―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


その69 一人ひとりの「自助」の精神が「命を守る」

自衛隊の本分はあくまで「国を守る」こと――

 近年、日本列島では台風や地震や大雪などさまざまな災害が起こります。台風19号は各地で記録的な豪雨を降らせ、多くの人が不自由な避難生活を余儀なくされました。

 災害規模が大きくなればなるほど、「自治体」「警察」「消防」「自衛隊」「ボランティア」等、さまざまな人たちが被災地に召集されます。

 東日本大震災の大規模な自衛隊の災害派遣で、自衛隊への評価はガラリと変わりました。自衛隊は国を守る「防衛」を担う組織です。しかし、平和な時代が長かった日本人は「国を守る」ことの重要さを認識している人は少なく、自衛隊は災害派遣や人命救助をやっていればいいという人もいます。

 東日本大震災のような原発事故も含む広大な範囲の災害に対しては自衛隊を投入するしかなかったと思います。しかし、自治体だけでも対処できそうな「口蹄疫」や「鳥インフルエンザ」など家畜の疫病対策にも“便利”に自衛隊が使われています。

 都道府県には警察や消防があり、地元の業者もたくさんいます。自衛隊を投入する以外にほかに方法がない事例でなくとも、安く迅速に動いてくれる自衛隊を“便利屋”のように使うことになっていないか心配です。

◆「優しい自衛官」と「災害ゴミ」

 土砂災害の現場では倒壊した家屋や川から流れ込んだ土砂など「災害ゴミ」が発生します。通常では考えられない量のゴミと土砂ですから、各自治体では特別なごみの収集を行っているはずです。

 自衛隊の任務は「機能回復までの応急的な復旧」で、活動範囲は「幹線道路や公共施設のみ」と定められています。でも、お年寄りが家から運び出せない粗大ごみを、規定通りに出せと言われて途方に暮れています。優しい自衛官がそれを見過ごせるわけがありません。見るに見かねたある自衛官は、そんな困っているお年寄りに代わって、災害ゴミを分別し集積場まで運んでいるそうです。

 自治体によっては、分別してないと絶対に受け取らないところもあります。一方、明らかに災害ゴミではない廃棄物を「これ幸い」と捨てに来る輩もいます。やっと大量のゴミを分別して片付けたら、見知らぬゴミが軽トラでドサッと置かれると、屈強な自衛官でも心が折れてしまいます。

 件の自衛官は「ゴミがそのままの町は『ここは捨てて平気だ』という心理が働きます。衛生上の問題は言わずもがなですが、『秩序への無関心』は犯罪を助長します。ゴミはゼロにしなければなりません……」とため息をついていました。

 彼の優しさは報われないようです。平時の感覚で災害時のごみ行政を行っては、被災者も自衛官も大変なようです。災害時には自治体も被災者対応に大変です。大量の災害ゴミになかなか対応できない場合もあるかと思います。豪雨災害は毎年規模を増しています。必要な対策を打てるのは自治体のことを知り尽くした「役所の人(地方公務員)」ではないでしょうか?

 そこで提案です。自衛隊員は50代前半で定年を迎えます。その後、僅かな若年給付金だけでは定年まで生活ができませんから再就職します。その再就職先に退職自衛官はどうでしょうか? ぜひご検討ください。

◆ヘリ救助でもっとも難しい「ペットも一緒に助けて

 台風19号の災害でも、河川の決壊により屋根の上に取り残された人々の救助で自衛隊自治体、消防のヘリが活躍しました。地震や津波の予想は難しいですが、台風や豪雨はある程度は予想できます。台風19号では、気象庁は異例の早さで緊急会見を開き、「命を守る早めの対策」を呼び掛けました。

 平和で安全な日常に慣れた私たちは、警告を受けても「自分だけは大丈夫」と考えてしまいます。巨大台風がくると予想されても、ピンポイントで「あなたのことよ!」と言われないと、「家族を連れて避難」する気持ちになれないと聞きます。

 救助する側は現場をどう見ているのでしょうか? 東日本大震災自衛隊の救難ヘリパイロットとして実際の現場で救助の任務についていた元自衛隊員に話を聞きました。

「市街地での救助は電線などの障害物が多く、目視確認しながら注意深く行う必要があります。障害物やヘリのダウンウォッシュの強さを考えながら適切な高度を選びます。高度を下げての市街地の作業は、慎重に慎重を重ねないといけません」

 これは、ヘリは万能ではなく近づけない場所や条件があるということです。

「救助現場でもっとも難しいのはベランダや屋根に出られない人の救助です。まず、ホイストでどこかに隊員が下りた後、救助する人とコンタクトを取り、どこから上げるかを考えます。お年寄りや妊婦さん、子供さんをそういうかたちで救助することがあります。
 もっとも難しいのはペットを一緒に助けてほしいと言われた場合ですね。これは考え込みます。動物はヘリや見知らぬ隊員に怯えています。暴れられると落下する危険もありますから」

 平成27年の関東・東北豪雨では鬼怒川が決壊し、屋根の上に避難していた2人と2匹の犬を自衛隊が救出しました。ペットの場合は非常時の喧騒やヘリの轟音、見知らぬ人に怯えて普段と違う行動を取る可能性もあり、救助活動には人間以上に危険が伴います。非常時の救助活動は熟練の隊員でも命懸けなのだということをもっと知ってもらいたいと思います。大事なペットのことを考えると事前に安全な場所への避難が無難です。

 また、人命優先の現場ですから報道ヘリは救難ヘリの活動の妨げにならないようにしてほしいとの意見も聞きました。当然のことですよね。

想定外の災害に対抗するためには早めの避難を心掛けたい

 自衛官は勇敢で、辛い災害現場でも不平不満を言わず黙々と救助や災害復旧活動をしてくれます。しかし、「お子さん、お年寄り、ペット」などの大切な家族の「命を守る」ために、早めに避難することで現場のリスクは著しく減ります。

 土砂災害に備えた「ダムや堤防」は効果的でした。転ばぬ先の杖です。まずは、自衛隊を呼ばなくてもいいようにしましょう。自衛隊は便利屋ではないし、すべての現場から被災者を救助できるわけじゃありません。防災から減災へ。「命を守る」のはまずは「自助」です。私たち一人ひとりが自分でできることはする。つまるところ、民度とか国力というのは国民のそういう姿勢から始まる問題ではないかと思うのです。

小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年ブログキラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


※写真は陸上自衛隊Facebookより