ヒーローのオリジンとしては間違いなく世界一有名であろうスーパーマン地球への飛来。じゃあ、スーパーパワーを秘めた子供が成長途中に色々こじらせちゃったら? そんな想定に大真面目に挑んだホラーが『ブライトバーン/恐怖の拡散者』である。

宇宙から来た特別な子供、思春期を迎えて事態は思わぬ方向へ……
2006年、カンザス州ブライトバーンで農場を営むトーリカイルのブレイヤー夫妻は、不妊に悩んでいた。子供を授かるのを待望していた夫婦の家の庭にある夜、小型の宇宙船が飛来する。その中に収まっていたのは人間の子供によく似た赤ん坊。夫妻は周囲に対しては養子をとったと偽り、その子供をブランドンと名付けて自分たちで育て始める。

12年後。少年へと育ったブランドンは、自分が他の人間たちと違うのではないかという自覚を持ち始めていた。ブランドンは内気で大人しい性格であるものの、勉強の成績は抜群。しかしやせっぽちなため学校ではいじめられている。両親との仲は悪いわけではないが、だがブランドンはこの二人が何かを隠しているのも察し始めていた。

ブランドンは徐々に奇妙な兆候を見せ始める。夢遊病のようになって夜中に納屋へと向かい、その納屋からの謎の声が聞こえるようになる。今までは取らなかったような反抗的な態度を両親に対して取り始め、ベッドの下には下着姿の女性の写真に混じって人体の解剖図や臓器の写真を溜め込む。クラスメイトとの異常なトラブルも発生するが、カイルトーリブランドンとの距離をうまく詰めることができない。そして事態がこじれにこじれた末ついにブランドンの能力が覚醒、ブライトバーン全体を巻き込む惨劇が始まる。

というストーリーからも分かる通り、この映画はスーパーマンオリジンに着想を得た、いわばパロディのような作品である。スーパーマンことカル=エルは、赤ん坊の時に滅びに瀕したクリプトン星から宇宙船でカンザス州へと飛来。そこで地球人のケント夫妻にクラークケントとして育てられたという設定だ。このスーパーマン誕生の物語はいろいろといじられており、例えば『スーパーマン:レッド・サン』のように「もしもスーパーマンが飛来したのがアメリカではなくソ連だったら?」という想定で描かれたコミックも存在する。

というわけで、『ブライトバーン』はさしづめ「ケント夫妻の子育てが失敗したら?」「クラークケントがグレちゃったら?」という想定の映画といえる。さきほどパロディとは書いたものの、その内容は完全にホラー。ブランドンの抱える思春期の戸惑いや全能感が周囲に対する疑念へとつながり、それに対してカイルトーリ、さらに周囲の人々が疑心暗鬼になるストーリーはストレートに怖い。大きな音が出て「ギャー!!」みたいなシーンもあるが、どちらかというと「この子、なんか変じゃない……?」「この子を信用して大丈夫か……?」という、真綿で首をしめるような状況自体が不穏でおっかない。

怖いと言えば、ブランドンを演じるジャクソン・A・ダンの見た目も絶妙である。ひょろひょろと痩せた頼りない体格ながら目つきがなんだか独特で、つるんとした表情からは内面が全然読み取れない。ちっとも強そうには見えないにも関わらず、体格からも顔つきや目つきからも、どことなく不穏な雰囲気が充満している。『ブライトバーン』はこの少年を主演に据えた時点で勝ちなのではないかというくらい、「やせっぽちのいじめられっ子だけど、何を考えているのかよくわからない宇宙人」という役がバチバチにはまっている。

かつて自意識に苦しめられた皆様、必見です
上に「クラークケントがグレちゃったら?」という映画だと書いたが、『ブライトバーン』でのブランドンのグレ具合は、どちらかというと不良っぽいというよりはオタク・中二病的なこじらせ方である。そしてそれがあるあるネタというか、人によっては昔の古傷を抉られるようなディテールがパンパンに詰め込まれている。

ノートに自分が考えたキャラクターを描く、自分のイニシャルをもじったサインの練習をする、前の席の女の子がちょっと優しくしてくれたからいきなり好きになる、死体の写真を集めてしまうなどなどなど、ブランドンくんのやらかしは本当にありがちな、かつて中学生だったことがある人なら多かれ少なかれ思い当たる節があるやつである。それだけなら微笑ましいのだが、なんせ相手は人間を大きく上回るパワーを持つ超人の子供だ。思春期らしい失敗やこじらせが巨大なトラブルに直結し、人が死ぬ。「うわ〜、こんなノートを親に見られたら自分が死ぬか相手を殺すしかないな……」という局面が、本当に死に直結する。うまい作りである。

だいたいブランドンくんの内面は、いじめられっ子にも関わらず「常人とは全然違うこの僕が、こんなド田舎で頭の悪いクラスメイトと一緒の空間にいるのはおかしい」という思考でカチコチである。わかる。中学生というのはそういうことを考えるものであり、それ自体はちっともおかしいことではない。しかし、ブランドンくんはマジで常人ではなく、弾よりも早く力は機関車よりも強く、高いビルだってひとっ飛びなのである。中学生らしい自意識が、よりにもよって本物の超人パワーと結びついてしまうのだ。

こんな映画なので、かつてブランドンくんくらいの歳に自意識を持て余していた人間としては、どうしてもブランドンくんに肩入れして見てしまう。というか、そもそもどこから飛んできたのかわからない子供を勝手に拾って育て、成長してから「こいつはやばいぞ……」となったブレイヤー夫妻だって充分身勝手といえば身勝手だ。ホラーなので当然人間が死にまくるんだけど、途中からはもう「そりゃあんなノートを勝手に見られたらキレるわ!」「いけ!やったれブランドン!!」と、かなりブランドンくんを応援しながら見てしまった(そしてそう思って見ると、この映画はあんまり怖くないのだ)。

というわけで、『ブライトバーン』はヒーロー映画(特に『マン・オブ・スティール』)に対するパロディとしても、ホラーとしても見られる多面的な一本である。ただ、ホラー部分はけっこう本気で怖い(なんでPG12で公開できたのか、正直ちょっとわからない)ので、苦手な人は心の準備をしていったほうがいいかもしれない。かつて自意識の暴走に苦しめられた経験がある人なら、確実に「うわ〜〜〜〜キッツ〜〜〜〜〜」と盛り上がること間違いなしである。
しげる

【作品データ】
「ブライトバーン/恐怖の拡散者」公式サイト
監督 デヴィッド・ヤロヴェスキー
出演 エリザベスバンクス デヴィッド・デンマン ジャクソン・A・ダン ほか
11月15日よりロードショー

STORY
宇宙から飛来した赤ん坊を偶然拾ったブレイヤー夫妻。ブランドンと名付けられた赤ん坊は12歳の少年へと育つが、徐々に奇妙な兆候を見せ始める