デモの本格化から5カ月が経過した香港で、ついに死者が出た。

 香港科技大学コンピューターサイエンス学部の男子学生、周梓楽さん(22)。11月4日未明、住宅街の立体駐車場で、血だらけで倒れている姿が発見された。現場では、直前にデモ隊と警官隊の激しい衝突があり、周さんは警察の催涙弾から逃げようとして3階部分から約4メートル下の2階に転落したとみられる。病院に搬送されたが、4日後に帰らぬ人となった。

 警察は会見で「周さんの発見場所と催涙弾を撃った場所は離れていた」と因果関係を否定。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官も「心を痛めている」と述べ事態の沈静化に努めたが、周さんの死亡後、数千人の市民が連日現場の駐車場に詰めかけた。9日夜の追悼集会には数万人が集まり「香港人は報復する」と声を上げるなど、市民の怒りが収まる気配はない。

「取り締まりを強化する以上、犠牲は覚悟していたがあまりにタイミングが悪い。香港政府と共産党指導部には誤算だ」。北京の党関係者はそう漏らす。

 さらに11日には、警官隊がデモ隊に実弾を発砲し、2人が負傷するなど、情勢は激化する一方だ。

混迷を深める選挙戦

 現在、香港は区議会選挙の真っ最中。24日の投票で18区計452議席を選ぶ。区議会は、立法会(議会)のような権限こそないが、行政長官を選ぶ間接選挙の1割の投票権が割り当てられ、影響力は無視できない。現在は親中派が7割を占めるが、選挙は当初から民主派の優勢が見込まれていた。周さんの死は、民主派をさらに勢いづけることになる。

 追い込まれた香港政府側はなりふり構わぬ実力行使に出ている。「雨傘運動」の学生リーダー、黄之鋒(ジョシュアウォン)氏(23)の立候補を認めなかったのに続き、周さんが亡くなった翌日には立法会の民主派議員7人の逮捕・起訴に着手。5月の「逃亡犯条例」改正案の審議を妨害したという理由だが、うち4人は区議会選挙に立候補しており、選挙活動を阻むねらいは明らかだ。

 選挙戦でも、民主派候補が男に襲われ耳をかみちぎられたり親中派候補が刃物で刺されたりと、混迷を深めている。もっとも、親中派への襲撃は「自作自演」のうわさも絶えない。行政長官は安全面を理由に区議選を延期する権限を有しており、暴力激化は劣勢の親中派に望ましい展開だ。

 中国寄りの香港紙「文匯報(ぶんわいほう)」や「星島(せいとう)日報」も8日付一面に「暴力が止まらないなら選挙は中止せよ」との広告を掲載した。問題の先送りに過ぎないが、今の香港に特効薬はない。

(「週刊文春」編集部/週刊文春

地元メディア「CUPID PRODUCER」の動画より