恋愛経験ゼロの掛田氏(小瀧望)が大学の食堂で働く飯島さん(馬場ふみか)に恋をし、なんとか距離を縮めようと奮闘するさまを科学の歴史と実験をからめながら描く
「よるドラ」『決してマネしないでください。』NHK総合、毎週土曜23:30〜、再放送毎週金曜25:10〜)3話。

原作『決してマネしないでください。』蛇蔵

冒頭は研究室に飯島さんを招き、「ワインやお肉をおいしくする実験」。ワインに醤油をたらす、までは一般家庭でもできそうだが、「それをメガネ洗浄機で撹拌」と続くとひるまずにいられない。さらに「肉に電圧調整機で通電」はもう無理! ここで「うっかりさわると死ぬから気をつけて」というセリフの直後に『決してマネしないでください。』のタイトルが来るところが、細かいところだけどにくい。

それぞれの手の洗い方、じゃなくて手を洗う時間そのもの
できあがった料理を前に「手を洗ってきてもいいですか?」と飯島さんが言うところで、早くも第3話のクライマックスが訪れる。
「手を洗う」ことが公衆衛生に寄与することに気づいた、19世紀ウィーンの産科医ゼンメルヴァイスについて高科先生(石黒賢)が語るパートが挿入される。
問題はそのあと。掛田氏、有栖(今井悠貴)、テレス(ラウール)、白石先生(マキタスポーツ)、飯島さんの順に、ただひたすらに手を洗う映像が一人ひとりじっくりと流れるのだ。
あまりのことに、録画を再生しながら時間を計測してしまった。30分のドラマで、手洗い時間は約2分13秒。
繰り返して見ると、いろいろと気づくことがある。ハンカチを持つ者、持たないものの差。ハンカチの素材と柄の違い。洗い方の丁寧な人、雑な人。ぴゃっと洗ってジーンズで手を拭くテレス、性格出てる!とか、高科先生洗ってないよね? とか。

でも、「キャラクターそれぞれの性格が手の洗い方に出る」のはおそらく副次的なことだ。この時間を使って手を洗う場面をやる、そのこと自体がやっぱり必要だ、と、おそらく今回の脚本家が考えたのだと思う。

ドラマにできて漫画にできないこと、それは「読者/視聴者の観る時間を決める」ことだ。漫画では、どんなに力を入れたコマでも一瞬で読み終えてしまうことができる。ドラマは(録画を早送りした場合は別として)放送されている時間と同じ分、観る側は付き合うことになる。
同様に、演劇も観る側の時間を拘束する表現だ。第3話の脚本を務めたのは劇団ナカゴー主宰の鎌田順也。開演前に役者たちが作中に出てくるセリフを練習しているさまを見せたり、冒頭の挨拶でネタバレしてしまったりと、観客の戸惑いが笑いにつながる演出が特徴。中でも多くの作品で見られるのは、とにかくしつこいシーン。役者どうしが叫び合い、怒鳴り合う時間が延々続く。そのシーンを観ていると、次第にふしぎなおかしみがわきあがってくるのだ。
彼はおそらくそれと同じ仕掛けを、この手洗いシーンに込めたのだと思う。

再現シーンにこっそりと脚本家
第3話にはもうひとつ、これまでとは違うシーンがある。それは先述のゼンメルヴァイスに関するくだり。これまでならば小瀧やラウールらが歴史上の科学者になりきり、その発見やエピソードを演じる。が、今回は高科先生の案内にのせて、厚切りジェイソンが(彼らしさはあまりアピールせず)再現しているのだ。外国人を外国人が演じる、普通に考えればまっすぐな表現なのだけど、1、2話を観ていた人は違和感を覚えるはずだ。しかもゼンメルヴァイス外の人間は「患者」「医学生」と文字が書かれたお面をつけている。その不穏さとそこはかとない面白さ。
ちなみに「院長」のお面をつけて登場し、「ゼンメルヴァイスくん、うるさい! 君をこの病院から追放する!」と言った役者こそ、今回の脚本家である鎌田順也その人だ。

ほかにも「自転車のことを延々言っているシーンもちょっと手洗いシーン第二弾の趣があるな」とか、「かっこいいメガネのはずし方」や「武田真治さんの名言……」など、30分に触れたいトピックは山盛りあるが、まずは今夜25:10〜の第3話再放送で、2分13秒の手洗いタイムと脚本家の高音をぜひ確かめてほしい。
(釣木文恵)

決してマネしないでください。
出演:小瀧望(ジャニーズWEST)、馬場ふみかラウール(Snow Man/ジャニーズJr.)、今井悠貴、織田梨沙、マキタスポーツ、石黒賢 ほか
原作:蛇蔵
脚本:土屋亮一、福田晶平、鎌田順也
演出:片桐健滋、榊英雄
制作統括:谷口卓敬、八木亜未
制作:NHK、大映テレビ

原作