香港が大変なことになっている。11月11日以降、まるで内戦状態のような状況が続いている。14日から17日まで香港全土の学校が休校となったし、金融業界などは、とうに「自宅勤務」が日常の風景だ。

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 欧米メディアは、「天安門事件の再来」と大騒ぎである。隣の韓国でさえ、「香港の光州事件」と表現している。光州事件は、1980年5月に光州で全斗煥政権が、学生たちに銃弾を炸裂させた事件である。

香港情勢が緊迫する中「桜を見る会」で騒ぎ立てる日本

 ところがただ一カ国、「桜を見る会」がどうしたとか言って、ノー天気な平和ボケ状態を続けている国がある。それは日本だ。

 なぜアジアの隣国の問題なのに、日本政府は香港問題を声高に叫ばないのだろう。政府のある経済部門の関係者に聞くと、こう答えた。

「安倍政権としては、来年春の習近平主席の国賓としての訪日を控えて、事を荒立てたくない。それは習近平政権に気を遣うというよりも、アベノミクスの成功のために中国経済が必要だからだ。

 例えば、インバウンド業界を見ると、夏からの日韓関係悪化で、韓国人観光客(昨年753万人で2位)は激減している。同様に、政情悪化により香港人観光客(同220万人で4位)も急降下だ。そうなると、中国人観光客(同838万人でトップ)を頼りにするしかない。特に地方は、中国人観光客の確保が死活問題になっている。

 それに、『血の月曜日』と言われた11月11日、多くの日本企業が注視していたのは、香港の状況ではなくて、中国大陸で行われていたアリババのセールの行方だった」

「独身の日」は誤訳

 アリババのセールというのは、アリババが毎年11月11日に行っている「天猫ダブルイレブン」(双十一)のことだ。日本のメディアは、「お一人様の日」とか「独身の日」とか訳しているが、これは誤訳である。

 そもそも「お一人様の日」と最初に訳したのは、私だ。1990年代から中国では彼氏や彼女のいない若者たちを励まし、かつ結びつけるため、11月11日を「光棍節」(グアングンジエ=直訳すると「一本の棒が光になる祝日」)にしようという運動が、大学キャンパスなどに広がっていった。

 2009年にこれに目をつけ、11月11日に特大セールを始めたのが、馬雲(ジャック・マー)氏率いるアリババである。最初の年は、たったの27社しか参加せず、成約額は5200万元(約8億円)だった。

 当時、北京で日系文化公司の駐在員をしていた私は、中国人社員たちが昼休みに夢中になっているのを見て、これは将来、飛躍するのではとの予感がした。そこで、アリババが始めた新商売の記事を日本に送った。その時に、「光棍節」をどう日本語に訳そうかと思案して、「お一人様の日」としたのだ。

 その後、2012年になってアリババが、どんな人にも特売するという意味で、「今年からはもう『光棍節』ではなく『双十一』(シュアンシーイー=二つの11)と名称変更する」と宣言し、いまに至っている。だから中国では「光棍節」は7年前から死語になっていて、「双十一」と呼ぶ。当のアリババの日本法人は、「天猫ダブルイレブン」と呼んでいる。それなのに、日本メディアだけが、いまだに「お一人様の日」と訳しているのだ。

1日で4兆円を売り上げるお化けイベントに

 だいぶ話が脇道にそれてしまった。今年の「ダブルイレブン」は、11月11日の24時間で、前年比26%増の2684億元(約4兆1600億円)も売り上げた。この額は、日本最大のECサイトである楽天の昨年の取引額3兆4310億円の1.2倍強である。アリババ恐るべしだ。

 アリババでは、1日の売り上げが1億元(約15億5000万円)を超えたブランドを「億元クラブ」と呼んで表彰しているが、今年は299ブランドにも上った。10億元を超えた「十億元クラブ」も、15ブランドに達した。

 今年9月10日に完全引退した創業者の馬雲氏に代わって、蒋凡・天猫副社長は、自信満々にこう述べた。

「今年の『天猫ダブルイレブン』を通じて、消費者や企業にとって、将来の新たな消費はどのようなものかを示すことができた。中国の消費者の需要の高まりに応え、そのライフスタイルの向上を支援すると同時に、中国及び世界中の新しいユーザーを、デジタル経済に引き入れていく」

 このような今年の「アリババ狂騒曲」の中で、ひときわ精彩を放っていたのが、日本企業だった。中国政府の輸入強化策の影響もあって、アリババでは「越境EC」を歓迎している。つまり、海外の商品をアリババが仲介し、中国の消費者が買えるようにするということだ。今年は実に、78カ国・地域から2万2000ブランドも参加した。

 その中で、中国を除く国・地域別ランキングで、トップに立ったのが日本のブランドだった。以下、アメリカ、韓国、オーストラリアドイツの順である。アメリカは、あれだけ中国とケンカしておきながら、ちゃっかり2位をキープしているのである。

 2万2000種類の外国ブランドの売り上げベストテンは、以下の通りだ。

1. ヤーマン         日本       美容機器
2. Swisse          オーストラリア    サプリメント
3. 花王           日本       おむつ
4. A.H.C            韓国       化粧品
5. Bio Island          オーストラリア     サプリメント
6. Aptamil           イギリス      乳幼児飲料
7. ムーニー(ユニ・チャーム) 日本        おむつ
8. A2            アメリカ      ジャケット
9. Etra MD             アメリカ      サプリメント
10. Childlife           アメリカ      サプリメント

 このように、ベストテンのうち、3社が日本ブランドなのである。これまで常連だったユニクロが消えた代わりに、ヤーマンが外国企業の売り上げトップに立った。

 恥ずかしながら、私はヤーマンという会社を知らなかった。同社の公式HPで確認すると、1978年創業で、本社は東京都江東区にある美容機器メーカーだ。従業員数は241人(今年4月現在)、年間売上高は272億5200万円(2019年4月連結実績)となっている。ヘアメイクの知人に確認すると、「女性用の美容機器が、パナソニックなどの半額くらいで買えるので人気」なのだという。

 アリババは、個々のブランドの売上額を公表していないので正確には分からないが、ヤーマンが仮に「10億元クラブ」入りしたなら、同社の年間売上高の半分以上を、わずか1日で、中国国内で稼いでしまったことになる。重ねて言うが、アリババ恐るべしである。

 それにしても、一方の香港特別行政区で内戦のようなことが起こっていながら、もう片方で4兆円の「爆買いデー」をやっている。どちらも「中国国内」の話だ。

 だが、香港問題がさらに悪化していけば、来春の習近平主席の訪日は、延期となるかもしれない。

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