倉本聰・脚本「やすらぎの刻〜道」テレビ朝日系・月〜金11時30分〜)第32週。

食うためでもないのに殺し合う戦争を嫌い、徴兵拒否をして山奥に消えていった鉄兵兄ちゃんが生きていた!

50年近く隠れ続けていたとは……
「サンカ」と呼ばれる戸籍を持たない流浪民たちと行動を共にしているのではないかと考えられていた鉄兵だが、終戦を知ってか知らずか、平成に突入するまで山奥で暮らし続けていたとは……。

「恥ずかしながら帰って参りました」の横井庄一がグアムで発見されたのが1972年小野田寛郎がルバング島で発見されたのが1974年

山奥とはいえ、国内に住んでいたのに50年近く発見されてこなかったとは、鉄兵兄ちゃんのステルス能力はハンパない。

鉄兵兄ちゃん老人バージョンのキャストは藤竜也。「やすらぎの刻」パートにおける秀サンだ。

コスプレ感の強すぎる白髪ロン毛&ボロボロの服という姿は笑ってしまったが、しの(風吹ジュン)との邂逅シーンでの、驚いているような、喜んでいるような、何ともいえない顔の演技にはさすがに引き込まれた。

今まで何をしていたのか、今さら何しに出てきたのか不明のままだが、根来家の近所の山で暮らしはじめた鉄兵。

そんな彼に、妙に懐いているのが公平(橋爪功)の孫・翔(菅谷哲也)だ。

都会暮らしに疲れて原始人生活に憧れる
「東京の暮らしはもうイヤなんです。親父みたいになるのはイヤなんです」
「人間と上手く付き合えないから、土と付き合って生きていきたいんです」

ということで東京から、公平たちの住む山梨県小野が沢へとやって来た翔。

親が何でも買ってくれるのをいいことにゲームばっかりして引きこもっていた翔が、いきなりド田舎で百姓の生活をしたいという。

高校でカツアゲをされるなど、いじめに遭っていたようだが、そんな人生に行き詰まった都会の若者が、いきなり極端な自然生活に憧れてしまう気持ち、分からなくもない。

翔にとって叔父にあたる圭(山本憲之介)の畑で働きはじめ、はじめてもらった給料8万円に感動。それまで毎月10万円もの小遣いをもらっていたというのに!

しかも、その8万円も「使うことがないから」と丸々しのたちに渡しているという。

ちょっと前まで口も聞かないヤベエ引きこもりだったのに、一瞬にしてこんなに素直な青年になる!? それだけショック療法が効いたということか。

都会から出てきて百姓生活に感動していたところに、さらに原始的な生活を送る鉄兵の登場。土をいじくるどころか、狩猟はするわ、自力で火を起こすわ……。翔が惹きつけられてしまうのも無理はない。

どうせやるなら、中途半端な田舎暮らしよりも無人島生活に憧れるもんな……。

そろそろ「やすらぎの刻」パートも見たいぞ
翔は公平たちと暮らす中で、手紙はチラシの裏に、封筒は古いカレンダーを切って作り、便所紙には古新聞を再利用するという、モッタイナイ生活にいたく感動。

「お店でどんどん新しいものを買い、どんどん使い捨てる東京の暮らしが、僕にはだんだん不思議に思えてきています」

なんて言っていた。

また、鉄兵との原始人生活では、自然の中から何でも自分の手で作り出してしまうことに衝撃を受ける。

さらに「親父みたいになるのはイヤなんです」と言われていた翔の父親・竜(駿河太郎)は、バブル崩壊の煽りを受けて、借金を背負ってしまったようだ。まさか竜まで、都会で破れて田舎にやって来るなんてことは……!?

一気にアンチバブル、アンチ都会な説教くささが漂ってきた「道」パート平成編。

1974年の大河ドラマ「勝海舟」をめぐるゴタゴタに疲れ、東京を捨てて北海道に移住した倉本聰。

80年代90年代にかけてのバブル景気を、離れた場所からこんな気持ちで見守っていたのかも知れないが……。単なる「田舎バンザイ!」ドラマにならないことを期待したい。

そして、そろそろ「やすらぎの刻」パートも見たいぞ!
(イラストと文/北村ヂン

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『やすらぎの刻〜道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

イラストと文/北村ヂン