今年も新米の季節がやって来た。せっかくならおいしくいただきたいものである。

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 同じ人が毎日、同じ銘柄、同じ量の米を同じ炊飯器で炊いていても、味にバラつきはないだろうか? バラつきがあれば、それは水量がバラバラだからだと考えられる。

 おいしいご飯を炊くポイントとして水量に注目したのがアイリスオーヤマだ。同社は2016年9月、銘柄ごとに最適な水量でご飯が炊ける「銘柄量り炊き炊飯器」を発売した。

 「銘柄量り炊き炊飯器」は、米と水の重量を計測する量り炊きモードを搭載したことにより、つねに銘柄に合った最適な水量で炊くことができる炊飯器。水を入れる際、最適な水量になるよう液晶と音でガイドし、差異を5cc以下に抑える。発売以後、毎年ニューモデルを投入。16年と17年に市場投入したものだけで、これまでに約20万台を売り上げている。

●わずかな水量の違いが味を大きく左右する

 「銘柄量り炊き炊飯器」は家電事業で後発だったアイリスオーヤマが他社にない特徴を持った炊飯器を世に送り出すべく開発したもの。炊飯時の水分量に着目したのは、同社が精米事業を展開しているからであった。

 精米事業を展開していく中で、同社は銘柄ごとの最適な精米方法などの知見を得ることになり、それを生かして炊飯器や熱湯で温めて食べるパックご飯を開発した。家電開発部 部長の原英克氏は次のように話す。

 「水の量によっておいしさにバラつきが生じることが分かってきました。米を炊くとき、1合で200cc前後の水を使いますが、わずか10cc違っただけで、味が変わってしまいます」

 同社の調査によれば、炊飯器で米1合を炊くときに内釜の水位線を見て水を入れてもらうと、8割以上の人が誤差を10cc以内に収められないことが判明。3合炊く場合でも半数近くの人たちが、内釜の水位線を見て適正量の水を入れることができないという。

 また原氏によれば、高価な炊飯器と安価な炊飯器で炊いたご飯の味を比較したときに感じる差よりも、同じ炊飯器で水量を変えて炊いたご飯の味を比較したときに感じる差のほうが大きく感じられるとのこと。米の量に合った適切な水量でつねに炊けるようにすれば他社にないものにできる、と考えた同社は、15年に「銘柄量り炊き炊飯器」を企画し、開発に着手する。

●食味鑑定士の舌で銘柄ごとの最適な水量を判定

 ところで、「銘柄量り炊き炊飯器」とうたっていることから分かるように、米は銘柄によって最適な水分量が違う。比較すると、微妙に違うどころの話ではなく、目で見て明らかなほど異なる。

 この銘柄ごとの最適な水量は、同社が炊飯・試食を繰り返したことで明らかにした。開発の7~8割は、銘柄ごとの最適な水分量を特定することであったという。

 対応することにした銘柄はコシヒカリあきたこまち、つや姫、ゆめぴりか、ひとめぼれ、ヒノヒカリなど全部で31。米を炊いて試食を繰り返すのは途方もなかったが、「遺伝子的に近いものは似た特性を持っているので、見当がつけやすいところがありました」と原氏は振り返る。

 銘柄ごとに最適な水分量を判定したのは食味鑑定士。パックご飯の味も決めるご飯のエキスパートだ。社員の中に食味鑑定士はおり、評価にはバラつきが生じることから、結果をすべて数値化してから標準的な値を最適とみなした。

 判定に当たっては精米時期も考慮した。「精米したての米や、精米からかなり時間が経った米のどちらかだけでは正確には判定できません。銘柄ごとに精米時期の異なる米を使い、合数、水分量を変えて炊き試食。店頭に並んでいる米はどれぐらい前に精米されたものなのかも考慮して、最終的に銘柄ごとの最適な水分量を決めています」と原氏は言う。

●どうやって銘柄ごとに最適な水量で炊くのか?

 米と水量の計量は、本体に搭載した重量センサーで行う。銘柄ごとに最適な水量で炊くにはまず、本体で銘柄やかたさなどを選び、内釜をセットして「計量」ボタンを押す。内釜に洗米前の米を入れ、もう一度「計量」ボタンを押して米の量を量り、必要な水分量を計算。そして洗米したものを内釜に入れ、表示されている水分量を入れたら、ふたを閉め「炊飯」ボタンを押す。

 また、熱源であるIHヒーターと釜がわかれるようにした。分離すると、釜はお櫃(ひつ)、IHヒーターは調理器として活用することができる。

 このアイデアは、特徴ある機能を検討する社内のアイデアミーティングの場で、「釜とIHヒーターが分離できるようにできれば便利」といった声があがったことがきっかけになり採用された。ただ、分離できるようにすると、炊飯器ではおなじみの保温機能が搭載できない。この点については、一人暮らしや二人暮らしの場合は保温機能を使わない人が多いことが事前のアンケート調査で判明したことから思い切って省略することにした。

●新たな特徴もプラスしたニューモデルを毎年投入

 16年の発売以降、アイリスオーヤマは「銘柄量り炊き炊飯器」のニューモデルを毎年投入している。

 17年のニューモデル11月に発売。最大の特徴は、よそったご飯のカロリーの目安を知らせる業界初のカロリー計量を可能にしたこと。本体の「カロリーボタンを押してからご飯をよそうと、目安となるカロリーが表示される。カロリー計量機能を搭載した理由を、原氏は次のように話す。

 「もともとニーズとしてあったというよりも、設計者自身が普段から食品のカロリーを気にしていて、ご飯のカロリーも見えるようにすることができればということから始まりました。消費者が調理家電に求めることは、おいしくできること、簡便にできること、そして健康に寄与すること。重量センサーを搭載しているのでカロリーを量ることもできますし、実現すれば健康を気にする人たちに訴求することできることから搭載することにしました」

 また、量り炊きが可能な銘柄も31から40に増加。なすひかり、おいでまい、青天の霹靂などが追加された。

 18年のニューモデルは5月に発売。それまでのモデルと違い、釜とIHヒーターが一体になった。一体化した最大の理由は、それまでの3合炊きに加え5.5合炊きもラインアップしたため。「たくさん炊ける大きなもので熱源を分離すると、熱伝導率が低下するなどの問題が発生し設計が難しくなります。そのため釜とIHヒーターの分離をやめました」と原氏は言う。

 このほか、料理や食べ方に合わせて水量や火加減を調整する「こだわり炊き分け機能」を新たに搭載した。ルウとの相性を考えた「カレーモード」、解凍してもおいしく食べられる「冷凍ご飯モード」など計6モードが用意された。「パックご飯の開発で、食べ方によっておいしく感じる炊き方が違うことも分かってきましたので、その知見を炊飯器にも応用することにしました」と原氏は話す。

 19年のニューモデルは7月に発売。圧力IH炊飯器で初めて銘柄量り炊きに対応した。「品ぞろえを拡大してほしい」という小売店のニーズに応える形で対応したものだが、「圧力IHにすることで細かい調整がしやすくなった」と原氏。IHと比較すると、同じクオリティーのご飯が早く炊け、再現性も高くなるという。

●かまど炊きを超えるおいしさを目指す

 ユーザーが高く評価しているポイントは、やはり適切な水量で炊けるところ。その中でも特に真価を発揮するのが、合数ぴったりの量にならない中途半端な量の米を炊くときだ。重量センサーで炊く米の量を量った上で正確な水量を計算するので、どんな量で炊こうとしても最適な水量が分かり、安定しておいしく炊くことができるようになった。

 銘柄に合った最適な水量で炊けるといった他社にない独自機能の追求など、新規参入ながら先行する他社に負けない技術レベル存在感を持つまでになったアイリスオーヤマの炊飯器。しかし同社は、他社の炊飯器と比較しておいしいご飯が炊けることを目指しているのではなく、1升や2升といった大量の米をかまどで炊いたときのおいしさに負けないものを目指しているという。

 「おいしさで比べると、炊飯器で炊いたものより、大量の米をかまどで炊いたもののほうが優れています」と原氏。熱効率の向上や炊きムラをなくすことなど、これからも技術面の課題を追求し、かまど炊きに負けないおいしさの実現を目指すという。

(大澤裕司)

アイリスオーヤマの「銘柄量り炊き炊飯器」