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チーズ好きさんの中には、「チーズは溶けた時が一番美味しい!」という持論を持っている方も多いでしょう。

セミハードタイプのチーズは、熱で溶かすと柔らかくとろけ、なめらかに伸びますね。実はこの時、チーズの内部では多くの現象が起きているのです。

ハード系チーズがなめらかに溶けにくいワケ

チーズの大部分を構成する脂肪と水は、乳化した状態、つまり水っぽい媒質の間を脂肪の粒子が漂っている状態にあります。脂肪と水は、乳化剤であるタンパク質の働きによって結びつきます。また、タンパク質同士も、カルシウムの助けを借りて結合し、チーズ全体に網目状の構造を張り巡らせます。

脂肪は、温まると固体から液体に変化します。同時に、熱はタンパク質の結合を緩めることで、とろみのあるテクスチャーを生成しますが、この時チーズ内の水分は、脂肪と混ざり合ったまま内部に留まるのです。

でも、すべてのチーズがこう上手く溶けるとは限りません。ハード系チーズの代表であるグリュイエールチーズのように、加熱すると固形物と液体に分離してしまうものもあります。脂肪の水たまりの表面にタンパク質の固まりがプカプカと浮いている姿は、決して食欲をそそるものではありませんね。

グリュイエールチーズ / Credit: Rolf Krahl/Wikimedia Commons

その原因は、こうしたチーズに含まれる水分のほとんどが熟成期間中に蒸発するからです。水分量が少ないからこそ、熟成チーズならではの濃厚な薫りが生まれるのですが…。

乳化はとても繊細なプロセスです。乳液状の構造を保つために十分な水分がなければ、脂肪は熱で溶け、液状になります。

また、タンパク質は熟成期間中に小さな塊を形成します。これらの塊はお互いに強く結びついているため、加熱した時にその結合を簡単に解くことはできません。このため、脂肪が液状になったとしても、タンパク質は塊のまま残るというわけです。

溶けにくいチーズをなめらかに溶かす秘密の材料とは

プロセスチーズがなめらかに溶ける背景には、ある解決策が存在します。それはクエン酸ナトリウムです。

溶融塩としてもっとも良く知られているチーズの原料の一種であるクエン酸ナトリウムには、熟成が進んだ硬いチーズを溶かす作用があります。塩味と酸味を帯びた白い粉ですが、チーズに少量を加えてもその味は分かりません。

チーズがなめらかに溶けるのを妨げる硬い網目状のタンパク質は、カルシウムイオンの働きによって結合し合います。チーズに水と少量のクエン酸ナトリウムを加えて加熱すると、クエン酸ナトリウムがタンパク質の結合を助けるカルシウムの代役を務めます。

温められたチーズの中では、がっちりと結びついていたタンパク質同士が離れ、乳化剤として再び働き始めます。すると、脂肪と水分をは再び混じり合い、乳化が促進されます。

こうして溶かしたチーズは、チーズフォンデュやチーズソースにもってこいのなめらかさです。

ちなみに、トルティーヤに溶かしたチーズをかける「ナチョス」も最高の美味しさですが…

ナチョス / Credit: depositphotos

クエン酸ナトリウムの化学式は「Na3C6H5O7」(ナチョス。なんという奇遇…!

チーズとクエン酸ナトリウムのただならぬ関係を暗示しているようですね。

 

reference: cooksillustrated / written by まりえってぃ
チーズをなめらかに溶かす「ひみつの化学式」とは?