「受験だから楽器触るのは禁止」という父親に、大切にしていた楽器をいくつも破壊された――。破壊された楽器の画像とともに投稿された、こんな内容のつぶやきがツイッターで話題になりました。

投稿内容によると、受験生である投稿者のバイオリントランペットなどの楽器が、父親によって、ケースごと投げられたり、地面に投げつけられたり、しまいにはハンマーでたたき壊されたりしたようです。

壊された理由は「受験だから楽器触るのは禁止」とのことで、「高校合格したら全部買い直してやる」と父親に言われたようですが、投稿者は「買い直してやる」で済むことではないと怒っています。

たとえ親子のあいだであっても、互いの持ち物を壊してはいけないということは当然のように思えますが、法的には具体的にどのような問題があるのでしょうか。中村憲昭弁護士に聞きました。

器物損壊罪に問うことも不可能ではないが…

「他人に損害を与えた場合、刑事責任、民事責任、場合によっては行政責任の3つの責任が生じます。

故意に他人の所有物を壊してしまった場合、加害者は生じた損害を賠償する義務がありますし(民事上の不法行為責任)、器物損壊罪に問われることもあります(刑事責任)。

窃盗など親族間では処罰できない犯罪もありますが、器物損壊は親族であっても処罰できます。

未成年であっても、13歳で告訴能力を認めた裁判例もあります。受験生ということであれば15歳。法律的には告訴も可能ではあります。

しかしながら、告訴は、国家権力を使って父親に刑罰権の行使を求めるという意思表示です。

父親が楽器を壊すのは懲戒権行使としてやりすぎですが、性犯罪や虐待といった生命身体に危険の及ぶものであればともかく、器物損壊の事案で、親子げんかに国家権力を介入させることも、やや大げさに思います。

民事上の責任も同様です。楽器を壊すことは不法行為ではありますが、物的損害について責任を取らせる場合、金銭賠償によることとされています。

父親が弁償すると述べているので、労力と費用をかけて裁判をやっても、結果は同じです。訴訟提起するのは無意味です」

●目的は同じ、大事なのはしっかり話し合うこと

「楽器を壊すという手段は良くないのですが、父親の意図は、我が子が受験勉強に専念して、志望校に合格して欲しいということにあります。体に外傷を与えるような方法で壊したのであれば児童虐待防止法上の虐待にあたる可能性もありますが、今回はそうではないようです。

今回の投稿者としても、楽器を触るのも受験勉強の息抜きのつもりで、受験をおろそかにはしていないはずです。

とするならば、受験専念という目的は同じで、方法論が異なるだけです。母親も含め、受験勉強期間中の息抜きとしての楽器演奏を、時間を決めて認めてくれるよう話し合ってみるのもいいのではないかと思います。

仮に投稿者が受験ではなく、音楽の道に専念したいと考えているのであっても、やはりそれは親を説得する必要があります。熱い気持ちを伝えつつ、両親の気持ちも聞いてみてはどうでしょうか」

【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。

事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/

「受験だから禁止」と楽器壊され…子が親の責任を問うことはできる?