南極大陸といえば、かつて大ヒットした日本映画でも描かれたように、自然環境は実に厳しく、用いられる乗りものにも特別仕様のものが見られます。南極へ向かう砕氷艦(南極観測船)「しらせ」は、どんなものを搭載するのでしょうか。

文部科学省が作った「軍艦」

南極大陸は、文字通り地球の南の極地にある大陸ですが、日本は昭和基地とドームふじ基地(夏季のみ有人)のほか、無人基地2か所を開設しています。日中の平均気温は夏季の1月でも摂氏-0.7度、冬季の8月は摂氏-19.4度です。これはあくまで平均気温ですので、日中最高気温は1月でも摂氏10度、9月の最低気温は摂氏-45度以下まで下がります。かつて、元宇宙飛行士の毛利 衛さんは昭和基地で「宇宙よりも遠い場所」と表現しましたが、文字どおり遠く、そして生物が生きるのも困難な場所です。そのようなところに持ち込まれる「乗りもの」も、特別仕様になっています。

2019年11月12日(火)、第61次南極地域観測協力任務に就く砕氷艦「しらせ」の出国行事が、東京の晴海ふ頭で行われました。南極地域観測隊のため、様々な物資が「しらせ」に積み込まれましたが、そのなかには極地で働く乗りものも含まれます。今回は第61次協力任務に関わる乗りものに目を向けてみようと思います。

まずは砕氷艦「しらせ」です。文部科学省の予算で建造され、2009(平成21)年5月20日に就役しました。海上自衛隊横須賀地方隊に所属し、艦尾には自衛艦旗(軍艦旗)を掲げた、国際法上もれっきとした軍艦という変わり種艦艇です。海上自衛隊の南極地域観測協力は、1965(昭和40)年に「輸送は防衛庁(当時)が担当する」と決められて、同年11月20日に出港した第7次観測隊から始まっています。南極への運航費用は文部科学省から出ています。

今回の任務は11月12日に東京晴海ふ頭を出港し、オーストラリアフリーマントルに11月27日入港、南極観測隊を乗艦させて12月2日出港し、翌年2月6日に昭和基地へ接岸、交代で帰国する観測隊を乗艦させて出発し、オーストラリアのシドニーに3月19日入港、観測隊を降ろし4月10日に帰国する予定です。

南極で働く「乗りもの」たち

積み込まれている最も大きな乗りものはヘリコプターで、CH101を2機搭載しています。イギリスのアグスタウェストランド AW101汎用ヘリコプターを、「しらせ」搭載用にバッテリー容量を増やすなど極寒冷地仕様へ改造したもので、格納庫に収まるようローターと尾部を折りたたむことができます。約4tの貨物を搭載することができ、物資や人員輸送に不可欠な乗りものです。消耗が激しいとのことで、ローターブレード(回転翼)の予備も積み込まれているそうです。3機購入されましたが、2017年8月17日に訓練中の事故で1機失われています。

甲板下の貨物室には雪上車が2台、積み込まれています。大きい雪上車が排雪ブレードを付けた、ドイツケースボーラー・ゲレンデファールツォイグ社製「ピステンブーリーPB300ポーラー 南極仕様車」です。重さ約11t。後部キャビンに人員を載せるほか、そりの牽引もできます。内陸部でも使用できる走破性や航続性能を持っているので、昭和基地から1000km離れた高度3810mにあるドームふじ基地へ、物資や人員を輸送するために使われます。

小型雪上車は、日本唯一の雪上車メーカーである大原鉄工所製のSM40Sです。もっとも多く南極に持ち込まれた雪上車で、おもに昭和基地周辺で使われています。

南極大陸に雪上車は現在、約30台あるそうですが、メンテナンスするのも大変で、実際に使われているのは約15台とか。今回運ばれる物資のなかには、現地の雪上車用と思われる「装軌車-8 クローラーダンプエンジン」と表記されたエンジンもありました。

スノーモービルは6台、ヤマハ「RS Viking Professional」が4台とカナダBRP「TUNDRA」が2台です。これらは市販品のままで、特別な改造はされていないようです。

南極といえば「犬ぞり」は…?

移動用ではない乗りものとしては、KATOミニバックホー(ミニショベル)「HD80V4」が1台、積まれていました。基地周辺の整備には、小回りの利く土木機械は重宝します。国内では、履帯(いわゆるキャタピラ)はゴム製であることが多いのですが、極地のためか鋼鉄製を履いていました。ただし極寒期での土木作業は想定されていないようで、こちらも特別な改造がされているようには見えません。

南極で使えるのかと不思議だったのが、マウンテンバイク自転車です。あちこちに分散して収納されていたので、何台あるかはわかりませんでした。実際に南極点まで、自転車で遠征した例はいくつもありますので、普通に使えるようです。雪中用の太いタイヤ付き自転車もあれば普通タイヤのものもあり、実際どのように使われるのか興味が沸きます。

南極といえば「タロ」と「ジロ」で有名な「犬ぞり」のイメージがあります。立派な乗りものですが、1991(平成3)年に日本含む12か国により採択された、環境保護に関する「南極条約議定書(付属書II第四条)」により生きた動物や植物などの南極への持ち込みが禁止されたため、2019年現在の「しらせ」に犬ぞりや犬は載せられていません。

ちなみに第60次南極地域観測隊夏隊活動報告によると、南極への持ち込み物資量は、優先物資として空輸されたもの27t、一般物資の空輸が229t、「しらせ」などによる氷上輸送244t、貨油(燃料)輸送499tの合計999t。第59次隊の持ち帰り物資量は384.5tとなっています。このなかには環境保全のため、持ち帰るゴミも含まれています。

雲ひとつない空の下、晴海ふ頭を離岸する砕氷艦「しらせ」。桟橋で見送る家族や関係者に乗組員が帽振れで挨拶を送っている(2019年11月12日、月刊PANZER編集部撮影)。