―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]―


英語民間試験の延期が決定した大学入学共通試験だが、記述問題が導入される国語と数学の試験で、問題と正答例が試験実施前に民間事業者に知らされる仕組みとなっていることが新たに発覚。野党4党は記述式試験中止法案を提出した。

◆世の中にたえて桜のなかりせば/鈴木涼美

 日本人の間違った知識ランキングトップは、次点の「アジアは日本より貧しい」に近くまで迫られながらも、いまだに「外出しすれば妊娠しない」だと思うけど、三位くらいに長く安定して誤解されている「日本は学歴社会」というのがある。実際は日本は企業社会なのであって、三流大だろうがPh.D.持ってようが、大企業に入ってしまえば生きるのは楽だ。

 大体、どれだけ好奇心や知的体力があったところで一番後ろの人が終わるまで横並びで待たされるような日本の教育現場で「高学歴」なんていうのは「優秀」とか「頭いい」と同じくらい眉唾物。

 企業だってそんなものよりはコネとか顔とかリアリティのあるものが欲しいので、意外と一流大以外の学生が普通に入社試験を受けられるし、入社後の給料も一緒。学歴社会だ、と言いたがるのは、苦節を低能ではなく学歴のせいにしたい低学歴人と、子供にとって受験が一大事であるほど旨味がある人たちである。

 これだけ不透明に利権が絡み合った内実が晒されてしまったら、どうせ大して使えない学歴のための受験システムなんて急いで壊してしまったらいい。英語民間試験の延期のドタバタの中で、次々に焦点が当てられた問題群は、そう思わせるに十分だった。

 まず業界の提案から始まったというテキトーかつ強引な導入計画、天下り含めた癒着と利権、公平性の維持が単純に困難な設計、そして結果、英語以外の共通テストの採点手順の問題まで明るみに出た。

 できれば道路造るとか税金数えるとかよりもっと神聖な場所であって欲しい教育分野が腐敗臭を放っているのは明らかなので、せめて時期も方法も試験内容も含めてすべて個別の大学と高校に受け渡してしまえばいい。共通一次の導入だって別に、学力向上などの理念があったわけでもなく、当時の文部省が旨味の種を撒いたんだから。

 日本人の英語能力がプアなのは半分は教育のせいだが残りの半分は性格のせいなので、別に受験時のテストのせいではない。2時間かけてどんなテストを解いても英語を喋れるようにはならない。

 受験の英語の配分なんてもっと低くして、その代わり大学では先行研究を原典で読ませればいいし、一部の超エリートを除いては受験勉強自体をかなり縮小してもまったく支障ない程度には、高校教育がもたらしている教養はスカスカだ。

 ちなみに日本人が嫌いな言葉ランキングの上位常連には身の丈に合ったとか分相応とか身の程知らずとかがあるが、発言だけ切り取れば文科相さまのおっしゃるように教育や受験は「身の丈」に合ったものが用意されているのが理想なのであって、遅い子が難しくてやる気をなくし、早い子がつまらなくて能力を伸ばせない日本の教育機関は身の丈に合わない着心地の悪い服を育ち盛りの子供に着せていて、それは職場の女性に趣味の悪いヒールを履かせるよりも実害が大きい。

 「みんないっしょでみんないい」にこだわるアンフェアな平等主義で「身の丈」発言叩きにかまけているうちは、権力者のお花見くらいはつぶせても、利権塗れのテストを大人しく受ける以外の選択肢は生まれない。

写真時事通信社
※週刊SPA!11月19日発売号より

【鈴木涼美】
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』(集英社)が発売中

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