秋葉原駅総武線ホームにあるミルクスタンド。かつては都心のあちこちにありましたが、現在は2店舗まで減少しました。牛乳の販売だけでなく、「牛乳総選挙」など面白い取り組みを行うスタンドの様子を取材しました。

瓶の牛乳はその場で飲むこと

秋葉原駅東京都千代田区)の総武線ホーム(千葉方面行き)に変わった店があります。その名も「ミルクショップ酪」。今となっては貴重なミルクスタンドで、秋葉原駅のほか御徒町駅(同・台東区)にも店舗があります。ミルクスタンドとは、立ったまま牛乳やパンを飲食する店のことをいいます。

ミルクスタンドということだけあり、店頭には牛乳が並んでいますが、その種類の多さには圧倒されます。大手メーカーの商品だけでなく、岐阜県福島県など、全国各地の牛乳を取り揃えているのです。また、飲料のラインナップは牛乳にとどまりません。コーヒー牛乳はもちろんのこと、青汁やあずきヨーグルトなども置かれています。しかもすべてが瓶商品。食べ物も含めた店頭での取扱商品は全部で50品目に上ります。

ミルクショップ酪の1日は、午前6時半の開店とともに始まります。店としてはかなり早い開店時間ですが、ホームを発着する総武線はすでに通勤ラッシュ。足早に移動するなかから、何人かがスタンドに向かって行きます。そして、牛乳を注文するやいなや、ぐいっと飲み干し、去って行くのです。ちなみに瓶商品は店頭で飲むことが原則で、持ち帰りは不可。購入した時点でお店の人が手早くキャップを外してくれるので、「蓋が外れない……」とまごつくことはありません。

かつてはあちこちにあったミルクスタンド

店頭にはパンも豊富に取り揃えられています。代金を置いて、無言でパンをカバンに放り込んでいく常連さんも見られました。そのほか、牛乳とあんぱんセットになった「あんぱん定食」もあります。これは、バブル期の忙しいビジネスマンが短時間で朝食を済ませられるようにと開発されたもので、当時は爆発的人気を誇ったようです。今も、定番メニューとして看板が出ています。

通勤ラッシュが一段落したあとは、比較的落ち着いた雰囲気が漂います。秋葉原に遊びに来た人たちが、種類豊富な牛乳のなかからどれを飲もうか選んでいたり、海外から来た観光客が写真に収めていたり。ミルクショップ酪を運営している大沢牛乳によれば、売り上げのピークは8時台、また各地のご当地牛乳が売れるのは14時台とのことでした。

ミルクショップ酪の創業は1950(昭和25)年。第1号店は御徒町に、その後、秋葉原に進出しました。こういったミルクスタンドは、かつては都心や私鉄沿線のちょっとした駅にもあったそうです。

「瓶牛乳を店頭に納品するためには、メーカーの担当者が、一般の人も通る階段などを利用して運ぶ必要がありました。この点がコスト面、安全面から厳しくなり、自然淘汰されていったのではないでしょうか」

大沢牛乳支配人の稲村嘉一さんはこう推測します。一方で、ミルクショップ酪の場合、メーカー担当者は、秋葉原駅1階にある大沢牛乳の冷蔵庫への納品でよく、その先、店頭までは大沢牛乳のスタッフが資材用のエレベーターを使って運んでいるとのことでした。

シールを貼って投票、牛乳総選挙

ミルクショップ酪では、特売品の販売や試飲会など、1年を通して面白い取り組みを行っています。そのなかでも特に力を入れているのが「牛乳総選挙」。アイドルグループAKB48」の「選抜総選挙」に着想を得て始めたそうです。6回目となる今年は、10月9日(水)から11日(金)まで、秋葉原駅御徒町駅で開催されました。各地から“立候補”した5種類の牛乳(通常より10円引き)を試飲し、客がその場で美味しいと思った牛乳に投票するもの。投票は、担当者の掲げるパネルにシールを貼るという方式です。

総選挙に参加するかどうかは、メーカーが任意に選べます。総選挙に向けては毎年7月ごろから、メーカーと大沢牛乳でミーティングを行い、実施時期など詳細を決めていきます。店頭には総選挙の案内ポスターなどが掲出されますが、これらはメーカーの担当者が手作りしているといいます。

今回、総選挙に際して店頭に立った、古谷乳業の高橋 賢さん(「高」ははしごだか)、メイトー協同乳業の山野剛史さん、そして酪王乳業の大竹幸雄さんに話を聞きました。すると、普段は同業他社ということから「ライバル関係」にありますが、総選挙のときは一緒にお店を盛り上げる「仲間」になるとのこと。また、購入客から生の声を聞ける貴重な場でもあるそうです。

投票期間が終わると、大沢牛乳が投票を集計し、結果が公表されます。結果は店頭などに掲示されるため、来店者のなかには「1位の牛乳をください」と注文する人も多く、総選挙の成績は、売り上げに効果があるそうです。

ミルクショップ酪では、冬限定でホットミルクを販売しています。これからの季節、ホームでホッと一息ついてもよいかもしれません。

秋葉原駅の総武線ホームにあるミルクスタンド(2019年10月、蜂谷あす美撮影)。