ABBAのベニー・アンダーソン、ビョルン・ウルヴァース作曲、『エビータ』『ジーザス・クライスト=スーパースター』のティムライス原案・作詞の伝説のミュージカルCHESS』。1984年リリースされたコンセプトアルバムからスタートし、1986年にはロンドンミュージカル版が開幕。1989年までロングランを記録した。日本では、2012年2013年コンサート版を、2015年にはミュージカル版を上演し、大成功を遂げた。

2020年、日本で上演されるミュージカルCHESS』は、ロンドン初演版台本を用いた新演出で、英ミュージカルトップクラスとの呼び声高いニックウィンストンが演出・振付を担う。

ソビエト連邦チャンピオンアナトリー役に『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』などで主演を果たし、『プリンス・オブ・ブロードウェイ』『4Stars』などで来日し、人気を博すラミン・カリムルー。アメリカ合衆国・世界チャンピオンフレディ役は、『ROCK OF AGES』UKツアーや、『WE WILL ROCK YOU』で活躍し、華麗なダンスと美声を惜しみなく披露する若手の新星、ルーク・ウォッシュ。

フレディのセコンド役であり、アナトリーと恋に落ちるフローレンス役は『レ・ミゼラブル』25周年記念コンサートエポニーヌ役を務め、同作映画でも同役を射止めた、世界中で注目されるサマンサ・バークス。そして、審判のアービター役にはLE VELVETSメンバーであり、『レ・ミゼラブルジャン・バルジャン役や、『エリザベート』フランツ・ヨーゼフ役など、いまや日本ミュージカル界屈指の歌い手となった佐藤隆紀と錚々たる顔ぶれで、緊迫する戦いの場面を、時に重厚感たっぷりに、時に軽やかに魅せていく。

先日、大阪市内でおこなわれた取材会では、アナトリー役のラミン・カリムルーと、アービター役の佐藤隆紀が登場。この日が初対面だったという二人だが、すっかり打ち解けた様子で気さくに応じてくれた。

ラミン・カリムルー

ラミン・カリムルー

まずは、お二人からご挨拶が。「こんにちは、ラミン・カリムルーです。よろしくお願いします。この素晴らしいカンパニーに参加できることをとても楽しみにしております。『CHESS』は大好きな作品で、日本でフルミュージカルを上演できることがとても楽しみです」とラミン。

ラミン、サマンサ、ルークという豪華キャストと共演できることが本当にうれしいという佐藤は、「とても緊張もしています」と率直な感想を。「『CHESS』はまだ生で見たことがなくて、楽曲を聴いたり、動画を観たりしているのですが、ゾクゾクするような曲がたくさんあって、今回、すごく楽しみだなぁと感じています」と期待を募らせた。

ミュージカルCHESS』の一番の魅力は?と尋ねると、「音楽が素晴らしい。本当に素晴らしいスコア(楽曲)を持っている」とラミン。「ティムライスと、ベニー&ビョルンが最高のチームになって作り上げたと思っています。それぞれのキャラクターストーリーもあって、『レ・ミゼラブル』のように色々な人物が登場し、それぞれのストーリーが描かれています。観客の皆様には様々な役のストーリーを追っていただき、きっと予想もできないようなものや、つながりを感じてお帰りいただけるだろうと思います。また、ラブストーリーもありますので、大変面白い作品になってると思います」と続けた。

佐藤隆紀

佐藤隆紀

ABBAの音楽を聴いて育った佐藤も、曲が素晴らしいと絶賛する。そして「この豪華キャストを日本で観られることはなかなかないと思うので」とキャスティングにも注目してほしいと力を込める。「ラミンさんは前回、僕がジャン・バルジャンを演じさせていただいた時に動画を観て、素晴らしいなぁと思っていた方。そんな方とこうしてご一緒できるなんて…! サマンサさんも、『レ・ミゼ』映画版でエポニーヌ役をされている姿を観て、何て歌が上手い人なんだろうと感動しました。まさか今回、ご一緒できるとは! 本当に身の引き締まる思いですね。本公演では字幕がつきますが、何しろ全編英語で歌うので、そこの壁もちゃんと越えられるように、しっかり早めに練習して皆さんについていきたいなと思っています」と意気込んだ。

ソビエト連邦の代表選手ながら、アメリカフローレンスと恋に落ちたアナトリーは、故郷を捨てて亡命する。「僕はイラン生まれです。イランでは政治的な問題が常に起こっていますが、そういう時代に生まれて、いろんな国を旅してきました。そういう部分がアナトリーとすごく重なると思っています。アナトリーも故郷を探し続けている。ただただチェスが好きなだけなのに、ただ普通に生きたいだけなのに、それもロシアの政治、アメリカの政治によって邪魔されてしまう。アナトリー役が持つ故郷を探すという面が共感できます」とラミン。

アナトリーとフレディ、そしてソ連とアメリカという国に挟まれながらも、審判という立場ゆえに中立を貫くアービター。佐藤はこの役をどのように捉えているのだろうか。

「冷徹で、フェアというところを作っていきたいですね。普段の僕は結構、優しく見られますし、自分自身も中間が好きな人間なので(笑)、冷徹な感じをきちんと役の中で作っていかないといけないと感じています」

ラミンにも役作りについて尋ねると、「ベニー&ビョルンのABBAというポップ界最大グループのお二人が作曲しているものではあるが」と前置きをしつつ、「それ以前に僕はアナトリーというキャラクターに色々なアイディアを持っている」と話した。「ただそれは、演出のニックウィルソンさんのアイディアと合わさってどうなるか。今回はニックさんのビジョンが一番大事で、そこに自分をどうはめていくか取り組んでいきたいと思っています。私はいつも台本や歌は必ず稽古初日までに全て覚えていきます。稽古場はセリフを覚える時間ではなく、プレイする時間、遊んで演じる時間だと思っているので、そこからアイディアをたくさん集めて、ニックビジョンとどのようにはまるか、やっていくことが大切だと思っています」

(左から)ラミン・カリムルー、佐藤隆紀

(左から)ラミン・カリムルー、佐藤隆紀

日本での合同稽古は2020年1月から始まる。それまでの間、佐藤はどのように過ごすのだろう。「やっぱり世界で活躍される方の存在感を肌で感じられる稽古場というだけでも、いつもとは全然違うと思いますし、その場面ではどういう表現で歌うのかとか、色々と勉強したいですね。覚えてくるのは当たり前、稽古場は遊ぶ場、プレイするところだというご意見は素晴らしいですね。かなり身が引き締まる思いです。僕は全編英語ですし、いつも以上に準備しないとなって変な汗が出てきました(笑)

そんな佐藤を見てラミンは「いい人ぶろうとして言っているわけでなくて、僕も日本人の役者さん、シュガーさん(佐藤のニックネーム)から多くのことを学びたいと思っています。僕が主役というわけではないですし、『CHESS』という作品をみんなで創り上げたいと思います」とエールを送る。

また、全編英語に身構える佐藤に「歌を全部覚えたら緊張もとれますよ。日本語だったら楽ですけどね」と優しく語りかけるラミン。「いやいや、日本語でも緊張するキャストばかりです」と佐藤が返すと「じゃあ、私がいつか『エリザベート』を日本語で演じましょう。そしたら同じ緊張感を味わえます。その時は日本語を教えてくださいね」とウィンクしながら提案をするラミン。そんなやり取りにも、ほっこりとした空気が流れた。

佐藤は稽古場で共演者を見習ったり、盗みたいと話していた。普段は稽古場で共演者たちのどういうところに注目しているのだろうか。

佐藤隆紀

佐藤隆紀

「めちゃくちゃ細かいことですけど、例えば口をどのくらい開いて歌っているのか、舌の位置はどうなっているのか、歌っている時の体のどこに力が入っていそうかとか、高い音が出てる時にどのくらい声帯が閉まっているのかとか……。そういう部分はマイクを通すと意外に分からない部分があって、生で聞くと‟こういうテクニック使ってるんだ“と分かるんですよね。発声が大好きなので、どうしてもそういうところを見ちゃいますね」と明かした。するとラミンが「思い出した!」と目を輝かせる。「昨夜、城田優さんとお会いした時、シュガーさんは声帯とか、そういうことにお詳しいという話を聞きました!」とすでに情報を仕入れていたようだ。

そんなラミンは稽古場で共演者のどこに注目するのだろうか。

「私は歌のトレーニングを受けていないので、歌に関してはそれほど詳しくないのですが、例えばドラマ出演でしたら、撮影現場やリハーサルで他の役者さんの台本を見るのが好きです。台本にどれくらい書き込みがあるか、アイディアが書きこんであるか、あまり綺麗すぎると準備していないのかなと思ったり。でも、台本に書き込むのは失礼だということで別にノートをお持ちかもしれないので、それだけで判断してはいけませんが(笑)、そういうところを見ます」。そんなラミンに、意外なチェックポイントもさることながら佐藤は「ラミンさんがトレーニングしてないって、これだけ歌えるのにもう信じられないです」と驚きの声を上げた。

それぞれの出演作は観ているものの、実際に顔を合わせるのは初めての二人。改めてお互いの印象を聞かせてもらった。

ラミン・カリムルー

ラミン・カリムルー

シュガーさんは素晴らしい美しいテナーの声をお持ちですけれども、僕は役者としてのシュガーさんとご一緒することも大変楽しみです。今回のカンパニーは多様で、とてもユニークな方々が揃っています。私は日本の役者の方とご一緒することがとても好きなんですね。まず、日本の文化が好きですし、この人だからこういう役になる、この人だから持ち込む要素があるといつも感じます。そういったものをシュガーさんもお持ちだと思うので、そこが楽しみです。その部分がジャン・バルジャンにも現れていたと思いますし、アービターにも表れると思います」とラミン。

佐藤は「ご一緒すると知る前からCDでラミンさんの歌を聴いていました。突き抜けるような高音の美しさや、柔らかく歌いながも次は力強く歌う、その表現の幅。それをすごく感じていて。お会いしたら本当に優しい方で、笑顔が素敵で、素敵な香りもするんです。その優しさは、ご自身がイランに生まれて、カナダに渡って、イギリスに渡ってという、見えないご苦労をされているからなのではと感じました。そういったご経験から来る人間的な優しさなんだなと感じています。一緒に舞台を作れることが今から非常に楽しみですね」と声を弾ませた。

日本での舞台を通じ、日本では今も演劇が守られ、神聖なものとされているように感じるラミン。「私のいるイギリスでは失われてしまった大切な伝統を感じられるので、お互いに良い影響を与え合っていると思います」と期待を寄せた。

(左から)ラミン・カリムルー、佐藤隆紀

(左から)ラミン・カリムルー、佐藤隆紀

取材・文・写真=Iwamoto.K

(左から)ラミン・カリムルー、佐藤隆紀