(北村 淳:軍事社会学者)

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 本年(2019年)5月から6月にかけて、オマーン湾周辺海域で6隻のタンカーが連続してテロ攻撃を受けた。それらのテロ攻撃の背後にイランが控えていると考えているトランプ政権は、これまでのアラビア半島周辺海域での対海洋テロ警戒態勢を一層強化するための多国籍海軍部隊の結成を国際社会に呼びかけていた。

 しかしながら、アメリカの呼びかけに応じる国は極めて少ない状態が続いていた。アメリカはイラン仮想敵としているため、アメリカが結成しようとしている多国籍海軍部隊は、場合によってはイランと対決することになりかねないためである。

「CTF-センチネル」司令部を開設

 結局、トランプ政権が多国籍海軍のアイデアを打ち出してから5カ月近くも経過してしまい、さらなる海洋テロが発生することを恐れたアメリカは、賛同する国がわずかしかない状態のまま多国籍海軍部隊を結成した。                               

 11月7日バーレーンにその多国籍海軍部隊の司令部が開設された。部隊の名称は「CTF-センチネル」(合同任務部隊センチネル)である。

 CTF-センチネルに参加したのはオーストラリアバーレーンサウジアラビアアラブ首長国連邦イギリス、アメリカの6カ国の海軍である。初代司令官にはアメリカ海軍アルヴィン・ホルゼイ少将が就任した。

これまでの警戒体制

 CTF-センチネルは、「多国籍海軍合同海洋部隊」(CMF)と平行して設置された。そのため、なぜ似通った任務を実施する多国籍海軍部隊が必要なのか? という疑義も呈され ている(CMFはイラン仮想敵にはしていないが、CTF-センチネルはその結成過程から判断するとイラン仮想敵にしているため、独立組織にせざるを得なくなったものと思われる)。

 2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ攻撃を受けて、アメリカは対テロ戦争を開始した。その一環として、バーレーンを本拠地にしているアメリカ海軍部隊中央集団が主導してCMFを結成し、アラビア半島周辺海域での対テロ対策を開始した。

 CMFの活動は現在も継続されており、3つの実働部隊(CTF-150、CTF-151、CTF-152)が各種パトロール活動を実施している。これら3つの多国籍艦隊を統括するCMF司令官は、アメリカ海軍中央集団司令官兼第5艦隊司令官が兼務することになっている。

 これまでCTF-150、CTF-151、CTF-152はどのような警戒体制をとってきたのか。それぞれの部隊の任務と参加国を以下のとおりである。

【CTF-150】

 CTF-150(第150合同任務部隊)は、アラビア半島を取り巻くホルムズ海峡~オマーン湾~アラビア海(北部インド洋)~アデン湾~ バブ・エル・マンデブ海峡~紅海~スエズ運河における海洋テロやテロリストの移動など国際テロ集団の活動を抑制するための作戦(海洋安全保障作戦)を実施する部隊である。

 CTF-150には、かつては海上自衛隊も加わっていたが、現在は加わっていない。現在のCTF-150参加国は、オーストラリアカナダデンマークフランスドイツイタリア、韓国、オランダニュージーランドパキスタンポルトガルシンガポールスペイントルコイギリス、アメリカの15カ国となっている。

【CTF-151】

 CMFは、海洋テロを抑止するための海洋安全保障作戦と並行して、海賊行為や麻薬密輸などの取り締まりにも尽力している。それらの違法行為は、テロ集団の資金源ともなっているため、海洋テロを助長し連携していると考えられているからだ。

 この作戦は国連安保理決議2316号に基づいてCTF-151(第151合同任務部隊)が実施しており、海上自衛隊も参加している。現在のCTF-151構成国は、オーストラリアバーレーン、ブラジル、ブルネイインドネシア、日本、韓国、ニュージーランドサウジアラビア、タイ、イギリスである。

【CTF-152】

 ペルシア湾における海洋安全保障作戦と、ペルシア湾岸諸国イランは除く)の石油や天然ガスの積み出し港ならびに関連施設に対するテロ攻撃阻止を実施しているのがCTF-152(第152合同任務部隊)である。

 989キロメートルに及ぶペルシア湾岸とペルシア湾を警戒監視しているCTF-152参加国は、現時点では、オーストラリアバーレーンフランスイタリアヨルダンクウェートカタールサウジアラビアアラブ首長国連邦イギリス、アメリカの11カ国である。

対テロ作戦には参加していない日本

 日本は原油の99.7%を輸入に頼っている。そして輸入原油の88%以上はペルシア湾ならびにオマーン湾岸諸国サウジアラビアアラブ首長国連邦カタールクウェートイラクオマーンバーレーン、それにイランイランからの原油輸入はアメリカの経済制裁により停止中)からタンカーによって搬送されている。

 それらのタンカーのうち、アラブ首長国連邦のフジャイラ首長国とオマーンの積み出し港から日本に向かうタンカーは、オマーン湾からインド洋に出る。それ以外のタンカーはペルシア湾からホルムズ海峡をオマーン湾に抜けてインド洋に出ることになる。

 かつてはホルムズ海峡が最も危険なチョークポイントとされていたが、現在はペルシア湾やオマーン湾でのテロ攻撃も頻発しており、今やペルシア湾~ホルムズ海峡~オマーン湾の全てにおいて海洋テロ発生の危険度が増大している。これらの危険海域を通過するタンカーが向かう国のうち、最も通航量が多いのが中国。次いでインド、日本、韓国となっており、その4カ国で全通航量のおよそ60%を占めている。

 通航量第1位の中国は、かねてよりアデン湾方面に軍艦を展開させており、海賊とテロ攻撃に対する警戒監視を独自に進めている。ただし、今年(2019年)のタンカー攻撃事件後にアラビア半島周辺海域の警戒態勢を強化してはいない。もっとも、アメリカ政府が主張しているように、一連のタンカーに対するテロ攻撃の黒幕がイランであるならば、中国関連タンカーがテロ攻撃を受ける恐れはない。

 これまでのところアメリカ主導の多国籍艦隊には参加していないインドは、6月のタンカー攻撃事件を受けると素早くオマーン湾に軍艦と哨戒機を派遣して、独自の警戒措置を開始した。そして、アメリカ主導のCTF-センチネルに参加することもなく、自律的に自国に関係するタンカーを保護する姿勢を示している。

 日本と韓国は、ともにCTF-センチネルには参加していない。韓国はCTF-センチネルへの参加を検討していると言われているが、まだ参加を表明してはいないようだ。ただし韓国海軍は、海賊対処多国籍部隊であるCTF-151だけでなく、対テロ作戦多国籍部隊であるCTF-150にも参加している。

海自部隊の速やかな派遣が不可欠

 アラビア半島周辺のテロ危険海域を通航するタンカーの通航量が多い国々のうち、対テロ警戒監視態勢をとっていないのは、結局、現時点では日本だけという状態である(海自艦艇と哨戒機が従事しているのは、対海洋テロ作戦ではなく海賊対処作戦である)。

 日本政府は、イランとの友好関係を維持するために、本質的にはイランを敵視していると言わざるを得ない CTF-センチネルへの参加を見送った。そのかわりに、独自の警戒監視部隊をアラビア半島周辺海域に派遣する検討に入っているという。

 しかしながら、日本関連タンカーがテロ攻撃を受けてから5カ月も経過したにもかかわらず、インド海軍のように艦艇も哨戒機オマーン湾やホルムズ海峡方面に派遣してはいない。

 多国籍対テロ警戒の枠組みに参加しない日本が、このままズルズルと独自の警戒監視努力もしない状態が続けば、国際社会からは自国の海上航路帯を防衛する意思すら持たない卑怯者とのレッテルを貼られ蔑(さげす)まれ、国際社会での地位がますます低下することは必至である。

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