世界第1位の養豚王国・中国、
豚コレラで廃業する養豚農家が
多数出る可能性

中華料理というと、海老などの海鮮食材を思い浮かべる人も多いと思うが、中国人にとっては豚肉だ。中国では4億頭以上の豚が生産されていて、2位の米国を大きく引き離し、世界第1位の養豚王国となっている。

しかし、その養豚が、アフリカ豚コレラに感染し、報道によると、養豚数が4割も減少したという。圧倒的1位の国の4割減なので、世界の養豚数も大幅に減少したことになる。

そもそもが中国の養豚業は、近代化が遅れていた。それが今、機械学習や顔認証技術といったAIを活用して、IoA(Internet of Animals)養豚への模索が始まっている。

米国などの先進的な養豚場では、平均飼育頭数は250頭で、母豚は年に30頭の子豚を生む。しかし、中国では平均頭数150頭、子豚の生産も20頭程度と、規模も生産性も悪い。

一言で言えば、昔ながらの養豚を続けていたのだ。個人農家が小規模に行い、機械化もされていないため、作業は重労働になる。飼料が粉塵化して舞っていて、糞尿の匂いもする。きつい、汚い、危険の典型的な3K労働であるために、若者は嫌って都会に出てしまうため、後継者がいない。将来が見えないために、養豚農家は、近代化への投資をしたがらない。

中国の養豚飼育数は、2015年頃からじりじりと減少している。養豚農家が高齢化して運営が難しくなるとともに、米国などの輸入豚肉にコスト面でも負けて、市場を失い始めている。そこへ、今回のアフリカ豚コレラだ。これを機に廃業してしまう養豚農家が多数出るのではないかと懸念されている。

(世界各国の養豚頭数。中国は人口や国土も大きいが、それでも頭抜けた養豚王国だ。この他に、毎年60万トン前後の豚肉を輸入し、増加傾向にある。しかし、養豚業は前近代的で遅れている。国連FAOの2017年統計を元に作成)

四川省成都市の徳康集団、
アリババ傘下のアリクラウドと共同で
AI技術を養豚場に導入する試み

養豚、養鶏による食肉生産を行っている四川省成都市の徳康集団では、立ち遅れている中国の養豚業を近代化するため、アリババ傘下のアリクラウドと共同して、AI技術を養豚場に導入する試みを行っている。

アリクラウドは、人工知能エンジン「ETブレイン」を持っているため、これを使って、養豚業を一気に近代化しようというもので、四川省宜浜市麻衣村の契約養豚農家をモデル豚舎として、開発プロジェクトを進めている。

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「会社に騙された」という言葉を
口にするエンジニアも

しかし、麻衣村の養豚場に派遣をされた20名のアリクラウドのAIエンジニアは、当初、絶句したという。AIで業務効率化をするには、まずはセンサーを取り付けてデータ収集をしなければならないが、麻衣村の養豚場にはそんなデバイスなど設置されていない。それどころか、WiFiもなければ、電源すら怪しかった。センサーを設置しても、飼料が粉塵化して舞う環境の中では、故障の不安もあった。そして、何より、エンジニアたちは、こんな不衛生な環境の中で仕事をしたくなかった。「会社に騙された」という言葉を口にするエンジニアもいたという。

しかし、豚舎の環境改善を行い、センサーユニットが天井のレールを低速で走り、豚舎内を巡回する方式が考案されたあたりから、開発が本格化した。1頭の豚の行動データを連続して取ることはできないが、数分に1度、センサーが回ってきて取得する離散型の行動データでも、機械学習には十分であることがわかった。

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豚の顔認識技術の開発では、
アリクラウド、京東農牧、網易などの
テック企業が参入

センサーにはカメラ赤外線カメラレーダーなどが搭載され、計測データを解析することで豚の心拍数、呼吸数、皮膚体温などを推定する。また、食事、睡眠などの行動データも機械学習により、分類ができるようになり、そこから病気などの健康状態も推測ができるようになった。豚の背中には特殊塗料で、識別IDがペイントされ、これを元に個体ごとのデータに分類をする。

また、地元の養豚農家の間には、「豚は尻を見ればわかる」という言葉がある。尻の脂肪のつき方により、豚の健康状態や肉質などがわかるというのだ。エンジニアチームは、この言葉をヒントに豚の尻の形状の機械学習を進めている。どのような関連があるかわかるのはこれからだが、ひょっとすると、効率的な養豚の鍵になるかもしれない。

(徳康集団がアリクラウドと共同して開発をしているAI養豚舎。通路の天井にレールを設置し、センサー類が巡回することで、豚の状況データを取得する。豚には特殊塗料でIDをペイントし、個体識別を行う。「徳康頭条:総第3期」より引用)

さらに、豚の顔認識技術の開発では、アリクラウドだけでなく、京東農牧、網易などのテック企業が参入をし、激しい開発競争が始まっている。これは、人間と同じにように、豚も顔で個体識別しようというものだ。

中国の養豚業は著しく立ち遅れているため、今回のアフリカ豚コレラのようなパンデミックに対して脆い。衛生設備が不十分な上、養豚農家の感染症に対する知識が不足しているため、殺処分した豚を適切に処理せず、それが新たな感染源になってしまうことがあるからだ。

(畜産業にAIを活用した管理システムを開発している京東農牧畜サイト。この他、アリババ系のアリクラウド、網易などもAIを活用した管理システムを開発していて、競争が激化している)

中国国務院は、2020年から死亡した豚は
完全無害化処理をすることを義務付け

そこで、中国国務院は、2020年から、死亡した豚は完全無害化処理をすることを義務付ける方針を打ち出した。しかし、小規模農家では、完全無害化処理の費用負担が大きく、この方針は形骸化してしまうのではないかと懸念されている。そこで養豚保険制度が整備された。農家はわずかな掛け金を支払うだけで、完全無害化処理をした場合、保険会社から補償金が得られ、無害化処理費用を賄えるというものだ。補償金の8割は政府が援助をする。

ところが、この養豚保険の経営が難しく、すでに保険会社全体で16億元(約250億円)の赤字が累積しているという。このままでは、2020年には、養豚保険制度が崩壊しかねない。

保険会社の赤字の最大の原因が、養豚農家の豚が死亡をすると、調査員が現地を訪問して、さまざまな記録から、死亡した豚が保険登録した豚であることを確認する作業が発生することだ。ここにコストがかかっている。特に感染症で大量に豚が死亡した場合、殺処分をした場合などは、保険の調査が滞ってしまう。

そこで、豚の顔認証技術の開発が進めてられている。これが人間並みの精度が出れば、養豚農家が死亡した豚の写真を何枚か送ってくれるだけで個体識別が可能になり、調査業務は大きく効率化することができる。

保険会社に、豚の顔認証技術を売り込もうと、アリクラウド、京東農牧、網易をはじめとするテック企業が開発競争を始めている。

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どんどん変わっていく豚の顔、
簡単ではない豚の顔認証技術

しかし、豚の顔認証技術は簡単ではないようだ。なぜなら、豚の顔は、年齢とともに脂肪が乗り、深いシワがランダムにできるため、顔がどんどん変わっていくからだ。だいたい110日から120日の周期で、顔が大きく変わるという。

そこで、各社とも採っている手法が、継続追跡だ。豚のケージの正面にカメラユニットを設置し、毎日顔の写真を撮影し続ける。数ヶ月では顔がまったく変わってしまうが、1日であればほとんど変わらない。直近の顔データ群と、死亡した豚の顔データを比較することで、個体識別をしようというアイディアだ。

各社ともに、狙っているのは、豚の顔認識技術だけではない。京東農牧では、人工知能エンジン「神農ブレイン」をベースに、効率的な生産システムの導入を狙っている。導入済みの農家では、養豚コストを30%から50%も低減することに成功しているという。さらに、アリクラウドは「ETブレイン」の導入を狙い、網易は「網易黒豚」の導入を狙っている。前近代的だった中国の養豚業は、人工知能によって一気に近代化をしようとしている。

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