ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)が迷走している。

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 年内に連邦下院で弾劾訴追される公算が強くなっているが、本稿では別の側面で問題視されているトランプの負の所業に光を当てたい。

 10月22日、米国でトランプについての新刊本が出版された。

 タイトルは『大統領の女たち:ドナルド・トランプという捕食者(筆者訳)』(ハチェット・ブックス)で、トランプの女性問題を新たに浮き彫りにした単行本である。

 トランプが過去、数多くの女性と浮名を流してきたことはすでに知られているが、本書はトランプにセクハラや性的暴行、強姦されたと主張する43人の新たな被害女性たちの報告事例をまとめたものだ。

 報告された被害女性はこれまでメディアには登場していない人たちで、著者である2人のジャーナリストが様々な手法を使って被害女性たちを探し当ててインタビューしている。

 大統領になる前からトランプの女性問題はメディアに幾度となく取り上げられてきた。

 ところが、前回選挙では大きい汚点にならず、さらに当選後も大統領の地位を脅かす騒ぎまでにはなっていない。

 本書で明かされた内容は、大統領になる前に起きたことだが、ビル・クリントン大統領モニカルインスキー氏と不適切な関係をもったことで弾劾裁判にかけられた事件に匹敵するほどの深度があると考える。

 被害女性たちはこれまで、「もう過去のことなので」とか「思い出したくない」といった理由で現職大統領を糾弾してこなかったようだ。

 しかし本書をきっかけに表舞台に出てきて、トランプの過去の犯行に責任を取らせる流れができるかもしれない。

 トランプの性的暴行事件は「下半身ネタ」であることから、いわゆる正統派の米メディアは敬遠することもあった。

 とはいえ、本件ではワシントン・ポスト紙やタイム誌、また英ガーディアン紙などが記事を書いており、ウクライナ疑惑とは別角度からトランプを攻め込んでいる。

 ワシントン・ポスト紙には被害を受けた女性が記事を書いてもいる。

 ナターシャ・ストイコフ氏はニューヨーク在住の脚本家で、2005年12月にトランプに性的被害を受けた苦い経験がある。

 当時、ピープル誌で記者をしていたストイコフ氏は、トランプ夫婦にインタビューするためフロリダのマー・ア・ラゴを訪れた。

 同氏はそれまでにも何度かトランプに話を聞いたことがあったので、緊張はなかったという。

 その日はメラニア夫人との結婚1周年を前に、今後の夫婦生活の話を聞く予定だった。

 夫人のお腹にはバロン君が宿り、「ハッピー・ストーリー」のはずだった。

 インタビューが終わり、写真撮影も済むと、メラニア夫人は2階に戻った。トランプは家の中を案内すると申しでたので、同氏はそれに従った。

 ある部屋の中に入った時である。

 トランプはドアを閉めるやいなや、ストイコフ氏を壁に押しつけて無理やりキスしてきた。その後、肉体関係を迫ったという。

 トランプ邸を去った後、怒りしかこみ上げてこなかったと書いている。

大統領の女たち:ドナルド・トランプという捕食者』の著者2人は、本書を執筆するにあたり100人以上にインタビューをしている。

 中にはトランプに強姦された女性の話も登場する。トランプはそうした糾弾には「政治的意図があり、すべてウソである」と取り合わない。

 確かにトランプを政治的に貶めるために虚偽の話を作り上げる女性がいないことはない。

 けれども、実名で事件の詳細を述べることがどれだけ本人にとって負担であるかを考えると、トランプの蛮行は精査され、糾弾されるべきである。

 同書の著者は「エスクワイア」誌とのインタビューで、次のように述べている。

「カネと名声を手に入れた男が女性を虐待する悪のパターンを本書で示せたかもしれません」

「被害女性の中には、本当に勇気を出して初めて語ってくれた方もいました。言いたいのは、なぜこんな女たらしの人間を社会がのさばらせておくのかということです」

 ピューリッツアー賞の受賞歴もあるワシントン・ポスト紙のロビン・ギバーン記者は書評でこう書き出している。

「トランプが女性に抱いている関係は俗悪で卑劣で、女性蔑視が含まれるばかりか、時に暴力的である」

「(中略)本書のテーマは大変シンプルだ。それはトランプがブタだということである。また性的捕食者であり、実際は犯罪者かもしれない」

 ここまでトランプの素性があぶり出され、過去の過ちが公表されていても、いまだにトランプを支持する人たちは多い。

 共和党の中には、トランプの私生活に無関心を装う人たちも少なくない。

 米経済は底堅く、不況という文字は見えておらず、共和党内はトランプでまとまっている。

 ウクライナ疑惑の弾劾訴追でも、上下両院の共和党議員でトランプに反旗を翻している人間はほとんどいない。

 現時点では、弾劾訴追の決議案が連邦下院で可決されて上院に移っても、トランプは有罪判決を受けない可能性が高い。

 2020年秋の大統領選の頃には、「そういえば弾劾裁判なんてあったな」という笑い話に片づけられないとも限らない。

 誰も「大統領は聖人であれ」などとは思っていないだろう。

 だが少なくとも、有能な政治家であると同時に人間として世界の手本となるべき人物でなくてはいけないと願っているはずだ。

 米国の最高権力者としてホワイトハウスにいる間は、ほとんど誰もトランプの言動を矯正できないところに米国の本質的な弱点が隠されているのかもしれない。

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