アニメーターなどでつくる業界団体「日本アニメーター・演出協会」(JAniCA)が11月11日、「アニメーション制作者 実態調査報告書 2019」を公開した。好況と言われるアニメ業界ではたらく現場のアニメーターたちの「だんだんよくなったが、一般社会と比べてまだ差が大きい」「若者を使い捨てないで」といったリアルな声も紹介されている。

・アニメーション制作者実態調査 報告書2019 http://www.janica.jp/survey/survey2019Report.pdf

●アニメーション制作者の仕事・生活・意識の実態を明らかに

この調査は、大日本印刷(DNP)が、文化庁から委託されたメディア芸術連携促進事業の調査研究で、JAniCAとDNPが協力して実施したものだ。日本のアニメーション制作者の仕事や生活、意識の実態を明らかにするにことを目的としている。

シナリオ、絵コンテ、監督、演出、原画、動画、編集、プロデューサー、制作進行など、アニメーション制作にたずさわる人たちを対象に、仕事内容や働き方、契約、収入などを調べている。

調査期間は2018年11月6日から12月19日で、382人から回答があった。報告書によると、回答者の年間平均収入(2017年)は約440万円(有効360人)、約4割が年収300万円以下だった。1カ月の平均作業時間は約230時間(有効312人)だった。

●「いったい自分はアニメの何が好きだったのか」

報告書の自由解答欄には、さまざまな職種のアニメーション制作者たちが、労働環境について改善をもとめる声が少なくない。職種によって格差があるためとみられる。なかには、日々の疲弊から、かつてあったアニメに対する思いにも疑問を感じるような声もあった。

「アニメーションは夢や感動を与える仕事でやりがいはあるが、本数や各作業者のスケジュールの守れなさで現場の労働環境をなんとかしないといけないと思う。若者を低賃金、長時間労働で使い捨てにせず、ちゃんと教育して育ててほしい」(女性・20代・演出)

「目まぐるしい作品スケジュールと、それを管理し動かす周りの人間、日々の生活に、どんどん減っていく貯金残高。そんないろいろなモノに急かされて闇雲に頑張っていたら、いったい自分はアニメの何が好きだったのか、何故この業界にしがみついているのか・・・時々わからなくなるようになりました。心も身体も時間もお金も全く余裕がないのです」(女性・20代・動画)

「今の業界のシステムにおいて、原画マンとして最低限描けるようになれば、後は交渉次第で生活できるようになると思うのですが、それまでの新人時代は歩合制だとどうやっても苦しいと思います・・・(中略)・・・業界3年目くらいまでの人には何かしら生活が保障できるシステムに各社なれば良いなと思っています」(男性・30代・キャラクターデザイン)

●「アニメが消耗品になっているような」

「アニメが消耗品になっているような・・・もっと一本一本を大事にし、利益率が低いというのなら"どうすれば上がるのか(低いのは何故なのか)"を模索してほしいです。スケジュールも残業が前提になっていてヒドイもんです。"仕方ないからあきらめて奴隷のように働け、いやなら転職しろ"は思考停止。改善してほしいです」(女性・30代・作画監督

「日本のアニメが好きで、留学して日本のアニメ業界に入りました。でもなかなか好きな作品に携われないです。メチャクチャなスケジュールで画力を上げる時間(練習する時間)が確保できません。それで原画になれません。収入が低いので、保険、年金どころじゃなくて、食費すらきびしいです。この状況私たち外人だけではなく、日本の方も同じです。この一年(2018年)だんだんよくなった感じですが、一般社会と比べてまだ差が大きいです。とくに動画マンがつらいです」(男性・20代・動画)

「良いアニメを作れない会社は制作・製作問わずトウタされるべきだと思う。そのためには労働時間と賃金の見直しを一斉に行うことが大事だと感じる。すると自然に払えない会社がつぶれ絵の下手なアニメーターは減り、金の払えない制作会社はつぶれ、メーカーも減る。今、業界全体が過剰すぎる。この危機意識を持ち、大きな力が動くことを祈るしかないのが情けなく思う」(女性・20代・制作進行)

アニメ制作「実態調査」発表、若手は「食費すらきびしい」「心も体も金も余裕ない」