月曜日になると、多くの小学生が数百円を握りしめて書店やコンビニに向かった――。あの週刊少年ジャンプ黄金期を知っているアラフォーたちは、今どんなマンガを読んでいるのだろう。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

ジャンプ黄金期に育った現代のアラフォー
大人になってもマンガを読む

 週刊少年ジャンプといえば少年マンガの代名詞である。ジャンプには黄金期と呼ばれる時代があって、マンガ識者によれば『北斗の拳』が連載を開始した1983年にそれは幕を開け、『ドラゴンボール』および『SLAM DUNK』が連載終了した1996年まで、13年間にわたって続いたらしい。

 2019年現在、アラフォー男性のは、おそらくジャンプ購読者のボリューム層である小学生高校生の間をもろにこのジャンプ黄金期の中で過ごした。マンガの面白さを身にしみて理解している彼らの中には、家庭を持って社会でそれなりのポジションについてもマンガを読み続けている人が少なくない。

 もっとも、昔は「読むと頭が悪くなる」などと言われるくらいサブカルチャーだったマンガも、現代ではしっかりと市民権を得ているから「昭和のアラフォーマンガを読む」と「令和のアラフォーマンガを読む」ではだいぶ意味合いが違うかもしれない。

 ともあれ、ジャンプ黄金期に育って目が肥えている(かもしれない)アラフォー男性らに、「現代のマンガで面白いと思うものは何か」と聞いてみた。

気に入った作品を一気読み

“大人買い”で
気に入った作品を一気読み

 かつて純粋な心でジャンプを愛読していた少年たちも、年を重ね社会に揉まれ、純粋さを徐々に失いながら大人になっていく。純粋さと引き換えに得たものは知恵や処世術、そして金である。月々の小遣いが1000円だったのに、就職すると給料がいきなり20万円になり、生活を整えるための費用を自分で賄う必要こそ出てくるが、自分のために使えるお金もかなりの額になる。小遣い1000円とはなんだったのか。大人は金の力に酔いしれてマンガ大人買いする。単行本の500円程度なんぞ、はした金である。

 大人買いできるようになったからか、読書傾向にも新たな選択が出てくる。マンガ雑誌を中心に読むしかない少年たちは「広く浅く」くらいしか選択肢がなかったが、大人は「気に入った作品があれば大人買いして一気読み」をできるようになるのである。そこで雑誌の連載と同時進行で読むのではなく、アンテナに引っかかったマンガに出合うと第1巻から最新巻までを買いそろえる。

 アンテナの張り方には個人差があるが、口コミと「コンビニに置いてあったからなんとなく買ってみたら面白かった」パターンが多いようであった。自然、手に取るマンガは既にある程度話題になっているものが中心となる。

「『宇宙兄弟』。出合いはコンビニで。宇宙飛行士を目指す兄弟の話。

 胸を熱くさせられるシーンがいくつもあり、自分の仕事にも通じる有益な考え方なんかも出てきたりしてハッとさせられる」(37歳男性)

 同作品はアニメ化、実写映画化もされた人気作品である。連載雑誌は『モーニング』。マンガなりのドラマチックな展開もありつつ、大人が夢をかなえようと奮闘する熱いドラマが描かれていて、筆者も涙したことがある。大人のリアルがありつつ、夢を見させてくれるような大人向けの作品である。

「『ちはやふる』。出合いは妹の影響で。競技かるたに励む女の子の物語。

 このマンガについてよく言われることだけど、熱血スポーツ漫画に通じる熱さがある。しかし絵柄は思いっきりに少女マンガなので汗臭くない。かといって熱さが失われるわけではないのですごく面白い。ひとつの巻を読んでいる間中、常に涙腺が崩壊一歩手前でずっとうるうるしてしまう感じ」(39歳男性)

 同作品の連載は『BE・LOVE』にて。こちらもアニメ化、実写映画化された人気作品である。筆者も途中まで単行本で読んでいて、何度か涙したことがある。

筆者も読んで涙した

 なぜ読んでいたのが途中までだったかというと、書店で新刊を見かけた際に「あれ? これもう読んだっけ? それともまだ? あるいは1巻分まだ読んでない巻がある?」と戸惑い、購入を躊躇(ちゅうちょ)して、それ以来なんとなく買わなくなってしまったためである。連載を追う時、雑誌でなく単行本でしている人にありがちなパターンである。いつか連載が完結した折にでも一気読みしてみたいと考えている。

「『進撃の巨人』。出合いは口コミ。巨人が幅を利かせる世界で、巨人に抗う人類の物語。

 すごいマンガが出てきたものだと。『ONE PIECE』にも壮大な謎が隠されている要素があるけど、『進撃の巨人』はもう少しシリアスで、謎が解き明かされていくテンポ感がいいので、個人的にはこちらの方が好み。

 最初知り合いに1巻から5巻までまとめて貸してもらったんだけど、読み始めたら止まらなくなって、返す前に本屋に走って既巻分の十何巻まで大人買いした」(43歳男性)

 連載は『別冊少年マガジン』。2019年9月の時点で単行本の国内累計発行部数が8400万部という超人気作品である。

 かなりの話題作であるからして、知人を頼ってみれば誰かしら全巻持っている可能性は高い。もし興味を持った人がいたらまず知人に数巻貸してもらい、その後大人の財力を活用しての購入(既に読んだ巻も含めて1巻から)を勧めたい。マンガ業界は海賊版が出回るなどしていろいろ大変なので、潤沢な財力を有するアラフォー世代としては(家庭を持ち、再び小遣い制の生活を余儀なくされた身ではあるものの)、武士は食わねど高楊枝で、にこやかにほほ笑みながらスッと身銭を切って大人買いし、マンガ業界を盛り立てていく気概を見せたいところである。

「『リアル』。出合いはコンビニで。バスケマンガ

 べらぼうに面白い。しばらく1年に1巻ペースで出ていたからコンビニで新刊を見つけると、1年でその日が一番ハッピーなんじゃないかってくらい興奮した。

 ここ数年は新刊が出ていなかったけど、今年連載が再開したのでものすごく嬉しい」(34歳男性)

SLAM DUNK』の作者、井上雄彦の作品である。連載は『週刊ヤングジャンプ』。今年4年半ぶりに連載が再開したらしい。

 車いすバスケが題材の一つとして取り上げられているマンガで、これもタイトルの通りリアルなので子ども向けというよりは大人向けであろう。筆者も読んで涙したことがある。

読者にもドラマが生まれる名作

リアル』で思い出した。マンガにほぼ関係のない話で恐縮だが、筆者がまだ20代半ばで実家暮らしをしていたころのことである。ある日、家に帰ると鍵を忘れて出かけたことに気づいた。家の人間は皆出かけていて家に入ることができない。開いている窓がないか、壁をよじ登ってみようかなど自宅の周囲を見て回ったが、どうやら侵入できなさそうである。

 これは誰か帰ってくるまで待つしかない。寒いが玄関先で過ごすことにしよう。しかし筆者はそこまで気を落としてはいなかった。カバンの中には先ほど買ってきた『リアル』の新刊が入っていたのである。これを読んでいれば時間などあっという間に過ぎるはずである。帰宅できない悲しさはもはや微塵もなく、むしろ新刊への期待で胸ははちきれんばかりとなっていた。

 そして1ページ目を読んで違和感を覚え、数ページ読んで確信したのは、手に入れた『リアル』は新刊ではなく既に読んだ巻であったということであった。それまで大きく膨らんでいた期待は瞬時に同程度の大きさの絶望へと成り代わった。先ほどまでなんともなかった寒さが急に身にこたえる。玄関先でうずくまって耐えようと数分試みたが、体の芯まで冷えてきて震えが止まらない。よし、近所には「時間いくら」で、パソコンネットが使えるカフェがあり、そこで時間をつぶそうと考えた。当時スマホは持っていなかった。

 しかし気づくと、残金が数十円しかなかった。そもそも「『リアル』の新刊を買おう」と小銭だけ握りしめて出かけたのである。阿呆なことにキャッシュカードの類は部屋に置いたままであった。これはのっぴきならない。そこでこれも近所のブックオフに行き、買ったばかりの『リアル』を売って、パソコンを使用する料金を手にした。文字通り“リアル(現実)”を売って“ネット(虚構)”を買ったのであった――。

 一読者にもそれくらいのドラマが生まれる名作、それが井上雄彦作の『リアル』である。

>>(下)に続く

アラフォー男性らに「現代のマンガで面白いと思うものは何か」を聞いてみました Photo:PIXTA