日韓IT連合の狼煙か? ヤフーを運営するZホールディングス(以下ZHD)とLINEの経営統合が11月18日に正式発表された。

◆電撃統合に隠されたソフトバンクG会長・孫正義の狙い

 ZHDの事実上の親会社に当たるソフトバンクグループと、LINEの親会社である韓国NAVER50%ずつ出資して新会社を設立する。その新会社がZHDを傘下に収めて、ヤフーLINEがぶら下がる格好だ。

 注目すべきは、統合によるシナジー。ヤフーは検索サービスやECなどで5000万人のユーザーを抱える一方、LINESNSユーザー数は8000万人。合わせて、1億人を超える巨大経済圏が形成されると考えられるのだ。加えて、スマホ決済市場ではソフトバンクG子会社のペイペイがユーザー2000万人で国内2位。LINEペイは国内トップ3690万ユーザーを有する。

 当面は2つの決済サービスが併存すると見られているが、3位の「d払い」(NTTドコモ1000ユーザー)を大きく引き離し、ペイペイ・LINEペイ連合で70%以上のシェアを握ってしまうのだ。

 ただし、かつて孫正義ソフトバンクG会長の秘書を務めた多摩大学客員教授の嶋聡氏は「孫は日本市場など念頭にない」と話す。

メディアGAFAグーグルアップルフェイスブックアマゾン)に対抗する――などと報じていますが、1億人のユーザーを獲得したところで競争になりません。

 孫が考えているのは東南アジアにおける覇権でしょう。そのカギを握るのが“スーパーアプリ”。スマホ上で決済はもとより、ショッピングや投資など、あらゆることをできるようにするサービスです。この分野で先を行くのが、12億人のユーザーを抱える『アリペイ』で中国決済シェア50%アリババと、10億人が利用する『ウィーチャットペイ』で同40%のテンセント

 実は、独禁法に抵触しかねないので、GAFAスーパーアプリを実現できません。だから、孫はLINEと組んで、中国勢の参入が遅れている東南アジアでのシェア獲得を目指しているのだと考えられます。なぜなら、LINEはタイやインドネシアに強く、ソフトバンクインドネシアに強い。さらに、インドの企業にもソフトバンクビジョンファンド(SVF)を通じて積極的に投資してきた。

 2030年までにアジアの人口とGDPは北米と欧州の合計を抜くと言われているので、この巨大市場を巡って、ヤフーLINE連合とアリババテンセントがしのぎを削る“スーパーアプリ三国時代”に突入しようとしているのです」

 ご存じのとおり、孫会長はいち早くアリババに投資して“兆”単位のリターンを得てきた。LINEの統合も早くから念頭に置いていたという。

「私が孫の秘書を務めていた’14年の段階で、すでにLINEに興味津々でした。大統領になる前の文在寅氏を私が日本に連れてきたこともあって、孫は文大統領とも親しいし、NAVER創業者の李海珍氏とも親交がある。今にして思えば、ZOZOの買収もLINE統合で本格化するスーパーアプリ構想のステップに組み込まれていたのでしょう」(嶋氏)

◆ZOZOに次ぐ超大型M&Aでもグループの業績は「ボロボロ」?

 ただし、足元のソフトバンクGには不安要素が……。’19年7~9月期決算では、連結最終損益が過去最悪の7001億円もの赤字に転落。11月6日の会見で孫会長は「ボロボロでございます。真っ赤っかの大赤字」と反省の弁を述べたのだ。それだけに、厳しい台所事情から今回の統合を進めたと見る向きも。長年、ソフトバンクGをウオッチしてきた闇株新聞氏が解説する。

「大赤字の最大の原因は、ソフトバンクGとSVFを通じて約1兆円も投資してきた米シェアオフィス大手のウィーカンパニーにある。今年9月に米ナスダック市場への上場を目指していましたが、累積赤字とコーポレート・ガバナンス上の問題から延期に。

 これを受けて創業者のアダムニューマン氏を1800億円もの“退職金”と引き換えに追い出しましたが、株の評価額は大暴落。ピーク時には470億ドル(約5兆円)としてきたウィーカンパニーの時価評価額を80億ドル(約9000億円)に引き下げたことで、ソフトバンクGで5000億円、SVFで3700億円もの損失が発生したのです。

 このSVFは10兆円ファンドとして’17年に運用を開始しましたが、サウジアラビアが出資した約4兆円はソフトバンクGが年7%の配当と元本返済を保証している優先出資分で、残りの6兆円の普通出資分の半分がソフトバンクGのお金。

 つまり、運用リスクの大半をソフトバンクG自身が被っている。にもかかわらず、運用は失敗続き。上場間近に投資した米ライドシェア大手のウーバーは上場時の初値から30%値下がりし、SNSアプリの『Slack』で知られるスラックテクノロジーズも初値から50%近く、中国ネット保険大手の衆安在線財産保険は60%以上も下落。

 さらに『TikTok』で知られる中国のバイトダンスはSVFの投資先として最も有望視されていたのに、’17年の米動画投稿アプリミュージカリーの買収に際して、対米外国投資委員会(CFIUS)の承認を受けていなかったことが発覚。米国での上場は絶望的なため、投資回収は困難でしょう」

 要は、すっかり本業と化した投資事業をカバーするために、LINEを取り込んだというのだ。

「主軸だった携帯電話事業を昨年、ソフトバンクとして上場させ、ソフトバンクGは2兆6000億円を調達しましたが、その直前には子会社ソフトバンクに1兆6000億円の借り入れをさせて、本体の自社株買いや有利子負債の返済に充てました。LINEの取り込みにはグループ資産を高めると同時に、携帯子会社と同様、“財布”代わりにする狙いがあると見ています」(闇株新聞氏)

 孫会長の考えやいかに……? 経営の立て直しとアジア覇権を一気に実現するウルトラCに期待したい。

ヤフーLINEを結びつけた携帯電話と銀行

 ’16年にLINEモバイル通信事業へ参入したが、思うように事業拡大できず、LINEモバイルは今年4月にはソフトバンク子会社化された。また、LINEみずほと共同でネット銀行の開業を進めているが、「みずほFGはソフトバンクGのメインバンクであり、SVFの大口出資者。みずほが資金不安からヤフーLINEの統合を進めた側面もある」(闇株新聞氏)という。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/産経新聞社 時事通信社
※週刊SPA!11月19日発売号より

孫正義ソフトバンクG会長