アイドルグループ・嵐の二宮和也さんが、元フリーアナウンサーの一般女性との結婚を発表しました。人気アイドルの電撃的な結婚発表に、驚きと祝福の声が上がった一方で、二宮さんのファンの中には「素直に喜べない」「涙が止まらない」など、戸惑いや悲しみを訴える人も少なくありません。さらには、相手の女性のことを快く思っていない一部のファンから、「クソ女」「死ね」「消えてほしい」といった誹謗(ひぼう)中傷の投稿やハッシュタグも見受けられ、ネットは大荒れの様相を見せています。

 近年、ネット上で目にすることが増えた、特定の人物に向けた誹謗中傷の法的問題について、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

名誉毀損罪侮辱罪、信用毀損罪…

Q.特定の人物に対する誹謗中傷を行った場合、どのような罪に問われる可能性がありますか。

井上さん「一般に、誹謗中傷といっても内容は千差万別で、刑事・民事の両方で責任を問われることがあります。例えば、『あの人は不倫している』『犯罪者で前科持ちだ』など、人の社会的な評価を下げる内容について、多くの人が見聞きできるような状況で発言したり、ビラを貼ったり、ネット上の掲示板に書き込んだりした場合、名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪に問われる可能性があります。

また、発言の内容が『あの店の弁当を食べて食中毒にかかった』『あの店は倒産寸前、取引をしない方がよい』などと、うそを言って店の業務を滞らせたり、店の信用を低下させたりした場合、業務妨害罪や信用毀損罪に問われる可能性があります。

これらの行為は民事上、『不法行為』にあたるもので、これらの誹謗中傷によって損害が生じた場合、損害賠償責任を負うこととなります。例えば、誹謗中傷を受けた場合の慰謝料請求としては、裁判例などをみると、およそ10万~100万円程度の額が認められています。なお、大手出版社などが個人の名誉を毀損したような場合は、数百万円から1000万円程度になることもあるようです」

Q.それは、ネット上での匿名の人物による誹謗中傷でも適用されるのでしょうか。

井上さん「匿名の人物であっても、誹謗中傷と認められる行為がある以上、名誉毀損罪侮辱罪、業務妨害や信用毀損などの罪に問われる可能性があり、また、民事上、損害賠償責任を負うこととなります。

ただ、実際に刑事裁判や民事上の請求をしていくにあたっては、誰がその書き込みなどを行ったかを特定する必要があります。例えば、ネット上の匿名掲示板への書き込みの場合、そこに残っているアクセスログを頼りに誰が書き込んだのかを特定していきます。書き込んだ人物が判明してから、具体的な刑事・民事上の手続きに進んでいくことになります」

Q.罪を問われる「誹謗中傷」と判断される基準は、どのようなものですか。

井上さん「例えば、誹謗中傷が名誉毀損罪にあたるのかという場合に問題となることが多いのは、『事実の摘示(てきじ=示す)』があるのか、また、『名誉を毀損した』といえるのかといった点です。名誉毀損罪を問うには、『○○はオレオレ詐欺をしていた』『△△は妻子がいるのに□□とホテルに入っていった』などといった具体的な事実の摘示が必要です。

なお、摘示される事実はその真否を問わず、うそであっても真実と受け取れるような事実を摘示した場合にも名誉毀損罪に問われる、という点に注意が必要です。また、名誉を毀損したかどうかについては、人の社会的な評価を低下させる恐れのある状態をつくり出したかどうかによって判断されます。そのため、実際にその人の社会的な評価が低下したかどうかは無関係です」

Q.特にネット上において、罪を問われる誹謗中傷に該当する可能性が高いと考えられるのは、どのような言葉・内容でしょうか。

井上さん「一般に、内容虚偽の事実について『犯罪行為を行っている』といった内容の誹謗中傷をしたような場合、名誉毀損罪などの罪に問われる可能性が高いと考えられます。例えば、ある会社の名誉を毀損しようと計画し、その会社について『あなたが○○を利用すると、カルト集団にお金が流れる』『○○はカルト集団とつながっている』などの内容をネット上に書き込んだ事例で、名誉毀損罪が成立すると判断した裁判例があります。

また、『○○は詐欺・横領している』などの犯罪事実に関するものについて、名誉毀損罪が成立すると判断されたものもあります」

Q.ネット上の誹謗中傷について、その対象が芸能人のケースと一般人のケースとでは、罪の重さに違いはありますか。

井上さん「基本的に、罪の重さを考える際には、どのような行為であったか、それによってどのような被害を受けたのか、といった事情が考慮されます。そのため、被害者が芸能人という、ただそれだけでは、一般人より罪が重くなるといったことはありません。

ただ、芸能人の場合は一般人に比べ、芸能活動を行っていく上でこれまで培ってきた社会的な名誉・評価が大切であることから、それらの名誉・評価が低下した場合に大きな被害を受けることとなります。このような点から、芸能人であることが罪の重さに影響を与える可能性はあります」

Q.誹謗中傷を受けた人の配偶者や家族が、法的手段を取ることも可能なのでしょうか。

井上さん「基本的には、誹謗中傷を受けたことに対する法的手段を取ることができるのは、被害者本人のみです。ただ、配偶者が誹謗中傷を受けた場合、実際は夫婦そろって警察に行って相談したり、弁護士事務所に相談に行ったりすることになり、場合によっては誹謗中傷によって傷ついている配偶者をサポートする形で手続きを進めていくことも多いでしょう」

Q.一時の感情で、誹謗中傷をネットに書き込むケースは起こり得ると考えますが、自覚のないうちに犯罪行為を行わないために求められる意識・行動とはどのようなものでしょうか。

井上さん「誹謗中傷をネット上に書き込むことは、名誉毀損罪侮辱罪業務妨害罪といった犯罪に該当し得る行為であることを、日頃からよく理解しておくことが大切だと思います。ネット上への書き込みは、瞬時に不特定多数の人が閲覧し、半永久的に残り続けるものであり、書き込まれた人は甚大な被害を受け続けることになります。ネットの特性や、被害者が受ける被害の甚大さをよくよく考えておくことが必要なのではないでしょうか」

オトナンサー編集部

匿名の誹謗中傷には、どんな法的問題が?