photo by The White House via flickr(Public Domain)

◆衆院で可決された「日米貿易協定」
 2019年11月19日衆議院で日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が賛成多数で可決されてしまった。今後は参議院の審議となる。

 トランプ大統領はこの協定を自身の選挙戦でのアピール材料とするため、2020年1月1日の発効を当初から目指してきた。日本側には急ぐ必要は一切ないにも関わらず、米国側の要望に沿う形で10月24日に審議入り。スケジュールありきの拙速な審議を行ってきた。衆議院外務委員会での審議時間はわずか14時間であり、衆議院で約70時間、参議員で約60時間の計130時間かけたTPP協定には程遠い。

 審議の内容も十分に深まっていない。政府は合意後から「ウィンウィンの協定」と言うが、その根拠は不明瞭なものが多い。

 野党側は主に、
①米国が日本車への高関税措置をかけないと確約したというが、その根拠が明確でないこと
②米国が日本車にかける自動車関税の撤廃が具体的に約束されていないこと
③それに伴い日米貿易協定はWTO違反であること(詳しくは拙稿「多国間貿易体制を脅かす日米貿易協定―WTO違反をしてでも米国の要望に応えるのか」|HBOLを参照)
④農産物のセーフガード問題、⑤今後の交渉への懸念(第二段階の交渉では他の分野も対象にされる可能性)

 などの点を追及してきた。しかし政府の答弁は決して誠実とは言えないもので野党も苦戦を強いられている。

 衆議院での可決がほぼ確実となり、これから参議院での審議が始まろうとする中、米国側でもいくつかの動きがある。通商交渉の専門家は協定合意直後から問題点を指摘しており、また11月に入り米国議員からも協定内容についての厳しい指摘が見られる。本稿では、これらの分析・反応を紹介する。

◆通商交渉の専門家はWTO違反を次々指摘
 2019年8月25日フランスのビアリッツにて日米貿易協定・日米デジタル貿易協定が「大筋合意」された直後から、米国ではシンクタンクや通商交渉の専門家等から、この協定はGATT24条が定めるFTAの条件としての「実質的にすべての貿易」をカヴァーしておらず、WTO違反が懸念されるとの指摘がなされてきた。詳細は拙ブログ記事「日米貿易協定の問題点:米国専門家からも“WTO違反”の指摘」にまとめたが、例えばCato Institute(ケイトー研究所)のサイモンレスター氏や、Peterson Institute(ペーターソン研究所:PIIE)のジェフリー・スコット氏、ロビイ企業 WhiteCaseなど著名な研究機関やコンサル企業などがWTO違反の可能性を指摘している。

 またブルッキングス研究所が米国で開催したシンポジウムに登壇した早稲田大学の浦田秀次郎教授も、「日米貿易協定はWTOの要件を満たさない」と問題提起をしている。

 日本国内でも複数の専門家が同様の指摘をしているが、強調しておくべきは、これら両国の専門家は共通して協定文や各国の発表資料に基づき、「米国は日本車への関税撤廃を現時点では約束していない」と分析していることだ。これは「米国は関税撤廃を約束した」という日本政府の説明と真っ向から対立する。

 筆者は11月上旬、インドで開催された貿易問題に取り組む国際NGOの会合に参加した。この場でもヨーロッパニュージーランドインド等の貿易専門家たちがすでにこの問題を認識しており、「日米貿易協定はWTOに抵触する」と評していた。他国の多くの貿易専門家もこの協定はWTO違反ではないかと見ているのだ。

◆紛争解決メカニズムのない協定
 この他にも、米国のアナリストからの「日米貿易協定には他の貿易協定に必ず含まれている『紛争解決メカニズム』が欠落している」という指摘もある。

 これは論点としては非常に重要かつ興味深い。

 日米貿易協定では、一方の国が義務を怠ったり、両国で対立が生じた場合の措置として、第6条に「両締約国は、いずれかの締約国の要請の後30日以内に、この協定の運用又は解釈に影響を及ぼす可能性のある問題について、60日以内に相互に満足すべき解決に達するために協議を行う」とあるのみだ。(参照:協定文

 通常の協定に含まれる紛争解決メカニズムが、調停人の選出や人数、調停プロセスの日数や不服申し立てなど、詳細なしくみが規定されることから比べれば、かなり「ラフな」紛争解決方法しか設定されていない。もちろん、これは日米貿易協定が基本的に物品の関税撤廃に限られることから違反も起こりにくく解決メカニズムも漠然としたものでよいとする分析もある。だが、実はここにはトランプ大統領自身(あるいは米国自身)の「紛争解決メカニズムへの不信」が少なからず反映されているのではないか。

 世界貿易機関WTO)は多くの課題を抱えるが、その中で最も深刻なものの一つは、WTOの「裁判所」とされるパネルが機能停止寸前となっていることだ。パネルの上級委員会委員7名のうち、すでに4名が欠員状態で、12月には2名の任期が切れるため、たった一人しか残らなくなる。パネルの欠員補充を一貫して阻止してきたのはトランプ政権率いる米国だ。米国はパネルが出した数々の「米国不利」な裁定に不満を抱き、審理プロセスの改善がされない限り欠員補充に合意しないという態度をとってきた。これには多くの国が頭を抱えており、「米国の勝手な行動を許し続けるのか」との声もある。

 トランプ大統領は確実に制度化された紛争解決メカニズムに強い不信を抱いており、日米貿易協定で問題が起これば個別の協議で何とか主張を通すつもりなのかもしれない。一方、日米デジタル貿易協定については「関税」の問題ではなく、ルール分野の協定であり、「関税が対象なので紛争解決メカニズムは必要ない」との主張は無理がある。日本の国会でも論議していただきたい点である。

◆米国国会議員から出されている協定への疑問点
 WTO違反の問題に関しては、衆議院外務委員会の審議でも野党は追及してきた。しかし前述の通り日本政府は一貫して「米国は自動車・部品の関税撤廃を約束している。従って関税撤廃率は日本が82%、米国が90%となり、WTOには違反していない」との答弁を繰り返してきた。「将来の撤廃云々は置いておいても、現状の段階での撤廃率を出すべき」との与野党議員(与党からは公明党議員)からの要請に対しても、政府は「合意内容と異なる数字を出すと混乱をきたす」と、ごく単純な数字を出すことさえ頑なに拒否している。この点は参議院の審議でも引き続き主要な問題の一つになるだろう。

 日本での審議がこのように深まらない中、11月に入って米国議会の中にもさまざまな動きや意見が出てくるようになった。

 直近の動きとしては、

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