Credit:講談社/MMR マガジンミステリー調査班
point
  • 人類の絶滅についてどう思うかという調査研究が数千人を対象に行われた
  • 調査によると、多くの人々が人類の滅亡についてあまり関心を持っていない事実が明らかに
  • この原因は、多くの人が人類は長期的に良い未来を築けないと悲観的に考えているため

「人類が滅亡する」というネタは至るところで聞きますが、実際多くの人々は人類滅亡という問題についてどう考えているのでしょうか?

最近発表された調査によると、多くの人々は人類の滅亡についてあまり関心がないのだと言います。特に完全に人類が滅亡するという問題と、人類の一部が滅亡するという状況について、差を付けて考える人は少ないようです。

国連で演説した少女に冷淡な反応を見せる人が多いのも、「ほとんどの人が人類滅亡に興味を持っていないから」という理由が潜んでいるのかもしれません。

この論文は、オックスフォード大学の研究チームにより発表されており、10月21日付けで自然科学分野のオープンアクセス学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。

The Psychology of Existential Risk: Moral Judgments about Human Extinction
https://www.nature.com/articles/s41598-019-50145-9

人類の滅亡は悲劇なのか?

この研究では、アメリカとイギリスで2500人以上を対象に「人類滅亡に関する意識調査」として行われました。ここで使われた代表的な質問の1つが、次の3つに付いて最良から最悪までランク付けの評価を行ってもらうというものです。

1.人類は滅亡しません

2.世界人口の80%が絶滅する災害

3.世界人口の100%が死滅する大惨事

ほとんどの人は当然ですが、1を最良と評価し、3を最悪であると評価します。3を最良と考えるような人もいるかもしれませんが、それはノイズレベルの少数派です。

これはごく当たり前な結果です。問題はここから行われた追跡調査です。

1の人類がいつまでも平和であるという状態と、2の人類の大部分が絶滅するという状態については大きく差を付けた評価が多いのですが、2と3の人類の完全絶滅については、特に評価に大きな差を付ける人がいませんでした。

つまり、人類が完全に全滅するのも、一部生き残るのも、同じ程度悲劇だと考える人が多いということです。

これも当たり前だと感じる人は多いかもしれませんが、人類の大部分の絶滅と完全な絶滅は、本質的に大きく状況の異なるものです。

ここからわかるのは、多くの人にとって文明の崩壊は悲劇ですが、それ以上の悲劇である人類の完全な絶滅については大して関心がないということです。

そこで、研究者たちはこの問題を動物に置き換えて行ってみました。シマウマの80%が絶滅する」と「シマウマが地上から完全に絶滅する」という質問です。

この場合、ほとんどの人がシマウマの80%の絶滅より、完全な絶滅を遥かに大きな損失であると評価しました。人類の場合で考えたような、両者を同等の悲劇とは評価しなかったのです。

この原因の1つは、人間の絶滅と異なり、動物種の絶滅については人間が真面目に考えることに慣れているからだと言えます。シマウマ個々の死という悲劇より、シマウマのいなくなった世界という悲劇が想像できるためです。

そこで、研究者たちは少し内容を変えて、シマウマと同様に人類の滅亡を考えられるように質問を行ってみました。それは「人類すべてが不妊になる災害」と「人類の一部が不妊になる災害」です。これは誰かが死ぬわけではなく、人類の未来に対する問題を意識させる質問です。

この場合、多くの人は人類すべてが不妊になる方が、はるかにひどい災害であると評価する結果になりました。

人類の未来に悲観的な人類

Credit: depositphotos

研究が行いたかった本題の質問は、他にあります。それは人類が長期的に良い未来を築き上げていくというシナリオを十分被験者に伝えた上で、人類の滅亡に対する質問を行ったのです。すると圧倒的多数の回答者が、完全な絶滅は他に類を見ない悲劇であるという評価をしたのです。

ここからわかるのは、人類の未来にあまり明るい展望を期待していない人たちが多いという事実です。

明るい未来像を想像できないために、人類の絶滅をあまり大きな悲劇と捉えず、関心も抱かないのでしょう。

現代は、気象問題を始めとして終末論的な未来を語る人が多くいますが、これは逆に人類の滅亡に対して興味を失わせる原因になる可能性があると研究者たちは語っています。

むしろ明るい未来を語る楽観論の方が、人類の問題を真面目に考えようとする場合有益な可能性があります。明るい未来を想像するからこそ、人類の絶滅をこの上ない悲劇として問題視することができるのです。

確かに、将来に絶望している人ほど死にたがるのは当然のことです。人類の問題についても、明るい未来だけを想像する楽観主義のほうが、真面目に地球の問題に取り組んでいる人たちなのかもしれません。

クマムシのDNAを人に組み込む計画が進行中

reference:vox/ written by KAIN
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