妊娠や出産をきっかけに職場で不利益な扱いを受けたり、嫌がらせをされたりするマタニティハラスメント(マタハラ)。2014年の発足以来、マタハラの撲滅や啓発活動を行なってきたNPO法人「マタニティハラスメント対策ネットワーク」(マタハラネット)などは11月15日、全国から寄せられた相談事例から分析した被害実態について、厚労省の記者クラブで発表した。

分析によると、マタハラネットに寄せられた3年半分の相談のうち、3割近くが労働局の雇用均等室や労働基準監督署、組織内の窓口などですでに1度、相談をした後の「2次相談」であることがわかったという。

マタハラネットのサポートを行なっている圷(あくつ)由美子弁護士は、「いまだ件数に比した人手が不足しているという状況も大きいと思いますが、担当者によっては、事実認定できないという形でなかなか判断してもらえないケースが多い」と指摘。さらなる法整備の必要性を訴えた。

●マタハラ被害は「妊娠中」が6割、脅かされる雇用

今回、マタハラネットに寄せられた相談を分析したのは、埼玉学園大学大学院の杉浦浩美准教授。対象となったのは、2014年7月の設立時から2017年12月までの3年半にあった相談238件。いずれも匿名化したうえで分析した。

全国34都道府県から寄せられているが、東京都が最も多く62件、ついで神奈川県20件、大阪府19件、千葉県19件と都市部に集中していた。

相談内容で被害のうち最も多かったのが、「不利益取扱い」で54%だった。次いで、「心理的なハラスメント」の37%で、これらが全体の9割を占めている。

「身体的なハラスメント」は5%だったが、被害は深刻であり、「暴言によってPTSDを発症した」「うつ病になった」「会社からの圧力で堕胎した」といったケースがあった。

被害をうけたのは「妊娠中」が最も多く、6割を超えた。杉浦准教授は「退職勧奨や解雇、契約終了などといった、雇用そのものを脅かすものが多い。仕事を失いかねない状況下で女性たちは『妊娠しなければよかった』『子どもの誕生を喜べなくなった』など、妊娠そのものを否定的に考えるところまで追い詰められている」と分析している。

さらに相談時の状況として、3割近くがすでに1度、労働局の雇用均等室や労働基準監督署、組織内の窓口などに相談をしたが、思うように解決しなかったため、「2次相談」としてマタハラネットに相談していたという。

杉浦准教授は、相談事例からわかった課題として、「加害者が個人だけでなく、『組織』や『システム』であったり、それらの複合体であったりと、多様なのがマタハラの特徴。そのため、社内の相談窓口が機能しない」「公的な相談機関、組織内相談機関ともに相談支援が機能していない事例が多い。相談支援体制のあり方が大きな課題」と指摘した。

●18時から22時までの「育児コアタイム」への配慮義務を

一方、マタハラネットでは、これらの相談実績の分析とともに、厚労省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会に同日、マタハラ撲滅に向けた提言を提出した。

同会ではハラスメント防止のための指針の草案を10月、示したが、マタハラに関する記載がわずか1点だけだったという。そこで、マタハラネットでは提言で、「育児そのものを理由とする不利益取扱いの禁止」や「育休後の復帰先として、現職および現職相当職への復帰の措置の義務化」などを求めている。

また、保護者にとっては欠かせない、保育園が終わってから寝かしつけまでの18時から22時までの時間帯を「育児コアタイム」として、これを侵害して育児と仕事の両立が困難にならないよう、事前協議・配慮義務の新たな創設も訴えている。

「2017年には法改正され、マタハラ防止措置が義務化され、マタハラという言葉も認知度が上がっています」と話すマタハラネット代表の宮下浩子さん。しかし、被害者の「駆け込み寺」として活動してきたマタハラネットには、いまだ年100件もの相談が寄せられているとして、厳しい現状を訴えた。

「今後も、防止活動に一層、尽力したいと思います。ライフステージが違っていても、誰もが働ける社会を現場目線で提案していきたい。マタハラ撲滅のために関心を持っていただければ」

マタハラ被害「労基署に言っても解決してもらえない」 相談事例で見えてきた現実