給料や貯蓄などのお金の話や学歴については、仲の良い友人間でもなかなか話題にしづらいが、もっとも話題にすることがタブーだと思うのは「宗教」の話だ。「何の宗教に入ってるの?」なんて、生まれてから1度も聞いたこともないが、1度だけ聞かれたことがある。

ママ友のY美だ。彼女はある宗教に入信しており、彼女の両親も、そのまた両親も同じ宗教に入信している。しかし、彼女の小さな息子は入信させていないという。宗教の世界では、2世3世は当たり前で、「教え」は育児の中にちりばめられていく。今回は親から子へ伝わる「宗教教育」についてご紹介し、また考えていきたいと思う。

日本人はどれくらい宗教に入っているの?

アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターの「アメリカ人の宗教に関する調査」(2019年、※1)によると、自分の宗教について尋ねられたとき、アメリカの成人の65%が「キリスト教である」と述べているようだ。しかし2009年では77%だったというのだから、衰退著しい。一方、「特になし」と回答した人は26%となっており、2009年の17%よりも増加傾向にある。とはいえ、何らかの宗教に入っている(入信している)人が多数派となっているようだ。

日本人はというと、NHK放送文化研究所も参加している国際比較調査グループ(ISSP)が2018年10~11月に実施した「宗教に関する調査」(※2)によると、「信仰している宗教はない」と回答した人は62%にもおよぶ。2008年は61%となっており、アメリカのように増加傾向にはないものの、多くの人が「自分は無宗教だ」と回答しているようだ。一方、「宗教を信仰している」と回答した人は2008年は38%、2018年は36%と変化はなく、依然として少数派のようだ。

「LIMO[リーモ]の今日の記事へ」

ママになると「宗教勧誘」急増のなぞ

筆者は「宗教」について、あまり考えず大人になってしまったと思っている。
もちろん初詣やお墓参りにも行くが、だからといって「仏教徒です」と公言できるかと言われると…疑問なのである。

しかし筆者が子どもを産み育てるようになると、宗教に勧誘されることがかなり増えた。こういう人は多いのではないかと思う。もちろん、子どもがいなくても宗教勧誘されたことはあるものの、産後は急増。
だいたいが駅の近くを歩いていたり公園で遊んでいると、「子ども産むと大変でしょ?」「あなたの苦労分かる。こっちへ来てみんなで悩みを分かち合いましょう」などの声かけをされるのだが、驚いたことにママ友にも宗教勧誘をされたことがある。

ママ友 宗教勧誘」でインターネット検索すると、多くの体験談が…。やはりこれも「普通」のこと?自分に知識がないからなのか、漠然と「怖い…」と思ってしまうからなのか、宗教勧誘されるとそのママ友とは疎遠になってしまう。

冒頭で書いたY美だが、彼女の場合は宗教勧誘されたわけではなく、「子育てしていると、宗教とどうやって関わっていこうか、悩むことも多い」との話をされただけだ。そのため、彼女の「宗教事情」を知りながら、いまだに関係を続けられている稀有な存在だ。

良いことはすべて「祈りのおかげ」

彼女が入信している宗教は有名で、誰もが知っていると思う。そして勧誘されたことがある人も多いのではないかと思う。Y美とはもう5年以上の付き合いになるが、さっぱりしていて誰の悪口も言わない、今でも気の合う友人だ。

しかし子育てについて話しているとき、彼女がぽつりと「私は両親に褒められたことがない」といった。
運動会徒競走で1位を取っても、テストで良い点数を取っても、どんな良い結果を残しても、親には『祈りが通じた』とか言われちゃう。お手伝い頑張っても『(宗教の)教えが良かったから、いい子になった』とか…。私の努力って、無意味なんだなって思うこともあった」と、悲しそうに話してくれたことをよく覚えている。

彼氏ができたとき言う?言わない?

Y美は今まで、周囲に自分の宗教についてほとんど話してこなかったようだ。

「自分が物心ついた時から宗教は身近にあって、祈りの時間や集まりはどこの家庭にもあると思ってた。小学生になってから、うちが『みんなと違う』ことに気づいて、宗教のことを話さないようにしてきた。でも小4のときクラスの女子から避けられるようになって、思い当たる節もなく辛かった。後々になって分かったんだけど、母が仲良くなったママ友に勧誘したことが噂になって広まっちゃってたみたいで」

「母は周りの人を『救いたい』って気持ちが強いから、勧誘を否定できない。でも…失いたくないものも色々あったかも。たとえば…親に彼氏を紹介するときは、やっぱり宗教のこと話さないといけないし。家に来ればすぐに分かるから。説明したあと、関係がぎくしゃくしてそのまま自然消滅したこともあった」

この話を聞いて、筆者はY美の周囲の人を責めることはできない…と感じた。「無視」などはいじめなので、そのやり方は絶対にダメだとは思うものの、勧誘されると今までの関係性が崩れてしまうことはよくあることなのではないかと思う。

子どもの人権と親の宗教

子どもは親を選べない、だからこそ虐待する親を周囲が放置しない・助けるべきだが、日本国憲法により保障される「信教の自由」については、周囲が判断することは難しい。親が信仰する宗教に子を入信させる、この行為がダメなことなのか良いことなのか、簡単に判断することはできないことが多いと思う。Y美は親になった今こそ、宗教とどう向き合うか真剣に考えることが増えたという。

「私は親を恨んでいないし、むしろ感謝してる。宗教に関して嫌な思いをしたことはあるけど、親との関係はこれからも大事にしたいと思ってる。私はずっとその宗教の教えをもとに子育てされてきているから、宗教は私のアイデンティティそのものでもあると思うの。簡単に否定できない」

「でも、いざ自分が親になったとき、宗教とは切り離して育児をしてみたい…とも思ったの。私自身は宗教の教えを叩き込まれているから、その私の育児ももちろん、宗教からきっちり切り離すことはできない。でも、息子には『祈りの時間』や『集会』を強要せず、自分で決めて欲しいと思ってる。夫も理解してくれているけど、入信しているわけではないし。ただこのことで、両親と言い争いになっちゃって…」

「宗教」を考える時間、日常の中にもっとあっても良い

世界には様々な宗教があり、何を信仰しようと自由である。そして「何も信仰しない」こともまた、自由だ。死んだらいずれお墓に入る…と漠然と考えている人はいても、「私は仏教徒です!」とはっきり公言できる人は、日本にどのくらいいるのだろうか。

「宗教って何だか分からないし…怖い」ではなく、その成り立ちや信仰について学び考える時間がもっとあっても良いのではないかと思う。

そしてY美の「宗教」との関わり方の変化も尊重されるべきであり、Y美の息子にもまた「宗教について考える時間」がたくさん与えられることを願っている。

【参考】
(※1)“In U.S., Decline of Christianity Continues at Rapid Pace”Pew Research Center
(※2)『日本人の宗教的意識や行動はどう変わったか』NHK放送文化研究所