2018年6月、福岡市の起業支援施設でIT講師の男性を殺害するなどの罪に問われた男の裁判員裁判が11日に開かれ、男は起訴内容を認めた。

 起訴状によると、福岡市東区の無職・松本英光被告(43)は、大名小学校跡地の起業支援施設に侵入。IT講師の岡本顕一郎さん(41)の心臓などをナイフで刺し、殺害した罪に問われている。福岡地裁で開かれた初公判で松本被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。

 松本被告は精神的な病気を抱えており、責任能力の有無と程度が争われている。検察側は「病気の影響は限定的で、完全責任能力があった」と指摘。一方の弁護側は「犯行当時、被告は心神耗弱状態であった」などと主張し、減刑を求めた。判決は今月20日に言い渡される予定となっている。

 犯行のきっかけとみられているのが、インターネット上でのやりとりだ。岡本さんはIT講師を務める一方で、「Hagex」の名でブログを執筆し、ネット上では名の知れたブロガーだった。そこに、幾度となく罵詈雑言の書き込みをしていたとされるのが、松本被告。松本被告がよく使っていた言葉が「低能」だったため、他のユーザーから「低能先生」と呼ばれるようになっていたという。

 松本被告の書き込みを問題視した岡本さんは、ブログの運営元に通報するなどの対応をとった。アカウントを削除された松本被告はその都度新たなアカウントを作り直し、書き込みを再開していたとみられている。捜査関係者によると、松本被告は「1カ月前に岡本さんのセミナーがあることを知って行こうと考えていた」と話していることがわかっている。

 松本被告が事件直後に投稿したとみられるブログには、「俺を『低能先生』の一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ」などと書かれている。ネット上でやりとりしてきた他のユーザーへのメッセージを残し、「これから近所の交番に自首して俺自身の責任をとってくるわ」と交番に出頭した。

 ネット上の争いがリアルの世界に波及し、殺人にまで至ったこの事件。臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学准教授の藤井靖氏は「根底には、ネットは現実より攻撃性が現れやすいということがある。(罵詈雑言を)簡単に言える、かつ文字だけのやりとりによってどんどんエスカレートしていき、それが当事者にも止められない状況が起こった。現実の人間関係とネット上の人間関係は、それぞれ異なる特性を持つにもかかわらず、両立し、かつ互いに影響し合っている。この関係をどのように自分でコントロールしていくかが重要だが、現実とネットの“相互乗り入れ”が中々うまくできない人が一定数いる。ネットで抱えたフラストレーションが爆発しそうになった時に、それを現実で発散してしまえばいいという発想で犯行に至ってしまったのでは」との見方を示す。

 では、松本被告はなぜネットの不満をリアルで発散する考えに至ってしまったのか。これについては、「現実生活がうまくいっていない、社会生活で失敗した、などということがあると、ネットに承認欲求のはけ口を求めて自分の存在感を確認し、一定の満足感を得るということはあると思う。しかし、自分の承認欲求が満たされたり他者との関係の中で居場所を得たりという経験は、ネットの中では永遠にステップアップしないことも多い。現実の人間関係では積み重ねがあり、一度周りから認められると、存在感や居場所が確保され続ける。一方でネットの名前も顔も知らない状況では、認められたければ常に発信し続けなければいけない。例えば松本被告も『低能先生』と認識されることはあったとしても、そこからステップアップして自分の地位が高まったり有名になったという感覚はなかったのではないかと思う。岡本さんの反撃にあったり、アカウントが削除されても、IDを200回ぐらい変えて攻撃していたわけで、受け手の“慣れ”や“飽き”が生じやすいネット世界において、満たされない欲求や解消されないフラストレーションが蓄積していたのではないか。それが最終的に刺殺という行動にまでエスカレートしてしまったと考えられる」とした。
AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
 

映像:Hagexさん刺殺事件で初公判

Hagexさん刺殺事件で初公判、臨床心理士「ネットで承認欲求満たしてもステップアップない」