居酒屋業界で「半ベロ」が話題だ。「半ベロ」とは、「せんベロ」(1000円も出せばべろべろに酔える)よりさらに安い、500円もあればベロベロに酔えることを言う。「半ベロ」で飲めるシステムは、都内を中心に展開するチェーン店「やきとり○金(まるきん)」や、名古屋、九州に今年初出店を果たした「ローマ軒」といった大手が実施。小さな居酒屋が取り組む例も増えているという。つまり、居酒屋業界で“価格破壊”が起きているのだ。

 飲食店アナリストが、「半ベロ」の仕組みを解説する。
「基本は、店に入ってから30分間500円程度の金額で生ビールワインなどが飲み放題。30分を超えると、1分ごとに10円プラスされるなど、店によって少し仕組みは変わります。お酒は客が自ら注ぐセルフサービスで、従業員の手をかけないことで人件費をカットしているようです」

 それにしても、なぜ急に「半ベロ」が増えたのか。先の飲食店アナリストは、その理由を「まず居酒屋の衰退」があると分析する。
「民間信用調査会社の調べでは、2018年度の居酒屋も含む飲食店の倒産が1180件で、’00年以降過去最多でした。倒産理由は主に人手不足での人件費の高騰や、過当競争があります。こんな厳しい経営環境の中でサバイバルするには、他店と差別化できるかがポイント。ただ、どこの飲食店もいろいろ試していましたが、あまり結果が振るわなかった。そして、追い込まれた飲食店が最終の策として手を出し始めたのが半ベロなのです」

 同アナリストは、こう付け加える。
「𠮷野家での『𠮷呑み』、丸亀製麺が一部店舗でビールや焼酎を、うどんや天ぷらセットで30分1000円といったサービスで提供するなど、外食チェーンちょい飲み居酒屋に殴り込みをかけ、売り上げを急増させた。これも半ベロ誕生、増加の引き金になりました」

 さらにビール需要の低下が、「半ベロ」の増加に拍車をかける。

 国内飲料メーカー5社の’18年度ビール類の総出荷量は、前年比2.5%減の3億9390万ケースで14年連続のマイナスとなっている。
ハイボールが売上げを伸ばしたりと嗜好が多様化しているので、相対的にビールの需要が減っています。そこで、飲料メーカー側も卸し単価を下げているため、飲食店もビールを安く提供できるようになった背景があります」(ビール業界関係者)

 加えて“若者のビール離れ”が深刻だ。都内私立大学の学生が語る。
「若い人は家賃の高騰、ネット関連代金の出費が増え、それを酒代を抑えることでヤリクリしている。僕の大学では、昔は先輩から無理やりビールを飲まされる慣習があったようですが、今はなくなりました」

 若者が飲まなくなったことで、居酒屋ターゲットは中高年サラリーマンに固定されつつあるという。実は「半ベロ」は、サラリーマンの飲み代が削られていることへの対応で生まれた面もある。
一般国民の所得は毎年微増しているというが、医療費、社会保障費などの値上げ幅も大きく、手取り収入が圧迫され続けている。さらに消費税値上げで各家庭の懐具合が一層厳しい。それに比例して世の中のお父さんのお小遣いが縮小し、ストレートに飲み代が減りました。その少なくなった小遣いに対応し、居酒屋は『半ベロ』でサラリーマンを呼ぼうとしているのです」(前出・飲食店アナリスト)

 実際、厚労省が今年7月に発表した’18年度の国民生活基礎調査によると、国民の平均所得額は’17年で551万6000円とした。この額は対前年比8万6000円減で、マイナスは4年ぶりだという。
「’94年の664万円と比較すると、100万円以上も減少したことになります」(ファイナンシャルプランナー)

 しかも、300万円以下の人が全体の3割近くも占め、この内、年収200万円以下の人が14%もいるという。
「調査では全体の57.7%(前年比2%増)の人が『生活が苦しい』と答えています。つまり多くの国民の生活は、相当厳しくなっているということ。居酒屋が、そうした厳しい経済環境の中で、いかに客を呼ぶか。そこから生み出されたのが半ベロです」(同)

 一方、30分飲み放題という大胆策で経営側は採算が合うのか。居酒屋経営者は「赤字ではない」と語る。
「そんなにガバガバ飲むような人は多くないですし、中には30分以上いてくれる人もいるので、お客さん全体で考えれば、一応、採算は取れています。『半ベロ』にはリピーターも増えていることを考えれば、利益も増えていくと思いますよ」(居酒屋経営者)

 居酒屋業界の価格破壊はまだまだ進みそうだ。