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 死はある意味平等であり絶対である。生きとし生けるものは最後に死を迎える。それは私もあなたも同様であり、そう遠い未来ではない。天命を全うしたとしても数十年先、なんなら今この瞬間、突然死を迎えることだってある。

 だが日々自分の死を実感するのは難しい。メメント・モリとは言うものの、自分に近しい人や有名人の死、事故や病気で感じることはあっても、毎日死と隣り合わせにあることを忘れがちなのだ。

 だがそれもそのはずだ。実は脳にはこの避けることのできない運命をリアルに感じさせないメカニズムが備わっているのだという。

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脳は自分が死ぬことを認めない

 イスラエル、バル=イラン大学の研究グループによると、脳は死を他人にしか訪れない不運と認識することで、その恐怖から私たちを守っているのだという。

 「脳は死が自分にも関係があるのだということを受け入れません」とYair Dor-Ziderman氏は話す。

 「この根源的なメカニズムのおかげで、自分と死が結びついてしまうような情報を脳が受け取ると、どこからともなくそれは信頼できないと告げられます。だから、それが信じられないのです。」

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Image by fergregory/iStock

自分の死が頭をよぎると脳は思考停止する


 脳が死に関連する思考をどのように扱っているのか確かめるために、Dor-Ziderman氏らは、画面にランダムでパッと映し出される一連の顔を参加者に眺めてもらうという実験を行った。

 このとき脳の活動をモニターしてみると、次に映し出された顔が自分の予想通りのものだと脳に驚きのサインが現れることがわかった。

 ところが、自分の顔と一緒に「葬式」や「埋葬」といった死を連想させる単語も映し出されていた場合、脳は予想を止めてしまっていたのだ。自分と死を結びつけることを拒んでいるらしく、驚きのサインが一切記録されなかったのである。

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死の恐怖に対する防御メカニズム


 このメカニズムは、いつか必ず訪れるであろう自分の死から目をそらし、今この瞬間を生きるために必要不可欠なものだという。

 研究グループのAvi Goldstein氏は、「自分についての予測をシャットダウンしたり、それに関する情報を自分ではなく他人に関するものに分類したりすることで、実存的な脅威、つまり私たちは死ぬのだということを意識してしまうことから自分を守っている」と説明する。

 こうした心理的な防御メカニズムは、心が発達し、誰でもいつかは死ぬということを悟るようになる初期の段階にスイッチが入っている可能性があるとのことだ。

昔より今の方が死への恐怖が増している

 Dor-Ziderman氏によると、昔なら、こうした自分もいつかは死ぬという考えに対する脳の防御メカニズムは、現実に身近な死が存在することでバランスがとられていたという。

 ところが現代では、社会は死をいっそう嫌うようになっており、病人は病院に、老人はケアハウスなどに隔離されてしまっている。

 その結果、人々は生命がどのように終わりを迎えるのかかつてほど知らないようになり、余計に恐怖が増していると考えられるという。

 なおケント大学の心理学者Arnaud Wisman氏によると、死から目を背けるための防御メカニズムは他にもあるという。 

 懸命に仕事や勉強に打ち込んでみたり、飲み屋で一杯やったり、常にスマホをチェックしてみたり、たくさん買い物をしてみたり――。

 現代人のライフスタイルは自分の死について考える時間などほとんどないのだ。だがそれがより一層死への恐怖を増幅させ、いつまでも自分の死に対する逃避を続けなければならないということであるらしい。

 この研究は11月15日付の『NeuroImage』に掲載される予定だ。

References:Prediction-based neural mechanisms for shielding the self from existential threat - ScienceDirect/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52284547.html
 

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