外航船のエンジンルームを取り仕切る機関長に、その仕事について聞きました。陸(おか)の上にもエンジニアの仕事はあり、やりがいは船の内外を問わないそうです。目覚まし時計を分解していた少年は、いかにして機関長になったのでしょうか。

「長」になってまだ船に乗っていない「機関長」

大きな船の「機関長」とは、どのようなお仕事なのでしょうか。このたび話を聞いたのは、日本郵船の津田達矢機関長です。京都府出身で、神戸商船大学商船学部、神戸大学乗船実習科を卒業後、日本郵船に三等機関士として入社。2019年4月に機関長へ昇進し、2019年10月現在は人事グループ海上人事チームに在籍しています。学生時代は空手道部の部長だったそうです。

――そもそも船の機関長や機関士とは、どのようなお仕事なのでしょうか?

機関士の最重要ミッションは、船を止めない事です。そのために「プラント・オペレーション」と「メンテナンス」を日々行っています。船のエンジンは、主機関(メインエンジン)を中心に、発電機やボイラー、造水器や各種ポンプなど様々な機器で構成される巨大なエンジンプラントです。このエンジンプラントの安全かつ効率的な運転と、すべての機器が正常に動くための整備や修理を行っています。

また、船の燃料をどのくらい積むかを決めるのは、機関長の重要な仕事です。

――津田機関長が船員を志したきっかけを教えてください。

小さい頃から、自転車パンクを直したり、目覚まし時計を分解して戻せなくなったり、身近にあるものの仕組みが知りたいと思うような子どもでした。祖父が大工で、人間の手が入ることでものが作られたり、便利になったりしていく過程を見るのが楽しかったですね。

そして高校生になって進路を考えたとき、機械を触るような仕事をしたい、せっかくなら大きい機械に携わりたいと思い、プラント(大型機械)の勉強もでき、船のライセンスも取れる神戸商船大学を選びました。

在学当時は1年生から3年生時に1か月ずつと、4年生で3か月、学部卒業後の乗船時実習科で半年間の、計1年間を練習船に乗って実習を行うのですが、当初は縦社会で大変だなと思い、船乗りになるつもりはまったくなかったんです。でも徐々に、船の技術を身に着け、それを使って活躍するフィールドが海にも陸にも海外にもある、この仕事の魅力に気が付いていきました。

――機関長になったのは、いつでしょうか?

この4月になったばかりです。この職位ではまだ乗船していないので、これまで自分のつちかったものを発揮するのを楽しみにしています。

陸の上にもある「機関長」としてのお仕事

――現在はどんなお仕事をしているのでしょうか?

いまは陸上勤務で、人事の仕事をしています。配乗、つまりどの船員さんにどの船に乗ってもらうか、配置を考える業務をメインに行っています。それぞれのスキル経験値、キャリアパスを見据えるのは元より、個人的な事情も考慮して行います。たとえば、結婚式を控えている場合や、もうすぐお子さんが生まれる場合には最大限配慮しています。

――「機関長」としての技術は、現在のお仕事にあまり関係がないように見えますが……?

私たちは船員を「海技者」と呼んでおり、海に関わる技術(海技)を海陸問わず発揮してもらう人材と考えています。そのため、海陸をまたいだ異動が行われるのですが、この「海陸異動」というのは、特殊な雇用体系ではないかと思います。

SMSSafety Management System、安全管理)マニュアルや本船への指示文章は、陸上勤務中の海技者が作るのですが、船の技術は日進月歩で、新しいタイプの船、主機関が開発されたり、ルール改正されたりすれば、従来のマニュアル内容は陳腐化していきます。そこで、マニュアルの改訂を行うのですが、単にルールへの対応のみに着眼するのではなく、本船上での実務への影響、利便性や作業効率などにも注意を払って行う必要があります。そのために海陸異動を行い、本船上の最新情報を熟知した上で対応できる環境を整えています。

また昨今では、環境規制に合わせた燃料の変化から、船員に必要とされる技術や求められる資格が変わってきています。それに対応する人材育成も踏まえた配乗を考えるのが、私のいまの仕事です。

一見、機関長の技術と関係なさそうですが、エンジニアの知識や経験がないと、どういう人にどういう研修をどういう順番で受けさせるのが効率的か、ということが見えてきません。海上では、船に乗って目前の機械をいじって、現場で自分の両手でできることが全てでした。しかし、陸上では自分の持てる知識(海技)を総動員し、私の場合、育成スキームを作り人材を育成していくことで、自分の手が直接届かない領域まで携わることができる、巨大な船の運航に関与することとは異なるスケールの大きさを感じています。このNYK(日本郵船)の海技者集団をひとつ上の段階に上げることができる、そこに関与している喜びがあります。

必要な作業をどの海域でするか、も重要なポイント

――暑さや音など、エンジンルームでの作業は大変なのではないでしょうか?

エンジンルームの気温は、外気温プラス3度から5度、中東などでは43、4度まで上がります。そのような環境での作業は避ける必要があるので、「エンジンルームでやらなければならない作業はできるだけ涼しい海域で終える」という、事前の作業計画が重要になってきます。また、エンジンルーム内にはワークショップ(工作室)という場所があり、そこは空調がきいているので、移動が可能な機械はそこに運び込んで作業します。音は耳栓やイヤーマフで十分しのげていますが、私物のノイズキャンセラー付きイヤホンを試しに着けてみたことがありまして、あれは、ものすごく効きますね。

――工作室はピシッと整理整頓されている印象があります。

「どこに何があるかその人にしかわからない」という空間にはならないよう、きちんと配置しています。船は揺れるので、ただそこに置いてあるつもりのものでも動いてしまい危険でもありますから、いちいち引き出しにしまったり、きちんと片付けたりできないと、作業環境がキープできません。

それから、いちいち工作室に戻らなくてもいいように、各フロアに一定数、必要な工具を備えて置くのですが、「何が必要か」というのは機器の配置や機関長の考え方で変わるので、船によって置くものが変わりますね。

「機関長」に向いているのはどんな人?

――津田機関長の考える、機関長の適性というものはありますか?

船を動かすというのは、自然相手でもありますし、周りと力を合わせることが何より大切です。どれだけ技術的に優れていても、独りよがりでピンポイントしか見えなくなる人には難しい仕事だと感じています。私の好きな言葉は「和敬/Respect each other」なのですが、同じ船乗り同士、お互いに尊重し合うことを抜きに、安全運航は成り立ちません。それは機関士、航海士に関わらず言えることだと思います。

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何を質問しても、まっすぐに熱い、胸のすくような答えを返してくれる津田機関長。思い描く「理想の海の男!」という感じでした。インタビューを前に、「機関士」というお仕事についてじっくり考えてきてくれたのが伝わりました。

ちなみに津田機関長は、購入した家電のカタログと金額は保管しておき、買い替え時にはスペックの進化と電力消費量などを徹底比較してから購入するそう。機械に強いと、いろいろ見えてしまうようですね。

●「機関長」のお仕事:日本郵船 津田達矢さん
・世界的協調性:☆☆☆☆☆kw
・整理整頓力:☆☆☆☆☆kw
・理系男子度:☆☆☆☆☆kw
・押忍! 指数:☆☆☆☆☆kw
・家電修復力:☆☆☆☆kw(ただし原因究明力は☆☆☆☆☆kw)
(kw=キロワット。船の主機関の出力を表す単位)

機関士として乗船していたころの津田機関長。エンジン音はすさまじく、作業中は耳栓が必須という(画像:日本郵船)。