではないと言うが・・・
韓国の鄭(チョン)国家安保室長は、「北が現在開発しているミサイル能力は、我々の安全保障に極めて深刻な脅威になるとは思わない」「ミサイル防衛と迎撃能力は、我々が絶対優位に立っている」と述べた。
飛翔中に高度と方向を変換することが可能なロケットを、平壌の北からソウルに向けて発射すれば、飛翔の終末段階になって、南北軍事境界線を越えて、ソウルに命中する。
防空ミサイルをソウルの北側に配置したとしても、北のロケットが奇襲的に発射されたならば、軍事境界線を超えるまでに、撃ち落とすことはできない。
ソウルの住民にとっては、「極めて深刻な脅威」であり、北の人質になったようなものだ。金正恩が「青瓦台を破壊せよ」と命令すれば、3~5分以内にロケットが飛んでくる。
「極めて深刻な脅威」であることの根拠について、①ロケット威力の脅威②ソウル防衛、特に青瓦台が守れないことについて解説する。
中国400ミリロケットに酷似
北は、これまでパレードにも出していないロケットを初めて発射実験した。
ロケットの口径(直径)は、このロケットの斜め後ろに映っている金正恩委員長の顔や体の大きさから判断すると、約400ミリと評価できる。
飛翔するロケット本体はどうなのか。
9月10日に発射したロケットの本体と中国製の300ミリロケットの本体の写真(SY-300)を比較すると、前方の翼と後方の操舵翼の形が酷似している。
中国製の400ミリの6本の筒のものと似ていると前回の記事で述べたとおりだ。
左2つ:9月10日発射ロケット、右の上下:中国の「SY300」
北と中国のロケットとを比べると、外形、射程および誘導方式とが酷似している。
それゆえ、中国のロケットからその能力を推測すると、
①車両移動から発射までの準備時間がたったの12分以内である。
ロケットが発射される前に、その位置を発見し破壊することは不可能である。
②GPS誘導であることから、命中の誤差(CEP:半数必中界)は50メートルである。
直径100メートルの円を狙って撃てば、2発中1発は命中する計算になる。
③最大射程は400キロである。韓国の中部と北部の重要施設を狙える。
④ロケットの弾頭重量は約200キロ。
⑤ロケット発射機は4連装だ。
現段階では2発目のロケット発射は、1発目発射の3分後だった。今回は2発だけだったが、今後は、連続4発の発射で、連続発射の時間間隔は6秒になるであろう。
もし、10台の発射機が同時に、4発連続して発射すれば、30秒以内に、200キロの爆弾40個が落ちてくる計算になる。
青瓦台を狙って撃てば、200キロの爆弾がすべて命中するということだ。
撃墜は極めて困難
北のロケットは、低高度で飛翔する途中で高度や方向を変更できる。
そのため、イスカンデル版短距離ミサイルと同様に撃墜することが困難である。その理由は、以下のとおりだ。
●低軌道で飛翔するロケットのエンジンは、大気圏内を通過する時間が長いので、標準軌道で飛翔するロケットよりも長く燃焼する。
その結果、未来予測値の決定が遅くなり、迎撃ミサイルの発射が遅れ、目標に到達できなくなる。
●ロケットエンジンがいったん燃焼を終えれば、その時点で未来予測を決定し、迎撃ミサイルを発射する。
その後、ロケットが再びエンジンを噴射すれば、未来予測地が変わるために、迎撃ミサイルが目標位置と異なる方向に飛翔する。
●飛翔の終末段階で、高度や方向を変更すれば、そのロケットが迎撃ミサイルの未来予測地から離れる。
離隔量が大きければ、迎撃ミサイルの本体から切り離された弾頭部は、弾頭が軌道を変更するための燃料の量にも限りがあり、弾頭が有する赤外線誘導で目標まで接近することができなくなる。
●迎撃する場合、弾頭が切り離されて、目標に向かって行く。
だが、弾頭は、本来大気圏外で撃墜する仕様になっているため、大気圏内では抵抗が大きいために、目標への誘導が難しい。
軍事境界線に近い青瓦台
ソウルが南北軍事境界線に近いことから、平壌の北の山地からソウル(青瓦台)に向けてロケットが発射されると、撃墜することは極めて難しい。
その理由を、次の3つのケースで検討する。
①ミサイルが日本海を超えて日本に向けて飛翔する場合
②ロケットが韓国の南部に向けて飛翔する場合
③ロケットがソウルに向けて飛翔する場合
①の場合、日本海に日本のイージス艦を配置することによって、ミサイルの早期発見と撃墜を日本海で行える。また、本土配備の迎撃ミサイルも日本海に向けて発射し撃墜できる。
②の場合、北のミサイルが韓国国内を長く飛翔することによって、韓国の中部に配備した迎撃ミサイルにより撃墜が比較的容易だ。
③の場合、北が南北軍事境界線から遠く離れた山間部からロケットを発射すると、北国内を飛翔する。軍事境界線を越えれば、すぐにソウルだ。
ロケットが軍事境界線を越えるか、そうでないかを判定するのに時間がかかり、迎撃が遅くなる。
特に、高度を変更できるロケットであれば、迎撃ミサイルを発射するのを躊躇せざるを得ない。
早期に発見できたとしても、北国内を飛翔しているロケット撃ち落とすことは、戦争状態であればできるが、北がある日、宣戦布告前に、奇襲侵攻する場合は、撃墜できないだろう。
ミサイルが日本海を越えて日本に向けて飛翔する場合
ロケットが韓国の南部に向けて飛翔する場合
昨年までとは状況が一変
北の奇襲侵攻に対し、航空優勢を持つ米韓軍戦闘機で反撃するというのが、これまでの作戦戦略だった。
ところが、イスカンデル版短距離弾道ミサイルなどで、韓国領土に配備されている米韓軍基地を併せて奇襲的に先制攻撃すれば、韓国内の航空基地が破壊される可能性がある。
そうなれば、戦闘機が直ちに反撃できない状況になる。これと同時に、青瓦台にロケットが打ち込まれるだろう。
また、半島有事の場合には、ハワイ、グアム、日本に駐留する米空軍が、速やかに反撃してくれると思うかもしれない。
だが、火星12・14号をハワイなどの米軍基地に向けて発射されると、これらの地域から直ちに空爆ができないということが起こる。
北が、「火星15号核兵器を搭載して、ワシントンに打ち込む」と発言すれば、米国は、朝鮮半島有事に介入することをためらう可能性もある。
韓国政府は、「北が開発しているロケットなどは深刻な脅威ではない」と言うが、現実的には、極めて深刻な脅威になってきている。
文在寅政権は、韓国国民をいつまで騙し続けるのだろうか。安全保障にかかる「うそ」や「誤り」は、国家の悲劇を生むことになる。
この深刻な脅威は、ソウルにある各国大使館、外国企業、旅行者も当然巻き込まれるので、韓国だけの問題ではない。仁川空港が破壊されれば、逃げることもできなくなるのだ。
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