アニメの収録は、最初にテスト、そのあと本番の順番で行います。テストは、事前に台本を読んだり映像を見たりした役者が、「私は作品やキャラクターをこのようにとらえました」と表現する場です。そこで齟齬(そご)やスタッフサイドからの要望があった場合は音響監督が役者に伝え、本番ではそれを踏まえて演じてもらいます。

かつては、通し見、テスト、本テス、本番の順番でやっていました。フィルム時代は事前に映像を渡すことができませんでしたから、収録現場で一度みんなで通して見て、それからテストを行います。その後、本テス、本番という順番ですね。今は映像を事前に渡していますから、通し見とテストは自分でやっておきなさい、ということです。

限られた時間で収録を行うアフレコ現場には独特の緊張感がありますが、フィルム時代はもっと張り詰めていました。今はセリフを間違ってもちょっと巻きもどせばいいですが、フィルム時代は頭からやり直しですからね。昔の新人たちは、「ここで失敗したら大変なことになる」と思いながら、大変な緊張感のもと演じていたはずです。

僕自身は、テストの演技を見て「こうやってください」と細かく言うよりも、役者が台本を読み、できあがった映像を見ながら、「こういう芝居を自分はしたい」と感じて出してくるものを大事にしたいと思っています。特にレギュラーの役者さんは、キャスティングの段階で「こんなふうにやってくれるだろう」との期待がありますから、テストの段階で期待していたより膨らませてくれて、「この人を選んでよかったな」とうれしく思うことのほうが多いです。

基本的に収録は役者が一同に会して行いますから、テストのときに自分以外の声を聴くことも重要です。ベテランの人は「他の人がこういうふうに演じているから、自分は違う方向でやろう」と全体のバランスを見ながら芝居を切り替えることができますが、新人はなかなかそこまで考えられない傾向があります。もちろんオーディションでは、そうした対応力も見ているのですけどね。自分が想定してもってきた芝居を、テストで「こういうふうにしてほしい」と言われたときにしっかり対応できるかどうかが大きな分かれ目で、それによって次の作品に呼ばれるかどうかが決まると言ってもいいと思います。なかなか難しいことですが、臨機応変に対応できる引き出しを自分のなかに多くつくっておくことが大事です。

ベテランの人のなかには、テストでは本当の芝居を見せない人もいます。本番になって急に「テストのときはそうじゃなかったのに」と、いい意味で驚かせてくれるんですよね。反対に、使われないであろうことを前提にテストでは面白いことをやって、本番では普通に求められていることをやるパターンもあります。なので、もうテストのときから回しちゃうんですよね(笑)。本番がよければ当然そちらを使いますが、全体のバランスなども考えてテストのほうがよかったなと感じたら、「ちょっとテストのほうも聴かせて」と技術の人に言って、しっくりくるときは最初のテイクを使うことをよくしています。