労働施策総合推進法の改正案が5月に可決し、大企業では2020年4月より、中小企業では2022年4月よりパワハラ防止措置が義務化される。セクハラ防止措置との違いはどのような点にあるのだろうか。企業が知るべきパワハラの“グレーゾーン”とその対処法について知ろう。
パワハラの概念はどのように生まれたのか

1997年、男女雇用機会均等法によって企業に義務化されたセクハラ防止措置に続き、2020年からはパワハラ防止措置も義務化される。パワハラが問題視され、このたび法制化されるようになった背景には、社会情勢の変化があった。

1964年ごろから日本は高度経済成長時代に入り、バブル経済の崩壊が起こる1990年代まで続いた。高度成長期は働く人がたくさんおり、年功序列型の人事が行われていた。だがバブル崩壊とともに景気は低迷。成果主義が導入されるとともに激しいリストラが断行され、職場における上司からのプレッシャーによってメンタルバランスを崩す若手社会が増加した。

この様な状況下で発売された本が、岡田康子著「許すな! パワーハラスメント」だ。パワーハラスメントという言葉は和製英語であり、それまでパワハラという言葉は存在しなかった。だが、上司からプレッシャーをかけられるという事態はなにも新しく発生したわけではなく、高度経済成長期にもそれ以前にも同様の状況は間違いなく存在しただろう。「パワハラ」という言葉が社会に浸透してくことで言葉が武器化し、問題を可視化しやすくなったことで事例が蓄積され、パワハラ防止措置の法制化へとつながっていった。

本稿では、『現場で役立つ! セクハラパワハラと言わせない部下指導 グレーゾーンのさばき方』などの著書を持つコンサルタント鈴木瑞穂氏のセミナーを元に、企業が取り組まねばならないパワハラ問題とそのグレーゾーン、および対処法についてざっくりとまとめていきたい。

パワハラの定義とは?

パワハラ規制の内容は、労働施策総合推進法の31条の2で示されている。セクハラの規制同様、この法案の対象となるのは事業主だ。厚生労働省2012年パワハラを次のように定義している。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

鈴木氏はこのパワハラの定義を「暗記するくらいじっくり読んでください。それくらい重要です」と説明する。「職務上の地位」、つまり組織における上下関係と、「人間関係などの優位性」、つまり上下関係以外のなんらかの関係、この2つを背景に「業務の適正な範囲を超えて」行われる”強制”がパワハラということになる。これを逆に解釈すると「業務の適正な範囲を超えなければパワハラではない」という言い方ができる。

業務の適正な範囲を超えている具体的な例は、厚生労働省から6類型として上げられている。パワハラにおいてはこれら6つのどれかが客観レベルで含まれている言動が、間違いなく黒といえる“ブラックゾーン”にあたるだろう。
○業務の適正な範囲を超えている例 (6類型)

暴行などの「身体的な攻撃」
暴言などの「精神的な攻撃」
無視などの「人間関係からの切り離し」
実行不可能な仕事の強制などの「過大な要求」
能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」
私的なことに過度に立ち入る「個の侵害」

パワハラ=“強制”することと認識しがちだが、業務の適正な範囲の“強制”はパワハラではない。ここをしっかり押さえておく必要がある。当然「相手がパワハラと感じたらパワハラだと思えば、パワハラになる」わけでもない。業務命令は強制だが、業務を行ううえで必要であり、かつ適正な範囲を超えない指示、注意、指導は相手が不満を感じてもパワハラに該当しない。

パワハラの理解を妨げる誤った解釈は次の2つだ。

強制 = パワハラ
相手がパワハラと言ったらパワハラになる

業務の適正な範囲を越えなければパワハラではないということを理解し、正しい定義を社内に広めることが、パワハラ問題への企業の対処の第一歩といえる。
パワハラグレーゾーンを知る

それでは、6類型に該当しないパワハラの“グレーゾーン”はどのように発生するのか。コミュニケーションスキルの問題もあるが、もっとも大きな発生要因は「業務の適正な範囲」の認識のズレにある。これは価値観の対立や感覚の違いによって起こるもので、企業で問題になるパワハラの大半はこのグレーゾーンだ。

例えば、部内のコミュニケーション向上のためとして、月一回の飲み会の参加を促されたとしよう。もちろん自由参加で費用は会社持ち、アルコールの強制もなし。これがパワハラに当たるかどうかを考えるのはとても難しく、世代や考え方によって判断はさまざまだろう。このようなグレーゾーンこそが、パワハラの裁定の難しさといえる。

これらのブラックゾーングレーゾーンを踏まえたうえで、パワハラ予防の心得は3つにまとめられる。
パワハラの予防法

6類型に該当する行為は行わない
怒りに流された行為はパワハラと思われやすい(「叱る」と「怒る」を考える)
価値観の違う人と働いているということを常に考える

そして、企業がパワハラを裁定するにあたり念頭に置くべきことはただ1つ、「業務の適正な範囲かどうか」だけだ。ただし、適正範囲はやはりケースバイケースの傾向が強い。具体的な対処法としては、関係者による話し合いの場を作りコンセンサスに基づいて結論を作るしかなく、各職場がそれぞれ対処の仕組みを構築していく必要があるだろう。

○セミナーではケーススタディとそれぞれの対処法も

ここまで、2020年4月より義務化がスタートするパワハラ防止措置に備えるための、企業におけるパワハラ問題の判断プロセスと対処法をかいつまんでお伝えした。セミナーでは、さらにパワハラ判断プロセスフローチャート、具体的なケーススタディとその対処方法が語られている。義務化前に、パワハラ防止措置への取り組みについて正しい知見を得たい人事・法務や経営者、管理職のかたは、ぜひセミナーに足を運んでみてほしい。
(加賀章喜)

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