無人運転という大胆な提案
11月4日にグランドフィナーレを迎えた東京モーターショー2019(TMS2019)。さまざまなクルマたちがさまざまなカタチで発表・展示され、それを見に来た人たちは会期中に130万人を超える大盛況となりました。OPEN FUTUREというテーマを掲げたTMS2019ですが、この意味が示すものは何だったのでしょうか?
青海会場のトヨタと日野自動車、トヨタ車体の展示はそれを一番良く示していたかもしれません。トヨタは直近の市販予定車であるヤリスや燃料電池車の新型ミライをTMS2019の青海会場には展示しませんでした。そういったクルマはトヨタの大規模ショールームであるメガウェブで展示していたのです。では、トヨタはTMS2019で一体何を展示したのか? 1台の電気自動車を除きすべてが運転席がないクルマたちです。
トヨタと同じ館内にブースを構えるトヨタ車体が展示した2030年のミニバンにも運転席はありません。これは2030年には自動運転が一般化している、という想定での展示がなされているのです。つまりドライバーという存在は不要となる未来が提示されています。
青海会場の別棟ではトラックメーカーが展示を行っていましたが、その中でもトヨタグループのトラック部門とも言える日野自動車はトラック輸送の無人化を提案しています。その土台となるFLAT FORMERというコンセプトモデルにはもはや、人が介在する操作系が一切存在しないモノとなっています。
電動化と通信技術の発達で完全自動化がなされ、そこにはドライバーもオペレーターも存在せず、完全無人化された物流デバイスとしてのプラットフォームがあるのみ。このプラットフォームにトラックユニットやバスユニットなどを載せて運行させるということが自動車の未来ということになるようです。
無人化された自動車という未来に向けて、部品メーカーはさまざまな取り組みをしています。シェフラージャパンのブースにも運転席のないクルマが展示されていました。
シェフラーの電動化技術は駆動モーターだけにとどまらず、操舵の電動化、つまりステアリング・バイ・ワイヤーなどを開発しています。これにより電気的に操舵の調節が可能となり人工知能(AI)による制御がやりやすくなるのです。
また、無人化のためにはクルマに搭載された電池への充電も自動で行なわれる必要があるようです。日本精機の提案する走行中のワイヤレス給電も、そんな充電の自動化の技術となります。実は無人運転が可能となった際にはこの充電や車両メンテナンスの分野も大きく変わってくることになるのです。
クルマを走らせるためにはタイヤが必要となりますが、タイヤにはパンクと言うトラブルがつきものです。それを解決するために多くのタイヤメーカーはエアレスタイヤの開発を急ぎます。
ダンロップでも展示されていたエアレスタイヤのコンセプトモデルですが、実用にはもう少し時間がかかるようで、2017年の東京モーターショーに比べると展示メーカーは極端に減っています。まだまだ空気を入れるタイプのタイヤが主流となるようです。
そんなタイヤのメンテナンス項目のひとつである空気圧調整というは重要で、適正な空気圧でなければ走行抵抗になったり摩耗を早めたりします。コンチネンタルが提案していたのはホイールの中にエアポンプを取り付け、センサーによって空気圧を監視しながら必要に応じて空気圧を加減するというもの。
ドライバーのいるクルマであればタイヤのフィーリングや違和感などで空気圧の具合にも気がつく事ができますし、運行前点検などで異常を発見することもできますが、無人運転ともなればクルマ側で自己診断する必要が出てきます。そういった場合にコンチネンタルのような提案は重要になってきます。
もう少し近い未来のタイヤで、無人運転まではいかずとも自動運転によるカーシェアリングなどを見据えたタイヤを横浜ゴムが提案しています。
このタイヤは内側にセンサーを取り付け、空気圧や摩耗具合を運行管理者などに随時通信していくもので、パンクの際にはロードサービスが駆けつけたり、摩耗や空気圧の異常ではメンテナンススタッフが適切な処置をすることができるというものです。
横浜ゴムでは、このタイヤにセンサーと通信機能をもたせるために新たなパートナーとして、アルプスアルパインと協業すると発表しています。これは自動運転や無人運転への取り組みとして異業種同士が手を組むことで新たな提案が生まれることになります。
自動運転から無人運転と、未来のクルマは運転とは無縁になりつつあるようです。その一方で運転は趣味でありスポーツである、ということでリアルドライブとeスポーツとしてのドライブが融合していく未来もあるようです。電動化のオープンスポーツの提案としてトヨタがTMS2019に展示したe-Racerはまさに趣味としての運転を具現化したモデルと言えるでしょう。
もういまさら「AIによる自動運転」という言葉は当たり前で、その先をもっと大胆に切り込んで無人運転まで提案してきたTMS2019。10年後の未来は本当に人がクルマを運転していないのでしょうか?
ただの未来提案としてみる分には面白いですが、社会の有り様まで変えてしまうようなコンセプトとなっているような気がしてなりません。
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