今季限りでの引退を発表、Jリーグで最も印象に残った清水戦での一撃

 ヴィッセル神戸のFWダビド・ビジャが今季限りでの引退を発表した。本人も「天皇杯が残っている」と言っているので、振り返るのは少し早いかもしれないが、Jリーグでのビジャで印象的だったのは第18節清水エスパルス戦でのゴールだ。

 後方からのロングパスをDFの間からオフサイドぎりぎりで飛び出して受け、そのまま抜け出してGKとの1対1を「ダブルタッチ」のシュートで決めた。

 2人のDFの間で待っていて、ギリギリのタイミングで裏を突いたのがビジャらしく、その後のDFをブロックしながらのコントロールが触れているのか触れていないのか、足裏なのかアウトサイドなのか、なんか怪しいけれども、結果オーライというのもビジャらしかったかもしれない。

 そして、なんと言っても最後のダブルタッチである。あれ以外の方法で蹴っていたら、GKに当てるか枠を外していたのではないだろうか。右足の強めのタッチでGKの守備範囲からボールを外へ動かし、すぐさま左足のタッチでシュート。右足のキックを自分の左足にぶつける「1人ワンツー」である。咄嗟にあれが出るのが、ビジャの真骨頂だろう。

 ゴール裏からの映像で気付いたのだが、ゴールへ向かって走っていくビジャは吠えているように見えた。何か叫んでいるのか、たんに大きく口を開けているだけなのかは分からないが、それが一番印象に残っている。体に残っている野性を爆発させているように見えた。気を吐く、という感じ。

 動物は危機に直面すると気を吐く。猫は全身の毛を逆立てて「シャー!」と威嚇するし、ライオンは咆哮する。犬は鼻にシワを寄せて唸りながら牙を剥く。普段は見せない恐ろしい形相になる。

 ストライカーもゴール前の修羅場で野性を全開にする生き物だ。アンドレス・イニエスタが吠えながらプレーする姿は想像できないが、ビジャにはそれが似合っている。

シュート直前に見せた咆哮、生命力を懸けて戦う男の凄み

 あの時のビジャの咆哮は、なんとも言えないカッコ良さだった。生命力を懸けて勝負するような凄みがあった。

 まだ、十分やれそうに思えるが、「サッカーに追い越される前に辞めたい」というようなことを話している。今が潮時という判断なのだろう。スペイン代表最多得点、2010年ワールドカップ得点王も37歳、時間は滑り落ちるように過ぎていく。

 今振り返ると、あのゴールは遠ざかる「時間」を捕まえようと、毛穴まで広げるような生命エネルギー全開で追いかけていく姿にも見える。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

引退を目前に控えた神戸FWダビド・ビジャ【写真:Noriko NAGANO】