2019年11月15日(金)から17日(日)まで、KOSE新横浜スケートセンターで全日本ジュニア選手権大会が開催される。今回はジュニア女子の有力選手を取り上げたい。女子シングルの世界はロシア勢が席巻している現状だが、日本勢からも将来を嘱望されるホープが育ちつつある。大技への意識も変わり、今年の全日本ジュニアにおいては何名もの選手がトリプルアクセルに挑戦することになりそうだ。

【写真を見る】河辺愛菜、西日本ジュニアでのフリープログラムの演技

■ 一躍、優勝候補へと浮上!河辺愛菜

ノービスの頃は名古屋の選手だったのだが、現在は関西大学のリンクを拠点として練習している河辺愛菜。今季、急成長を果たした選手だ。スケーティングを含め、すべての要素において質の高い演技が持ち味の選手だが、それに加えてトリプルアクセルを習得しつつある。

「普段の練習で一番近くで跳んでいるのが紀平梨花さんなので、自分もあんなジャンプが跳びたいと思って参考にしています。5月ぐらいにトリプルアクセルを跳べるようになって、それから膝の怪我などが原因で跳べなくなった時期もあったのですが、最近また跳べるようになりました」

関大のリンクに移籍してから体幹トレーニングに取り組むようになったという。それも高難度のジャンプを支える要因となっているようだ。ジャンプが跳べずに苦労していた頃と比べて「練習に取り組む姿勢が変わりました」という。集中した、丁寧な練習を積み重ねてきたことが今季の飛躍につながったようだ。試合ではまだトリプルアクセルは成功していないのだが、仮に失敗しても十分に優勝候補だ。彼女の持ち味である、美しいスケートを楽しみにしたい。

■ 今年こそは優勝を狙いたい、荒木菜那

全日本ジュニアでは、一昨年が3位、昨年が2位と連続で表彰台に乗っている荒木菜那。今年こそは優勝を狙いたいところだ。シーズン序盤には好調だったジャンプが、ここに来て安定感を失っているように見えるのが気がかりだが、それはプログラムの密度を上げたことが原因と自己分析している。

「シーズン序盤にはただ滑ってジャンプ、ということが多かったんですが、つなぎの部分を振付の安藤美姫さんに何度も手直ししてもらってクオリティを上げてきたことで、ジャンプに少し苦労しているところはあります。でも海外の選手はつなぎの部分が滑らかで、そこが自分には足りていないので、乗り越えていかなければならないと思っています」

世界ジュニアまでを見据え、海外の選手と戦える内容を目指しているようだ。今年こそは優勝なるか、期待したい。

■ 怪我に泣いた昨年の悔しさを晴らす。吉田陽菜

昨年、怪我のためにシーズンを棒に振ってしまった吉田陽菜だが、今年の正月、名古屋フィギュアスケートフェスティバルで氷上に復帰してからは目覚ましい回復を見せている。現在の日本のジュニア女子では最も安定したトリプルアクセルジャンパーと言えるだろう。ホームリンクとしている愛知、モリコロパークのリンクの工事中には練習時間を確保するのに苦労していたようだが、現在は工事も終了し、順調に練習を積めているようだ。

「モリコロのリンクが使えるようになって練習量はだいぶ増えました。曲かけもいっぱいできて、スケーティングの練習もできるようになりました。スケーティングとかスピンでも練習からスピードを出せるようになって、試合でもスピードを出すことができました」

以前はスケーティングやスピンについて練習不足を感じることが多かったのだが、西日本ジュニアでの演技を見るとかなり改善されてきているようだ。そして西日本ジュニアでのフリー演技では、見事なトリプルアクセルを着氷した。

トリプルアクセルは6分間練習からいい感じだったのでいけるかな、と思っていました。今日は悔しい部分もあったので、全日本ジュニアでは悔しい思いがなくなるように頑張りたいです」

演技後半のジャンプでミスが出てしまったことを悔やんでいたが、ジュニア初年度ということを考慮すれば、十分に素晴らしい内容だった。全日本ジュニアでは表彰台争いも可能な位置につけている。上位入賞を果たし、全日本選手権出場を是非勝ち取ってもらいたいものだ。

■ 怪我から回復し、本来の構成で臨む。松生理乃

今季、JGPラトビア大会で3位と台乗りを果たした松生理乃。しかしJGPイタリア大会への出発直前に負傷し、棄権することになり、ファイナル出場の可能性も潰える結果となった。復帰戦として臨んだ西日本ジュニアでは、練習不足のなか、構成を落として臨み、何とか演技をまとめることができた。

JGPイタリア大会への出発の10日前に怪我をして、その後、歩けなくなってしまったんです。出発の前日に先生と相談して棄権を決めました」

西日本ジュニアではルッツフリップを回避したが、全日本ジュニアでは本来の構成に戻したいという。要素の質の高さ、つなぎの密度など、ジャンプ以外にも見どころの多い選手だ。本来の構成をこなせれば、優勝争いに加わることになるだろう。

■ 東日本ジュニアで優勝!千葉百音

「優勝できたことにはびっくりしました。ショートが3位だったので、いい演技ができれば3位のまま終われるかな、と思っていました」

千葉百音は東日本ジュニアで優勝を果たしたが、無欲の勝利だったようだ。ただ今季のこれまでの大会よりもスコアは大きく上がっており、特に回転不足が解消しつつあることは大きい。

「スピードがないと高く跳べないので、スピードを出して跳んで、高く跳べるようにしました。スピードが上がったことで、PCSも出るようになると思います」

昨年の全日本ジュニアでは、期待されながらも結果は芳しいものではなかった。実は右足の踵を負傷しており、実力を発揮できなかったのだ。

「今は完全に治りました。全日本ジュニアでは順位はあまり気にせず、今できることをやって自己ベストを出したいです。スピンの取りこぼしなどを改善したいです」

再び”無欲”で臨む全日本ジュニア、本人の満足の行く演技を期待したい。

■ 練習環境で苦労しつつも結果を出した、吉岡詩果

今年の台風15号では千葉県アクアリンクちばが甚大な被害を受け、ここを拠点とする選手達は大変な苦労を強いられることとなった。吉岡詩果もその一人だ。

「色々な県のリンクを貸し切らせてもらったり、たくさんの方々に協力してもらったので感謝しています。むしろいつもよりも多く貸し切り練習をすることができました」

多くの助けもあり、十分な練習時間を確保できたようだ。とはいえ遠方のリンクに遠征する生活が続くことは家族も含め大変な負担だ。この東日本ジュニアの前は1週間、自宅に戻れていない、とのことだった。

今季は春先の怪我からの復調を目指すシーズンでもあった。3月末の北日本選手権で、痛みが出たためにフリーを棄権。その2日後に病院に行って疲労骨折が判明したそうだ。それから2か月練習を休み、復帰してようやく仕上がりつつあったところに台風15号の被害を受けたのだ。

今回の東日本ジュニアではフリー演技の冒頭、何もないところで転倒したことで慌ててしまったそうで、反省点の多い演技となった。点数が出るまでは「東日本を通過できなかったらどうしよう」とまで思っていたそうで、表彰台に立てたことは予想外の良い結果だったようだ。

「2年連続で全日本ジュニアは15位という結果だったので、今回は入賞したいです。練習から弱気にならないで、思い切り跳ぶということと、流れ、スケーティングの部分を伸ばしていきたいです」

シード選手としての意地を見せたい、川畑和愛

今季、樋口豊コーチに師事することとなり、JGPでも活躍した川畑和愛。ただ東日本ジュニアからは順調さを欠いている印象だ。特にフリーではミスが目立つ演技となってしまった。

「ジャンプを跳ぶ前に不安な気持ちになってしまいました。練習でも不安がまったくないって言ったら嘘になるので、それが試合に出てしまった感じです」

表現、スケーティングなど、昨季と比較して明らかに進歩している部分も多く、ジャンプも決してクオリティが落ちているわけではない。あともう少しの仕上がり待ちといった印象だ。ところが直前の調整試合に予定していた都民体育大会を突然の棄権。樋口コーチに聞いたところ、怪我ではなく、試合の2日前に靴が壊れてしまったのだそうだ。ここに来て順調さを欠いたことは不安材料だが、実力的にはもちろん優勝候補だ。全日本ジュニアまでに新しい靴が馴染むことを願いたい。

■ ほかにも楽しみな選手が

ほかにも魅力的な有力選手は数多くいる。駆け足になるが簡単にご紹介したい。

名古屋の浦松千聖は今季、初めてのJGPに出場し大きな収穫を得たようだ。「出発する前はすごく緊張する場だと思っていたんですけど、実際に行ってみたらとても楽しく演技できました。緊張を楽しさに変えることを学ばせていただいて、それが大きかったなと思います」という言葉通り、最近の試合ではとても楽しそうに演技をしている印象だ。

同じく名古屋の横井きな結。トリプルアクセルを武器とする選手だ。西日本ジュニアでは見事なトリプルアクセルを成功させており「(トリプルアクセルは)前までは自分にとって挑戦のジャンプだったんですが、今は自分の武器になってきているんじゃないかと思います」とまで言い切れるようになってきた。全日本ジュニアでも期待したい。

滝野莉子に復活の兆しを感じる。まだジャンプに不安定なところはあるが、試合で笑顔が見られるようになったことは嬉しい限りだ。昨年は何度も怪我をし、心が折れそうになったこともあったというが、それを乗り越えて新たなスケートを表現している印象だ。「前はジャンプに一生懸命になっていましたが、お客さんに感動してもらいたい、という思いでステップ、スケーティング、表現に力を入れるようになりました」

新境地を切り拓いた岩野桃亜にも注目したい。かつては完成度の低い高難度のジャンプに無理をして挑んでいた印象だが、今季は高難度ジャンプへのこだわりを捨て、表現、ステップなどの魅力を存分に発揮する演技ができるようになった。特にショートプログラムのステップは圧巻だ。「振付のブノワさんが曲を一回聴いて、一回で作ったステップなんです」と、ほぼ即興で作ったものだというが、そうとは思えない見事な仕上がりだ。ジュニアの選手が滑るには相当に難度の高いステップだと思うが、ブノワコーチは「自分の振付を自分の思い通りにやってくれるのは大輔と桃亜しかいない」とまで言ってくれるそうで、岩野桃亜のポテンシャルを高く買っているようだ。

田中梓沙は緊張からミスをしがちな選手だが、そのスケートのクオリティは極めて高い。ジャンプをまとめることができれば上位で入賞する力を持っている。

平金桐も楽しみな選手だ。特にショートプログラムに注目してほしい。星野コーチの振付がとにかく格好良い。

吉本玲は、スケーティングが実に上手な選手だ。今まではあまりジャンプが得意な印象がなかったのだが、最近は徐々にジャンプの力をつけてきている印象だ。上位進出を期待したい。(東海ウォーカー・中村康一(Image Works))

河辺愛菜、西日本ジュニアでのショートプログラムの演技