東京観光をはじめ、様々な旅をエスコートしてくれる「はとバス」。その「バスガイド」とはどんな仕事で、どんなところがやりがいなのでしょうか。人によって内容に色が出るともいうそのお仕事、「七つ道具」などについて話を聞きました。

採用試験には「歌」や「朗読」もアリ

バスガイド」とは、どのようなお仕事なのでしょうか。

このたび話を聞いたのは、観光バスはとバス」にて、15年にわたりバスガイドを務める吉塚里美さんです。トレーナーとして、後輩の指導もしているそうです。

――いつごろ、なぜ「はとバスのガイドさんになろう」と思ったのでしょうか?

中学の修学旅行で出会ったバスガイドさんに憧れたのがきっかけです。と言っても、はとバスではなくて、最終日に最寄り駅から学校まで送ってくれたバスでのことでした。たった1時間だけの乗車でも忘れがたいくらい、本当に楽しくてあっというまで。さらに印象に残ったのが、そのバスガイドさんが18歳だと分かった時でした。自分とそんなに歳が違わないのに、立派に、そして生き生きとお仕事をしている姿を見て衝撃を受けて、この道を目指そうと思いました。その方に出会わなければ、バスガイドにはなっていないと思います。

――はとバスでは入社にあたり、どのような試験を受けるのでしょうか?

バスガイド限定の部分で言うと、歌や朗読、それから自己PRもあります。実は今日このあと、来年度入社の採用試験があって面接官を担当するのですが、私は第一印象をとても大切に考えています。緊張する場で笑顔が出せるか、目を見て伝えようとしているか、そういったことは練習というより、経験の回数によるところも大きいので、バスガイドになりたい方はぜひ、人前に出る場数を踏んできてほしいと思います。

「七つ道具」は本当に7つ

――入社してから、覚えることがたくさんありそうです。

まずは、「教本」を丸暗記します。ガイドにおける内容や言い回し、タイミングなど、代々受け継がれているものがあるので、しっかり覚え、変更があった情報は切り貼りして、更新していきます。実際に乗車するようになると、毎回どこの信号でひっかかる、といったことが分かってきますから、そこで自分ならどのような情報を足そうか、と考えるようになります。歴史が得意だったり、食べ物に詳しかったり、掘り下げる部分によって、個人個人のカラーが出てくるのだと思います。

もともと私はアンテナが低いタイプだったのですが、お客様とのやりとりに応えられないのが悔しくて、「すぐ調べる」ことを癖づけしようと、誰よりもスマホを使っている時間は長かったと思います。それはいまも変わらなくて、「就職してからもこんなに勉強する仕事だったんだ」と驚いています。

――入社15年目になったいまでも、教本は使われるんですか?

はとバスガイド「七つ道具」のひとつですから、常に持ち歩いています。「七つ道具」はほかに「車内に掲示するネームプレート」「ハンカチ・ティッシュ」「ご案内の時に着用する手袋」「身だしなみ用の歯磨き」それから「靴磨き」「バス誘導用の笛」ですね。笛は、病院の近くなど使用できない場所がありますし、いまはバスに集音マイクがついていて、私たちが誘導する声も運転席へちゃんと届きますから、使うことは少なくなりました。

お仕事は前日の準備から

――1日のお仕事の流れについて教えてください。

まずは前日から、どのルートに乗るかを調べて情報の整理など、準備をします。出勤して、健康状態の連絡後、当日乗るバスの掃除と点検をします。車内が清潔に保たれているか、シートベルトが伸びるか、空調はきくか、向きは変わるかなど、細かくチェックしたのち、お客様をお迎えにあがります。

ご案内中、お客様がお昼を取られる場合は私たちも休憩しますが、たとえばお客様の昼食時間が1時間ならば、お食事前後のご案内やそのあとの準備などがあるので、バスガイドは20分くらいですね。それから場所によりますが、たとえばお客様が自由に散策へ行かれる時などは、そこが私たちの休憩時間になります。

お客様をお送りし、忘れ物の確認をして、会社に戻ったら、車内のゴミを集め、窓を拭き、床を掃くなど、次の日にさっと点検するだけですむようにバスを整えます。そして、翌日の仕事を調べて帰宅し、また準備をする、という感じですね。

「お礼のお手紙は宝物です」

――一度乗ったお客さんのことは覚えているものですか?

どうでしょう、覚えていると思いますよ。常連の方はほかの場所でお見掛けしても分かりますし、きっと誰でも覚えていられるようになると思います。ガイドは朝、ご乗車いただいてから最初の降車場所までのあいだに、その日のお客様全員の顔を覚えるよう心がけています。

あとからお礼のお手紙をいただくこともあって、それは宝物ですね。たくさんのお客様にお会いしながら、美味しいものを食べられたり、宿泊ツアーでは各地の温泉に入れたり、楽しい仕事だな、と思っています。

――バスガイドになりたい、という人は、どんな準備をしたらいいでしょうか?

まずは何をするにも必要なのは体力ですから、風邪などひかないよう、体調管理の仕方をつかんでおいてほしいですね。あとは何があってもめげない心と、おもてなしをするために「自分がどんな風にしてもらったら嬉しいか」ということに気付ける感受性を持ってほしいです。幅広い世代の方と会話する経験もあるといいですね。

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穏やかな笑顔で包容力があり、「吉塚さんの旗ならどこまでも付いていきたい!」と思わせる魅力にあふれていました。

●「バスガイド」のお仕事:株式会社はとバス 吉塚里美さん
・夢実現力:☆☆☆☆☆台
・美声指数:☆☆☆☆☆台
・記念写真経験値:☆☆☆☆☆台
・リサーチ・フットワーク☆☆☆☆☆台
・顔認知能力:∞台(驚異的!)

はとバスでバスガイドを務める吉塚里美さん。後進の指導や採用試験にもあたっている(2019年10月15日、乗りものニュース編集部撮影)。