数多ある「長生きの秘訣」は真実なのか? テレビをはじめとする健康情報に振り回されて右往左往する私たちに、人生100年時代の医療との付き合い方を医学博士の米山公啓氏が指南する。(JBpress

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(※)本稿は『長生きの方法〇と×』(米山公啓著、ちくま新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

医療からの卒業

 私は医師として40年近く、作家として20年以上にわたって、高齢者の医療に携わってきました。外来診療では、認知症の患者さんやその家族と毎日のように接しています。同時に私自身も高齢者になり、60歳を過ぎたあたりでどう生きていけばいいのかと迷い、いろいろなことに挑戦してきました。

 こういった試行錯誤を通じて見えてきたのが、ある時期がきたら、医療から卒業することが必要ではないか、ということです。

 80歳を過ぎてまで、糖尿病を恐れて好きなまんじゅうを我慢するのが幸せでしょうか。

 この我慢が、健康に長生きすることにつながるという医学的な根拠はあるのでしょうか。

 今の世の中では、高齢になっても医療と関わり続けることで、人生の最後の時間にさまざまな制限を受け、楽しみを失っている方がたくさんいます。

 そう考える人にとってまず必要なのは、長生きの方法や幸せな老後についての思い込みから自由になることです。

カギを握るのはやはり認知症

「ぽっくり死にたい」と思うのは、誰しも同じです。外来に来ている患者さんにも、「私はぽっくり死ぬから、薬は飲みたくない」などと言う人はたくさんいます。

 しかし、「ぽっくり死ぬ」というのはむしろ例外的なケースだと考えたほうがいいでしょう。それは、現実の死因を考えてみれば想像できることです。

 厚生労働省の「平成29(2017)年人口動態統計(確定数)の概況」で日本人の死亡原因をみると、1位は悪性新生物(がん)、2位・心疾患(心臓)、3位・脳血管疾患、4位・老衰、5位・肺炎となっています(男女合わせた総数で比較)。

 この中でぽっくり死ねるのはと考えてみると、心筋梗塞や不整脈、脳卒中が当てはまりそうですが、実際にはこれらの場合も突然死ぬというわけではありません。

 脳卒中であれば後遺症としての麻痺が残り、多くの場合、実際には合併症の肺炎などで亡くなっているのです。

 そもそも、現代の医療はなかなか簡単には死なせてくれないという面もあります。口から食べられなくなれば、鼻からあるいは胃に直接孔をあけて管を入れたり、中心静脈からいわゆる持続点滴をしたりして、栄養をとにかく入れていくことは可能です。

 最近でこそ、ようやく安易に胃瘻を作ることはしなくなってきたとはいえ、「ここで入院を続けるなら、胃瘻を作ってくれないと困ります」と医療サイドに言われてしまうことはまだまだあるのが現状です。

 実は、介護保険の認定会議では、胃瘻が入ってしまうと寝たきりでも要介護度が5から4に下がるという不思議なことが起こります。

 それは、胃瘻になったことで、食事の介助の手がかからなくなるからです。介護施設でも、胃瘻のほうがずっと管理しやすくなるのです。医療機関でもそれは同じです。

 なんとか経口摂取を頑張ることは、誤嚥して肺炎などを起こしてしまう危険と、常に隣り合わせだからです。

 こうなってくると、動脈硬化が影響する心筋梗塞や脳卒中による死は減っていくはずですから、結果的にがんによる死は増えていくでしょう。

 ですが、世界初の免疫治療薬であるオプジーボのような画期的な抗がん剤の登場によって、がんの治療も変わっていく可能性はあります。

 となってくると、寿命が延びることで増えていく可能性のあるのはやはり認知症です。いまや、80歳代後半であれば男性の35%、女性の45%が認知症になり、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症になることが明らかになっています(厚生労働省認知症対策総合研究事業報告書」、20092012年)。

 認知症は経過が長い病気です。とくにアルツハイマー型認知症は、発症して10年経過しても、普通に歩いている患者さんもいるくらいです。

 認知症の末期には手足が動きにくくなり、寝たきりになり、合併症の肺炎で亡くなるケースが多いと思われますが、末期の状態になるまでにはかなりの時間を必要としますから、ぽっくり死ぬとはほど遠いものです。

80歳を過ぎてからの健康の考え方

 40歳代、50歳代の働き盛りであれば予防という考え方も重要ですが、80歳を過ぎてくると、血圧やコレステロールコントロールについては、(無駄にはなりませんが)それほど神経質にならなくともよくなってきます。

 すでに糖尿病の治療を続けている人は基準値まできっちり下げないほうが長生きできるという調査結果もあるので、80歳を過ぎてくれば、さらにゆるく考えていくほうが安全でしょう。

健康診断の目的は医療費削減

 厚生労働者は「特定健診によって2025年に2兆円の医療費を削減」という目標を掲げています。

 しかし、健康管理が進んで寿命が延びれば、そのぶん社会保障費の給付が増え、長期的には医療費が増えていくはずです。

 健康診断で医療費を削減するというのは不可能なのです。もし特定健診で短期的な医療費削減ができたとしても、長期的には医療費は上がっていくのは間違いありません。

 このように、特定健診は2兆円の医療費を削減できるということの根拠となる明確なデータがないまま、毎年実施され続けています。

 日本全体で考えれば、特定健診やがん検診などの予防医療に使われる医療費はかなりの金額となっているはずです。

 では、今行われている健康診断は、長生きの実現を助けるものになっているでしょうか。

 私の見る限り、そうはなっていません。国がむやみに健康診断を推奨しているがために、健康になるということと、健康診断を受けることが同じように考えられてしまっています。

 健康診断や人間ドックを受けても、その結果を自分の健康管理に活かすことができなければ意味がありません。郵送されてくる人間ドックの結果と努力目標を眺めるだけでは、長寿には結びつかないのです。

 特定健診を導入した根本的な目的は、医療費の削減以前に、生活習慣の指導や栄養相談などによって、薬を使わないで健康を維持しようということだったはずです。

 しかし、生活習慣を改善して指導するには時間がなく人材も少ないので、結局なにか問題があれば医者が出す薬を飲んで、コレステロール値を基準値まで下げることになります。

 大切なのは、健康診断の結果を受けて、適切な治療をしたり、生活習慣を改善したりできるかどうかです。健康診断が長生きにつながるかどうかは、受けた人がどこまで真剣に自分の状態を考えるかどうか次第なのです。

認知症の危険因子

 認知症の予防というと、脳の活性化ということがよく言われます。実際には、脳の若さを保つとはすなわち動脈の硬化を防ぐことですから、生活習慣病の予防が必要だということになります。

 高血圧は脳血管性認知症リスク要因ですが、同時にアルツハイマー型認知症リスク要因でもあるのです。

 医学雑誌『Lancet』の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会は、「本人が意図すれば改善できる認知症の危険因子」を9つ示しています。

「11~12歳までに教育が終了」「高血圧」「肥満」「聴力低下」「喫煙」「抑うつ」「運動不足」「社会的孤立」「糖尿病」ですが、このなかで、高血圧症、肥満、喫煙、運動不足などは、自己努力によってリスクを減らすことが可能です。

 どんな脳トレより、まずはこれらの生活習慣病の治療や生活習慣の改善が重要なのです。にもかかわらず、意外にこのことが強調されず、曖昧な食事療法や脳トレが優先されてしまっています。

 2000年代前半に、脳トレブームになったのを覚えているでしょうか。東北大学川島隆太教授の『脳を鍛える大人の計算ドリル』はベストセラーになり、ニンテンドーゲームにもなりました。

 当時の脳トレの中心となる考え方は、「簡単なことが脳を刺激する」というものでした。しかし、現在では、この考え方は完全に否定されています。

認知症予防に脳トレは効果なし

 イギリスで、18~60歳の1万1430人を対象にした調査が行われました(読売新聞2010年4月1日付)。対象者を3つのグループに分け、イギリスで販売しているコンピューターゲームをもとにした脳トレを1日10分、週3日以上、6週間続けてもらい、効果を調べたのです。

 その結果、脳トレを続けたグループでは、ゲームの成績は向上しましたが、論理的思考力や短期記憶を調べた認知テストの成績はほとんど向上しませんでした。結果として、3グループ間で差がなかったのです。

 従来の脳トレでは、なかなか認知症予防というわけにはいかないようです。

 MCIとは認知症の一歩手前の状態で、記憶力だけが目立って低下して、日常生活への影響は少ない状態のことです。MCIから認知症へ移行させないのが、最近の認知症予防の重要な課題となっています。

 ロバーツらの研究は「メイヨークニック加齢研究」と言われ、85~89歳で認知機能が正常な男女256人を対象に調査を行っています。

 臨床認知症尺度(CDR)、機能活動調査票(FAQ)を用いた認知機能の評価に加え、記憶力や言語能力などの評価を含む神経学的検査です。

 4年間の追跡期間中に、121人がMCIを発症しました。結果を見ると「絵を描く」「彫刻」といったアートを趣味としていた人は、そうでない人に比べてMCIのリスクが73%低下していました。

 また、「陶芸」や「手芸」などの工芸の経験者では45%、「観劇」や「映画鑑賞」「友人との社交」「旅行」などを含むソーシャル活動を行っている人では、MCIのリスクが55%低下したとしています。

 やはり創造性の高い趣味ほど、脳に新しいネットワークを作り出し、認知症を予防する効果は大きいのでしょう。受け身でなく、積極的な創作活動が必要だということです。

コーヒーは日本を救う!?

 国立がん研究センターによる調査・研究によると、コーヒーは肝臓がんと子宮体がんの予防に効果が期待できるということです。

 とくに肝臓がんを抑える効果は「ほぼ確実」、子宮体がんを抑える効果は「可能性あり」とされています。

 ある特定の食品ががんを予防するというのは非常に珍しい結果ですが、肝臓がんの予防には、コーヒーを日々飲むことがかなり有効なようです。

 国立がん研究センターのコホート研究では、40~69歳の男女約9万人について、調査開始時のコーヒー摂取頻度によって6つのグループに分けました(2005年)。

 調査開始から約10年間の追跡期間中に、肝臓がんにかかったのはそのうち334名(男性250名、女性84名)です。

 その結果、コーヒーをほとんど飲まない人に比べ、ほぼ毎日飲む人は肝臓がんの発生リスクが約半分に減少するという結果でした。

 さらに、1日の摂取量が増えるほどリスクが低下しました。1日5杯以上飲む人では、肝臓がんの発生率は4分の1にまで低下しています。明らかに、コーヒーを多く飲む人ほどリスクは下がっているのです。

 国立国際医療研究センター糖尿病研究部は、日本人約5万6000人を対象に、コーヒーの摂取と糖尿病発症の関係について調査を行いました。2009年の発表によれば、コーヒーを飲む回数が「週3~4杯」の人は、「ほとんど飲まない」人に比べて、2型糖尿病を発症するリスクが、男性で17%、女性で38%低下しました。

 糖尿病はがん発症のリスク要因であり、とくに2型糖尿病の場合、長期罹患患者のがん発症率が非常に高いという研究もあります。

 また、コーヒーにはポリフェノールの一種である抗酸化物質のクロロゲン酸が豊富に含まれています。クロロゲン酸には、血糖値を改善、体内の炎症を抑える作用があります。

 コーヒーには「糖尿病予防」効果と「抗酸化作用」があり、この2つががんの抑制に働いている可能性があります。

 さらに、コーヒーを1日3~4杯飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患で死亡するリスクが、それぞれ4割程度減少するという結果もあります。コーヒーは、病気の予防にはかなり有効な食品であると言えるでしょう。

スポーツの落とし穴

 運動というのは「からだを動かすこと」です。広い意味では、日常生活での活動(生活活動)も運動だと考えられます。

 本来、人間が生きていくためには食物を探すために歩き回ることが必要であり、「運動」と意識せずとも生きるために歩き回っていたはずです。

 社会の進歩によって次第に動かなくても食料が手に入るようになり、それが生活習慣病と結びつくようになりました。つまり現代は、運動は意識してやるべき時代だというわけです。

 といっても、「運動がからだにいい」と言ってしまうと過激なスポーツも入ってくるので、こう言い切ることはできません。酸素消費が過剰になれば、過酸化物質によって、むしろからだにはマイナスになってしまいます。

 それでも「スポーツはからだにいい」というイメージが強いのは、スポーツ用品メーカーや、それぞれのスポーツ団体などの利害関係者が裏で動いているからでしょう。自治体スポーツ振興にも様々な利害関係があり、純粋に健康のためというより、町おこしといった意図が見え隠れします。

 実際には、スポーツに対して否定的な調査もあります。スポーツ選手が長生きするというきちんとしたデータはありませんし、サッカー選手のヘディングが脳に悪影響がある、NFLアメリカンフットボール)の選手に認知機能障害が起きやすいなどの、それぞれのスポーツがからだに与える悪影響も明らかになってきています。

 結局は、歩くこと「ウォーキング」こそが誰でもできる、一番の健康法です。

「からだにいい」に根拠なし

 食べ物と病気の関係の疫学的な調査は非常に困難です。

 薬であれば偽薬を使ってその効果を調べることができますが、例えばにんじんと味も形も同じものをつくって本物との差を見つけるということは不可能です。

 また、食品添加物ファストフードなどをどうしても悪く見たがる傾向があり、自然の物はからだにいいという発想に陥りがちです。

 たとえばよく「玄米はからだにいい」と言います。精米していないわけですから、胚芽に含まれる栄養素を考えれば、たしかに玄米は白米よりも栄養豊富です。しかし、含有ヒ素の量をみれば、明らかに玄米のほうがたくさん含まれています。

 これだけで「玄米はからだに悪い」とは言えませんが、自然のものがいい、加工食品は悪いという一方的メディアの情報が、私たちの食物に対する視点に影響してしまっていることがわかります

 食品添加物に非常に神経質になっている人も多いですが、国際がん研究機関(IARC)による発がん性リスク一覧から判断すれば、喫煙などに比べれば、食品添加物の発がんリスクはかなり低いといえます。

 そもそも食事の人体への影響は何年もかかって生じるものです。自分のこれからの余命を考えていけば、食品添加物や栄養バランスの偏りといったからだによくない食事について、若い頃と同様に考える必要はありません。

 それよりも、自由に好きなものを食べる心地よさとストレスのなさのほうが、人生を充実させていくにはずっと大切なことです。

 人生後半は、健康のための食事という呪縛から逃れる時期だと考えたほうがいいでしょう。

 現状を認め、受け入れる能力があれば、老後を恐れることはありません。

 最後に私たちを救ってくれるのは「何もしない強さ」です。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  人生100年時代を迎えた日本の3つの課題

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